王子殿下はとってもずるいです
それからは、たくさんの高位貴族の方から挨拶を受け、ひたすらに名前と顔を一致させることに精一杯だったが、キリの良いところで私たちは退出をした。
正直、一度にたくさんの方とお会いしたせいで知恵熱を出しそうだ。
控室へ避難した私は、しかし、ウィリアム殿下を問い詰めていた。
「殿下、あれはいつものことなのですか?」
「あれ、とは?」
「あの視線のことです!ウィリアム殿下はこんなに素敵なのに、皆噂を信じてあのような態度!!許せません!!!」
「……へっ?」
ウィリアム殿下はぽっと頬を赤く染め、はにかんでいらっしゃるけれど、残念ながら怒れる私には逆効果だった。
「そもそもどうして殿下は噂をそのままにされているのです?男爵領にまで届くような噂なんて、よく考えたらおかしいですわ!誰がそんなひどい噂を流していらっしゃるの!」
ぷりぷりと腕を組んでそっぽを向くと、向かいのソファに座っていた殿下が隣へと移動してきた。
そして、そっと私の肩を抱いて、背中に額をぐりぐりと擦り付ける。
「だめだ、可愛すぎる……。」
「ちょっ!……えっ!!!」
今の状況を冷静になって分析し、私の鼓動は信じられないほど早鐘を打った。
顔もあっという間に真っ赤である。
「あの噂はね、第一王子派の貴族が流しているんだよ。それを本気で信じている人たちも多いから、どんどん拡散するんだ。だから今日は離れないようにと思っていた。私としてはどうでも良いから放置してきたけど、スーザンがこうして怒ってくれるなら何とかしようかな。」
そう言ってこちらを見つめてくる殿下の瞳はとても甘い。
目を離せずに固まっていると、殿下は微笑みながら私の額に口付けを落とした。
あまりのことに逆上せてしまった私は、「仕方ないけど兄上とも決着をつけないとね」という殿下の言葉を聞きそびれてしまった。
◇ ◆ ◇ ◆
婚約発表から三か月。
私はお妃教育に勤しんでいた。
殿下はこれまで以上にお忙しいらしく、王都にいらっしゃらないことも増えた。
相変わらず侍女やメイド、教師たちは有能かつ優しくて、私は快適な王城ライフを送っている。
月に一度だけは、王族の皆さんとの晩餐会が開かれる。
そこには必ず殿下も参加をしてくださるけれど、王妃殿下やレオナルド殿下、ミモザ様の嫌味はどんどんとエスカレートしていった。
それに対して、的確に打ち返していくウィリアム殿下はかっこよく、素敵だった。
ちなみに、国王陛下はそれをじーっと品定めするよう顔で見つめているだけだ。
今夜はその晩餐会が予定されているので、王族は今日も王城に全員集合である。
朝から侍女たちに磨きあげられた私は、久しぶりにウィリアム殿下と一緒に午後のお茶を飲んでいた。
「スー、今日もとても似合ってるよ。」
「ありがとうございます、ウィル様。」
あ、ちなみにこの三ヶ月で、私たちはあだ名で呼び合うようになった。
優雅にお茶を飲んでいらっしゃるウィル様は、少しお疲れなのか目の下に隈ができている。
「今日の晩餐前に陛下たちに謁見の時間をもらったんだ。スーにも着いてきてもらいたいんだけど。」
「はい、もちろんです。」
「ありがとう。今日の謁見が上手くいけば、しばらくゆっくり出来そうなんだ。そしたら、アボット男爵領に遊びに行こうか。」
「本当ですか!嬉しいです!」
何のための謁見なのかは分からないけれど、ウィル様が休めるならば安心だ。
今は秋の果物や野菜、きのこ類が旬なので、男爵領に遊びに行けるのも楽しみである。
「スーの笑顔を見られるなら、頑張った甲斐があった。」
私を見つめるウィル様の視線が途端に甘くなる。
その視線に縫い止められてどきどきしていると、ウィル様はそっと私の頭を撫でた。
「私はもう少し詰めなければならないことがあるから、また夕方迎えに来るよ。それまで待っていて?」
額に口付けを落として、ウィル様は部屋を出ていった。
この後、私がソファの上で悶絶したことは、言うまでもない。
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