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貴族らしい人って好きになれません

 ウィリアム殿下にエスコートされて会場に入ると、たくさんの貴族が拍手をしながら迎え入れてくれた。


 出席者のリストは事前に暗記をしてきたのでお名前は頭に入ってはいるけれど、招待されているのは伯爵家以上の上位貴族ばかり。

 そのため、片田舎の男爵令嬢である私が顔を知っている貴族は全くの皆無だ。


 覚悟はしていたが、この人数。今日中に顔と名前を一致させるのは無理そうね。

 そう思いつつ、失礼でない程度に周囲を見回していた私は、違和感を覚えて目を瞬かせた。


 招待客の半数、あるいはそれよりも多い人数が、こちらを睨むような視線を送っている。

 手は拍手をしているけれど、視線は刺すように鋭いのだ。


 一体どういうことかと観察をしていると、この視線は私ではなくてウィリアム殿下に注がれていることに気がついた。


 一方のウィリアム殿下は、そんな視線など全く意に介さずに、穏やかな微笑を浮かべて真っ直ぐに前を見つめている。

 私が見ていることに気がついたのか、殿下は私に顔を向けると、ふわりと笑顔を見せた。


 きっと、睨んでいるのは殿下の噂を信じている人たちなのだろう。

 そして、これまで殿下はひとりでこの視線に晒されて生きてきたのだ。

 こんな視線を浴び続けているのに、何でもないようにしている殿下の様子に胸がちくりと痛んだ。


 私は殿下の味方でいよう。


 そう思い、私は殿下の腕に回している指にぎゅっと力を込めた。


 貴族たちの波を抜けると、ようやく国王陛下と王妃殿下の元へとたどり着いた。

 ウィリアム殿下と同じアメジスト色の瞳に、淡い金髪の国王陛下は柔和な笑みを浮かべて声をかけてくれた。

 その隣で、微笑みを浮かべているピンクゴールドの髪の美女が王妃殿下だ。


 私は、この王妃殿下が苦手だった。


 王妃殿下にお会いするのは今日が二度目だけれど、こちらを見る微笑みの中には侮蔑と嫌悪の色が滲んでいる。


 実は、ウィリアム殿下と王妃殿下に血の繋がりはない。

 王妃殿下はもともと側室で、ウィリアム殿下のお母様が正妃を務めていらっしゃったのだ。

 しかし、不幸な事故によりウィリアム殿下のお母様はお亡くなりになり、それと同時に側室であった王妃殿下が正妃になったと聞いている。


 第一王子であるレオナルド殿下は、王妃殿下がお産みになったため、ふたりは異母兄弟だ。


 年齢はレオナルド殿下が半年だけ年上なだけであるけれど、ウィリアム殿下が王位を継承するつもりはないと表明しているために、近いうちに王太子になるのではないかと言われていた。


 王妃殿下は伯爵家の生まれではあるものの、宰相であるフェニクシュ侯爵の従妹でもある。


 そのため、第二王子であるウィリアム殿下は息子の立ち位置を脅かす可能性のある嫌悪の対象で、男爵令嬢の私のことも出自や後ろ盾がしっかりしていないために蔑視の対象のようだった。


「第二王子ウィリアム・キングディアと、スーザン・アボット嬢との婚約を宣言する。皆、本日は良く飲み、良く食べ、ゆっくりと過ごされよ。」


 国王陛下の言葉に、訪れていた貴族たちは大きな拍手を送る。

 私とウィリアム殿下は、拍手を浴びながら優雅にお辞儀をして、それを謹んで受け取った。


 それから私たちは、第一王子であるレオナルド殿下のもとへご挨拶に向かった。

 レオナルド殿下はピンク掛かった金髪にアメジスト色の瞳を持ち、すらりとした美男子である。

 今日は婚約者であるミモザ様を連れていらっしゃった。


 ミモザ様は宰相であるフェニクシュ侯爵の娘だ。

 つまり、レオナルド殿下とは又従妹(はとこ)に当たる。


 レオナルド殿下とは一度だけ夕食をご一緒したことがあるだけだが、その際には母である王妃殿下と同じような目をこちらに向けていた。

 ミモザ様とは今日が初対面だ。


 そして、現在もレオナルド殿下とミモザ様から注がれる視線は冷たい。

 特にミモザ様はそれを隠そうともしていなかった。


「アボット男爵領といえば、西の辺境だったかしら?ご令嬢がひとりいらっしゃるとは聞いていたけれど、それは本当にあなたなの?」

「はい、ミモザ様。アボット男爵が娘、スーザンでございます。」

「そう。ごめんなさいね。ほら、()()()()()噂があるでしょう?だからあなたが本当に貴族なのか心配になってしまって。」


 そう言ってミモザ様は儚げな表情を浮かべているが、つまりは私がウィリアム殿下が市井で手籠めにしてきた平民に見える、と嫌味を言ってきたのだ。

 私のことはいいけれど、ウィリアム殿下のことをこうして平然と貶めるような発言は許せない。


 怒りをふつふつと大きくさせていると、ウィリアム殿下が私の腕をぽんぽんと優しく叩いてから、ミモザ様に向き直った。


「ミモザ嬢、私の可愛い婚約者を貶めるような発言はお控えください。兄上、ご自分の婚約者くらいきちんと止めてください。」

「ウィリアム、何を勘違いしているのか分からないが、ミモザが言っていただろう。彼女は心配をしただけだ。」


 けろりと言ってみせたレオナルド殿下は、私へ馬鹿にしたような視線を送る。


「ほう…?そちらがそのつもりなら結構です。よ~く分かりました。私たちはまだ挨拶がありますので、こちらで失礼します。」


 それに対し、ウィリアム殿下はとても良い笑顔で言い放った。

 笑顔なのに、周囲の温度が数度下がった気がする。


 その証拠に、ミモザ様は顔を引き攣らせてふるりと震えていらっしゃるし、レオナルド殿下は少し驚いたような表情を浮かべていらっしゃる。


 しかし、それをしっかり確認する間もなく、私はウィリアム殿下に腰を抱かれてその場を後にした。

お読みいただきありがとうございます!

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