レルアン・ブリタ13世、異世界人を召喚して一週間経ち
ユリとカズヤ、二人を召喚して一週間たった
その間、謁見の間にて、大臣達を招集…当然だが、全員困惑した、全く異なる世界からの異世界人という存在
「嘘ではないか」「このような素性も、品も知れない人間が?」「魔術も使いない不能者が?」
まあまあ、言いたい放題いう大臣達もいる…特に不能者と言った者は強く睨みつけ、黙り込ませた
言いたいことはわかるし、信じられないというはわからなくもない話だ。そして僕はこの二人をブリタ王国のフォーミュラナイトとして、扱うことも大反対する者が大多数であった。いくら結果と実力を示しても
だが、"青き竜"のことを引き合いだしたことで、賛成派と反対派の半々に分かれた。このブリタ王国には、青き竜の存在は絶対である、結局、強引に半分の反対派を押し通し、ユリとカズヤを迎え入れることになった
その後、ユリの見解で、ユリ達の世界は言ってしまえば"科学の世界"であり、我々の世界は”魔法の世界”
”科学”定義として、様々あるらしいく、間違っている解釈でもあるが、魔法や未知だと思われていた力を、人の知恵が、わかりやすい形に定義し、解明してしまう力というのがユリなりに、僕達にわかりやすくしたものだ
そして、もっと大きく異なるのは、異世界にはマナが存在しない、だから魔法と魔術が発展どころか存在、概念自体がないに等しく、幻か伝説のお伽話の存在でしかないとのこと
異なる部分があれば、共通する部分もある。言語である
ユリ曰く、異世界には6000以上の言語あるが、我々の会話で使用されている言語、帝国言語は異世界では、英語と呼ばれるらしく、差異は殆どないのだ…ちなみに彼の本来の母国語は日本語らしい
ユリは、このリィサースについてもっと詳しく知る必要があるということで、書籍が大量にあるビルダの研究所に籠り、書籍や文献からリィサースの歴史や、魔法について調査、対称にカズヤはブリタ王国の街並みを見て回ってるいるそうだ。ある程度は読み書きは出来るものの、ユリの方がそういうのに適任だとか…それから一週間たったのだ
執務室にて、ブリタ王国の第一王子、レルアン・ブリタは現在父上に代わって様々な執務が仕事となっている。父上はご年齢と、病がちである
とは言え、リィサースグランプリの前哨戦であるキャスタメットグランプリに向け、マシン開発と指揮官としての責務もある為、重要なこと以外は大臣や側近達に任せているのが現状である
そして、このまとめられた大量の書類、報告書を目を通すことが重要責務であった。ユリが書き上げた報告書である
側近である、シグト・ニシナ。彼と共に報告書を読む
「僅か一週間でここまでの報告書を上げてくるとはな…要所要所を読んだが、ますます凄いな異世界は…!」
報告書は、リィサースと異世界の差異について、そして異世界の4輪のレースマシンやそれに関連する技術によるものだ
それまでのFMマシンとは異なる技術系統に、形状とスペックが詳細に書かれていた、あくまでもユリの記憶にあるものだが…彼女の記憶力に脱帽する程、明確にマシンの絵が描かれているのだ
「なんというか…無骨で装飾のない味気のないデザインな気もしますが。無駄がないんでしょうね」
シグトも、異世界のマシンの形状に関心を示していた。彼が僕の執務の代行をやれる程の手腕を持つ僕の右腕たる存在
無論FMマシンについてもある程度は知識のある、博識な者である
「このF1マシンやGTマシンとやらも、速く走る為の機能美たる形だ…我々の魔導マシンは華々しさも考慮して考えた装飾をするがな」
「燃料も、動力源と動力装置構造も異なりますね…あちらは液体燃料?を爆発させることで上下運動で動かしていますが」
「異世界ではレシプロエンジンと呼ぶらしい、そして我々の動力装置の原理はロータリーエンジンと呼ばれ、あちらの世界でも一部のマシンに搭載されていたことがあったらしいな」
「ですが、我々との世界の決定的な違い…彼の世界は金属を使う、我々の技術の根本的な違いがそれですね」
カズヤの右腕と両足で察していたが、彼らは金属を加工する術と技術を有している。このリィサースでは有り得ないのだ
金属、非常に硬く、磨けば鈍い銀色であるが…魔法と魔術の力を弾いてしまう欠点がある
日常的に魔法と魔術を使う者にとっては、不必要な存在ではある。いい所、魔除けや死霊にならないように、死者に手向けた棺桶として使われることがあっても、FMマシンのようなモノに使うことはない
魔導マシン、FMマシンの材料は、魔獣や幻獣の骨や皮、鉱石や結晶が素材である
その素材の差が、異世界のマシンとの決定的な性能的な違いを生み出しているらしい
「ユリ達の世界のレースでは、ドリフト走行は主流でない…だとすれば」
ふと、ある案を思い浮かべるが…
「シグト、ブリタ王都内で、鉄加工の職人はどのぐらいいたか?」
「王都内ですと、数人程ですが…こういう細かな部品を作るような設備はないかと、それにユリの報告書を見る限り、仮に出来たしても精度を怪しいというの書かれてますね」
「基本的に、棺桶屋だからな…それに、金属で造ればデメリットもあるか」
そう簡単にはいかないかと思いながら、腰を降ろす。もし異世界のマシンを作ることが出来れば他国のFMマシン、グランプリで圧倒的なアドバンテージになると思っていたが、現実はそう上手くはいかないか
興奮から冷めると…読み疲れだろう、一気に疲労が襲う。何せ数時間ぶっ通しで呼んだからだ
シグトは紅茶を入れながら、あることを聞く
「レルアン様、彼らをフォーミュラナイトとして扱うの本気なのですか?」
「そうだな…ルナのことか?」
ブリタ王国が誇る、フォーミュラナイト、ルナ・マリナ。彼女の立場を考えればユリとカズヤの存在は自らの存在意義を危ぶまれるからだ
彼女はフォーミュラナイトになる為に、厳しい訓練を積んできたの知っているが
「FMマシンの操る能力関して言えば完全にユリ達が上なのは目に見える程明らかだ、ルナに魔術の優位性があったとしてもそれを覆せない程だ…魂継ぎの儀式が成功していればな…」
「それに見合う、異世界人の召喚がありましたけどね…高いFMマシンを操る能力を持ち、異世界の技術の知識をもつ…魂継ぎの儀式では、異界の魂が記憶しているマシンを操る技量を受け継ぐことが出来ても、知識は受け継ぐことはなかった…得るものがあり、それを活かせるかはレルアン様と我々次第ですが…」
「正直、良くない流れだと思っている。ルナとしては"ブリタ王国のフォーミュラナイトを降ろされてしまうのではないか"という不安はあるだろう。そういう不穏な噂話はいくつか聞いているしな」
「…ご存じでしたか」
ユリとカズヤの存在を疑う者達、そしてこのレルアン・ブリタに対して懐疑的な連中も多い。悪い噂の出処はそこだろう
「レルアン様は、ルナの扱いをどうするつもりですか?」
「どうしたものかと思っている…ユリとカズヤは実力はあるが、知り合って日が浅く上に、彼らの身の上についてもよくわからない…というより、あまり話したがらないようだしな」
「不審と思われても仕方ないと思われますからね。異世界から来たのなら、帰りたいという気持ちがあってもおかしくない筈なんですが、彼らにはその気が全くない。『ブリタ王国のスパイに来たのではないかと?』という疑いがあっても仕方ない気もしますけどね」
「こっちとしては、有難い話ではあるがな…帰す手段が皆無な状況、そういうことで責められることはないだけはな…彼らは、異世界に未練がないだけじゃないか?」
ユリと仲の良くなったビルダや、カズヤに付けている付き人も良好な関係を築いているようだが、彼らの素性に関しては、上手く聞き出せていないということだ
ただし、彼らの世界に関して言えば、いい思い出がないとのことみたいなことは聞いているが
ただ、信頼するには値するとのことだが…ルナは、彼らに対しては険悪というか…特にカズヤ。彼に聖剣を叩き折られているからだ
「レルアン様、早急に手を打たなければ、良くないことが起きるかと…」
シグトが言い切る前に、執務室の扉が勢いよく開く
「お、お兄様!!大変です!!ルナとユリが決闘を!!」
研究所から大急ぎで来たのか、ビルダは息を切らせていた
そう、既に手遅れだったのだ