レルアン・ブリタ13世、異世界人をフォーミュラマドマシンに乗せる
「わー…ホントにお伽話の街並みだ!中世ヨーロッパの文化と建築法ね…でも、所々違いがあるわね」
トレーラーがブリタ王都内に入ると、窓から見えるブリタ王都の建造物に興味深々となるユリ。ホントこの異世界人なんでも興味を持つな
「確かに、ホントにファンタジーの世界に来たみたい…あの大きいお城とかも、こっちにはないからなー。博識な姉さんにとっては、刺激的じゃないかな?」
「今すぐ降りて、色々見て回りたい」
「それは困るから、やめてくれ二人とも」
二人とも渋々、返事をして、座席に大人しく座る
「しかし、レルアン様…どうしたものですか、魂継ぎの儀式は失敗した以上…キャスタメットグランプリは…私も自分の力には自信がありますが」
「他国の魂継ぎの儀式を成功させたフォーミュラナイト相手だと、マシンスペックが互角であっても厳しいか…父上と大臣達にどう説明したものかと、ホントに頭を抱えているよ…ユリとカズヤの件は、青き竜に約束された以上、なんとかなるがな…」
ルナと共、頭を抱えている問題にお互いにため息が出る。そしてその会話にユリは興味を持ったのか
「ねえ、色々気になるワードが出てるけど…そのキャスタメットグランプリって、もしかしてそのフォーミュラマシンみたいなやつで速さを競うってこと?」
「FMマシンだ。その通りだ」
不機嫌そうに答えるルナ、彼女に投げ飛ばされたことをまだ気にかけているのかな
でも、そのぶっきらぼうな返答されたことに気にかけずにユリは続ける
「良ければ事情を聞かせてもらえないかしら?」
「貴様らには関係のない話だ」
話に入れされないようにするルナだが、ユリの行動とカズヤの言葉で思い出す…もしや彼らの世界には?
「待てルナ…ユリ、君たちの世界にもFMマシンに該当する…魔導マシンに近い存在があるのか?そして、君たちはそれに詳しいのか?」
「そうね…詳しいというよりは、私とカズヤはその為だけに生み出された…いや、この話は関係ないか。あるわよ、私達は大衆が操作できるような自動車と呼ばれて、競技用がレーシングカー、GTカーとかフォーミュラマシンとか競技の種類によって多彩と、レギュレーションによる様々な競技カテゴリーがある…名称をあげるとキリがないけど、私達の世界じゃ、動力源を使うものはモータースポーツ…中でも4輪車両を扱うのはカーレースか、オートレースと呼ばれるわ」
城に着くまでの間、ユリの話を聞いたが…どうやら、ユリ達の世界にもFMマシンと同様に、速さを競うマシンがあることと、それ以外にカテゴリーによって異なる多彩な競技があること…そして信じられないことに、ユリ達の世界のマシンは魔力を動力していないということと、そして動力の構造も異なる…というより、原理自体は存在はし、実用されていたが…技術進歩しなかった為に、廃れかけているとのことだ
言葉は通じるのに、ここまで常識と文明が違うものなのか…
そして、ユリとカズヤは、そのモータースポーツ競技の英才教育を受けていたとのことだ
ここで、ある興味が湧いてきたのだ…この二人に、FMマシンの全開走行、そしてフォーミュラナイトであるルナの実力は、異世界人である二人はどういう評価をするのか
行き先を変更し、ある場所に向かった
ブリタ王都内 サーキット場
ルナが操るフィルバインが駆けぬける。ホームストレートから、バーニアの追加速させ、ドリフトでコーナーを流していく
バーニアドライブは、ユリはやはりという表情、カズヤは驚いていたが…コーナリング時に首をかしげていた、何故か
「どうだいユリ?」
「確かにバーニアドライブでしたっけ?あの追加速は凄いけど…なんでドリフトなの?」
「??いや、あの速度で曲がるなら、ドリフト以外の方法じゃ曲がれないだろ?」
その回答で、ユリとカズヤは驚いた様子だった
「ちょっと待て…君たちの世界じゃ、ドリフトで曲がらないのか!?」
「いや、確かにコーナリング手段としてはあるけど…速さを競うカテゴリーだと、遅くなるから使うことはないわ。あの速度域ならグリップを効かせて、最適なライン取りをして走った方が遥かに早いんだけど…」
「というか、限界ギリギリのスライドはあっても、とてもじゃないけどドリフトなんて出来るような仕様にはなってないしな…」
驚きしかない、ホントに常識外れすぎて信じられない程に。ユリ達の世界のマシンは、それ程コーナリング性能が高いと言うのか?
「…形状的にフツーグリップ走行でコーナリング出来るように見えるけど」
「というより、マシンの構成がなんというか生物的というか、バイオ?オーガニック的な?オーラなバトラーと、サイバーなフォーミュラマシンか、ミニ四駆をデカいサイズにしたモノが融合した感じだなかな?」
「古い作品の例えだけど、割と的に得ているわねカズヤ…しかし、タイヤの性能?いや、それも違う気がするけど、何だろう?足回り?いっそう、動かしてみればねぇ」
どうやら、ユリはフォルバインを動かしたいようだが…それは叶わない、何故なら
「魔術が使えない者じゃ、マシンは起動はできないからな…」
魔導マシンとFMマシンは、多少の魔術の心得があれば、起動と維持さえ出来れば動かせる。周囲のマナを吸引し、動力源送り、各駆動部に動力を伝えるのだが…
魔法と魔術に無縁のユリには、起動も維持も出来ないと思ったが…
「いいえ、お兄様。高い魔力さえあれば、後は認識の問題かと」
話に割って入ってきたのは、ビルダだ
「お、美人さん!」「お、またエルフ耳だ!」
ビルダを見て、二人ともそれぞれの反応である。確かに贔屓目なしで、美人であるが
「ビルダ…どうしてここに?風の魔術で事情は伝達してはいたが、レース場に来るまでは伝えていなかった筈だが?」
というか、好奇心で完全に忘れていた
「ええ、先程まで研究所に籠っていましたが、強い魔力の反応をしたもので…なるほど、そのお二方が異世界の人ですか。初めまして、ブリタ王国第一王女、ビルダ・ブリタと申します、以後、お見知りおきを」
「どうも、オレはヤギュウカズヤ。よろしく美人な王女様」
「私はヤギュウユリ。ビルダさん、先程のお話、私もあのフィルバインを動かせるのかしら?」
「ええ、お兄様は気づいていないようですが…お二人とも、とんでもない魔力を秘めています。カズヤ様に至っては桁が違う…ここから離れた研究所で気づくほどにね」
ビルダは王宮魔術師であり、魔力と魔術に関して言えば僕より遥かに強く、そして敏感である。そういえば青き竜も生命力に溢れるということも言っていたが、生命力の強さは魔力の強さである
ということは、つまり…
「早速、乗ってみましょうか二人とも。私も、こんな魔力に溢れる人間がフォルバインを動かせば、どうなるか楽しみで…うふふ」
ビルダも同じく、素性の知らない相手という不安より、好奇心が勝ったのか
ルナが乗っていたモノと、もう一台をガレージから出し、2台のフォルバインをグリットラインに並べ、二人を乗せる
「アクセルとブレーキとクラッチペダル…そしてHパターン系のシフトか、操作方法は私達の世界と同様か」
「サイドブレーキも付いて…メーターは原始的なデジタルが2種類?マイルとキロ標記か?OKOK」
二人ともフォルバインの操縦席で、それぞれ操作方法を確かめているようだが、会話から察すると、どうにもユリ達と操作系統は同じようだ
「それで、どうやって起動させるのかしら?ビルダさん」
「イグニッションスイッチとかないけど…」
「二人とも、意識を集中して、ハンドルに魔力…そうね、何か力を流し込むようなそんなイメージを沸かせて…目を閉じて、体にある力を認識させて、それを流し込む」
二人は、ビルダの言う通りに目を閉じて、集中していた
しばらく沈黙が続いた、通常ならすんなりかかるが…やはりダメか?そう思った瞬間にユリのフォルバインから動力が回る音がし、起動し、遅れながらカズヤの方も同様に起動する
「お!!成功だ!!やったー!!」
喜びのビルダ
「し、信じられない…魔術の概念もわからない者が」
目の前の光景を信じられないルナ、周りのルナと同様か似た反応であった
「えーと…なるほど、こういうことかな?」
何かコツを掴んだのか、ユリはコクピットキャノピーを閉める
「?どうやったんだ姉さん?そんな開閉スイッチなんてあったっけ?」
カズヤはパネル周りをちょろちょろ見渡すが、そんなものはないが…
「もしかして、意識するとか?」
察したのか、カズヤも続けてコクピットキャノピーを閉めることに成功する
「凄い二人とも、魔術の心得も無しに動かすなんて!!さあ!走らせて頂戴!!」
「いやいやちょっと待てビルダ!?彼はまだマシンこととかよくわかっていな…」
止める間もなく、2台のフォルバインが走り出した…しかもスタートのクラッチミートは完璧であった
この走り出しの時点で、彼らの実力を察してしまった
スタートから走り始めはぎこちない動きをしていたが、半分ぐらいになると完璧なドリフトでコーナリングしていく2台の姿が、そこにあった
そう、その走りはまさに圧巻であった。とてもいつもルナが走らせているフォルバインとは全く異なる次元の走り、異様なまでにコーナリングが速く感じる
ビルダも2台のタイムを計測時始めたが…僅か2周目でルナのラップタイムを抜いたのだ
この場にいる者、全員が気付く、いや理解させられる…その走りにとマシンの動かす様に…このブリタ王国で最も速いフォーミュラナイトが現れた事実
それは、僕も同じであった…この二人がいれば、キャスタメットグランプリどころか、リィサースグランプリすら制覇できると
数時間前まで、消えかけていた己の野心に、再び灯が付いたのだ…まるで爆発したかのように