レルアン・ブリタ13世、異世界人に事情を話す
儀式の島から、ワイバーンを使って海を越えてブリタ諸島郊外、船着場
船着場で待っていた衛兵達は、驚いていた。何せ素性の知れない二人と、騎士であるルナは気絶したまま、カズヤに背負っていたのだから
なんとか衛兵達を説得し、彼らを城に連れて行くことになった道中、ユリと共に情報整理を行う
FMマシンに繋げた、トレーラーに揺られながら、意外と互いに冷静なのだ
「空飛ぶ竜とか、見せつけられれば認めざる得ないし、私たちはあんな動物もいないし、こんな機械も見たことも聞いたことがない…それに、魔法?魔術?そんなお伽話のような力とか概念なんて、私達にとってはフィクションの創作物ぐらいのモノという認識ね」
「…魔術を知らないというのは信じられないのだが…あなた方の服装…そしてその金属の腕…あまりにも価値観が違いすぎる、非常識、あまりにも…そして儀式の理論を考えれば…」
魂継ぎの儀式は、異なる世界、異界から魂を呼び出すが…だがこんな事例はないから信じられなかったが、あの時の異様な反応は、そう結論付けるしかない
「僕は…あなた達を召喚してしまった…」
再び血の気が引いた、もう顔が真っ青になっていると思う…異なる世界、異世界からの召喚の魔術は確立されていないし、そんな論文や文献も伝承すらない…研究はされている程度で何一つ成功事例はない、せいぜい魂を呼び出すだけだ
召喚術が確立されていないということは、つまり、還す方法…返還術も確立されていない
事故とは言え、一方的に呼び出したユリ達を帰る方法ないなんて言えない…彼女の顔をとてもじゃないが見れない、先ほどのマウントポジションのこともある…殺されると思った…
魔術に自信があるが、このユリも、カズヤも只者ではないのは武に秀でていない僕てもわかる
「…レルアンさんだっけ?なんとなく、察したけど…私達は帰ることが出来ないということかしらね?」
思わず、体をビクッと…動いてしまう…冷汗が止まらない
「図星ね。そうか…出来るならとっくに帰しているわね…そんなに罪悪感を感じるぐらいだもの」
「え?」
意外な反応と返答に、思わずに間抜けな返事をしてしまう…一応、僕は王子なのだが
「頬つねっても目を覚めないし…カズヤも目の間にいる以上、現実を受け止めないとね」
「い、意外だな…なんというか、こう…もっと怒るとか、現状を受け入れないというか…」
「いや実は…さっきから物凄く気になって気になって仕方のない好奇心が勝っていて…それでなんとか平静を保っているというか…もう我慢できない!!」
ユリは僕の両腕をガシッと強く握る
「ひぃ!?」
「レルアンさん!あの車について教えて!!何をどういう原理で動いているんですか!!あのシルエットいい、形状!競技用ですよね!?それに後部についているアレは何かの推進バーニアとかですか!!?」
「ちょ、ちょっと近い近い!?」
ユリは、宝石のような瞳を輝せながら、FMマシンに指を指す。フォルバイン以前に開発した、サィルバインに興味を示したようだが…この食いつきようは異常である
「あ~…姉さんの悪い癖が出たけど、オレも気になりますレルアンさん。あのフォーミュラカーみたいなレーシングマシンは」
「フォーミュラ!?君たちの世界にも、FMマシンがあるのか!?」
フォーミュラの単語で、共通するものがあるのかとこちらも興味を持った瞬間
トレーラーが急に止まり、体勢を崩してしまう
「どうした!?」
と、サィルバインの搭乗者が答える前に勘づく、強い魔力が肌で感じる程に…
「レ、レルアン様!竜が…青き竜が目の前に!!」
「青き竜が何故!?」
あまりにも唐突過ぎる役者に、今の状態に気づかない程驚いていた…
「えーと…レルアンさん?」
「??どうしたユリ…って、あ…」
右手は、柔らかく、大きなたわわなモノを掴んでいた…ユリの胸を…
ユリは顔を真っ赤にして
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
その動作は早かった。胸を掴んでいた僕の腕を掴むと、どういう武術なのかわからない方法で拘束された
「ぎゃぁぁぁ!!???」
それも、もの凄い激痛で体の関節が悲鳴を上げてるような痛みだ、腕が曲がっていけない方向に曲がっているのがわかる
先ほどの振動と、僕の悲鳴で、気絶していたルナが目を覚ます
目の前に、えらいことになっているブリタ王国の王子と、先ほど自分を投げ飛ばした相手という光景
体の騎士としての役目が反応する
「き、貴様!?レルアン様になにぉぉぉ!?」
ややこしい状況になることを察したのか、カズヤはルナの身柄を確保する
「待ってくれ騎士さん」
「ちょおま!?私は猫じゃないんだぞ!?降ろせ!!」
まるで、猫を掴むかのように軽々とルナを持ち上げるカズヤ
「姉さんステイ、落ち着いてよ。普段はそんなに女のような反応しないのに…何がきゃぁぁぁだよ」
カズヤの言葉に冷静になったのか、僕の拘束を解くユリ…どうやら腕は折れてないらしい
「う、うるさいわね…ちょっと驚いただけよ」
「ちょっと驚いた女の人は、関節は極めないよ」
〈ほぉ…その強い生命力を感じさせる者は、"カズヤ"と申すのか?変わった名前だな?〉
頭の中に、直接声がする。僕とルナは経験はあるが、ユリとカズヤは驚いていた
「な、なんだ!?頭の中に語りかけられたような…」
〈頭に語りかけているのだよ、窓を見よ〉
言われた通りにトレーラーの窓を見ると、金色で蛇の瞳のような大きな眼が、こちらを見ていた
「うぉい!?なんだなんだ!?」
〈ふむ?我の姿を見て驚くとは…お主はこの地に来たものではないな?…まあよい、表に出よ〉
完全に呆気にとられる二人、ワイバーンも見たことがないとすれば、ドラゴンも彼らの世界にいるとは思えない…だが、この青き竜の登場は僕たちも予想外なのだ、こちらの見てくる彼らに、僕も返答出来ないが、彼ら、ドラゴンの習性は知っている
「あ、青き竜が…なぜここに…レ、レルアン様?ま、まさか…」
「そのまさかだと思うルナ…決闘だ、青き竜は決闘しに来たんだ…!!」
トレーラーから降りて、青き竜の目の前に立つ、その青き巨体と迫力…知っていても圧迫される、護衛の衛兵は勿論だが、ルナですら震えている…のだが、肝心の二人は
「すげぇーデケェ…」
「どういう生態なのか、気になるわね…」
カズヤはなんというか、さほど怖がっていないし、ユリは興味深々らしい
〈我が前に立って、さほど驚かないとはな…ユリも大した生命力だが、カズヤ、貴様は桁違いなモノを感じる〉
「そりゃどうもドラゴンさん」
〈それに、人間共が忌避する金属を身に纏うとは…実に面白い、貴様は勇者たるか、試させてもらうぞ!!〉
青き竜は、その巨体と翼を広げ、咆哮をあげる。周囲の森林と草木が激しく揺れる
衛兵とルナは、僕は尻餅をつく…が
「おお!!あの翼で飛ぶの!?飛ぶの!?」
「ちょ、姉さん下がって、どうやらオレの方に用があるみたいだから」
興味深々なユリを、無理矢理引きずって、僕たちの方に預ける
「レルアンさん、そんな訳で姉さんをよろしく」
「い、いや、カズヤ…君は青き竜が怖くないのか?」
「うーん…」
しばらく返答を考えた後
「まあ、少し無茶すればなんとかなりそうな気もする。こっちに来てから、すこぶる体の調子がいいと言うか…全力でやっても問題ない相手そうだし」
…異世界の人間は、こんな奴らばっかりなのか?ドラゴンを前に、怖気付かない勇者だと言うのか
「それに、どのみち要求に応えないと、この先から進ませて貰えなさそう」
「それはそうだが…」
銀色の腕が、まるで勇者の剣のように見違える…青き竜の前に、対峙するカズヤが