エロス走れ
エロスは走らない。走れない。オーガズムを感じなくなったから。
エロスを想像できなくなる位男としての自信を打ち砕いたから。
只、下半身が隆起するだけ。現実の光景の中に想起する景色も沸いてはこない。
縁もゆかりも無いもの等に興味すら湧かない。
きっと旅が必要なのでしょう。異国への旅が。
最早、別天地にしか希望は無いのかもしれない。
2次元も3次元も越えた世界に旅立ったなければならない。
水面に映る景色にエロスを感じても、水深くに思いを馳せない。
最早、現代に希望を見出だせない。異次元に行かねば為らない。
最早、私という媒体を介した映像にそそる景色は蔓延らない
蚊帳の中に横たわる女にしか欲情しない
窓辺の木漏れ日に映る裸体にしか想起する水面はない
尻尾の揺れる様にしか胸の調律は震わない
シシャモを口に加えた舌先にしか興味を持てない
親指と小指の穴の空いた靴下にしか認めれない
西瓜をなで回しさする手の動作にしかハレンチを起こさない
酔ってはだけた酒瓶にしか唾液は移せない
耳元に囁く声が生暖かく木霊するかまくらでしか耳は染まらない
もう若かりし頃には戻れない
現実というファクターを無視することも取っ払うことも追い出すことも追い抜くことも出来ない
春画を頭の中で想起する筋力も腕力も努力もなけなしに乏しい
遠い気配にしか感じられないエロスに注ぐ体力は虚しさが啄んでいく
大人に為ってしまった。するより前に想像し、するより前に挫折する詰まらない大人に為ってしまった。
虚しさが常に先行して前途は阻まれる。
水面に映る雲間の襞に注ぐ御足を舐め回す
プールサイドに腰掛ける濡れた背中と髪の毛先、水しぶきの中に照らされた白い足先に頬づえする
毛むくじゃらの体毛の一角だけ毛がないことに対して何処にエロスを感じるかももう分からない
想像力は既視感に殺されて羽が生えた少女も、隣で添い寝するまだ見ぬ君ももういない
最早、言葉に意味はない。言葉に価値はない。言外がエロス
語れぬものこそエロス。見ているものにエロスはない。浮かぶものがエロス
風船が膨れゆく様を想像することがエロス
プールの水の中に無数に漂う色とりどりの風船の中、向こうから泳いでくる水着姿の君と僕の境界線にあるものがエロス
風船と風船の間に映る君の姿、そこに写らぬ君の姿、それこそがエロス
一瞬、微笑みかけてすぐに風船の中に消えた君の残像を思い馳せるエロス
草原で草むらの中君を見失うこと、かき分けて追いかける瞬間、見付けた時の喜び合った、笑い合った顔。
カーテン越しに隠れた君を二人だけの世界のカーテンの中に入って探すこと、二人だけの合瀬を子供のように見つめ合って
エロス堕つ。ついぞ、羽は夢想して千切れ飛んだ。