嫁に出す娘:なんでも吐き出す女の子
「うっぷ、おぇぇぇ……」
止めどなく溢れる嘔吐物が、便器の中へと落ちていく。
一階女子トイレの、入って左側の一番手前の個室。そこが私、小枝芽生の定位置。
念のために言っておくけれど、私は拒食症とかではない。下の管より上の管からの方がよくモノが出るだけの、普通の中学一年生だ。一般的にトイレに行ったら用事は大抵「大」か「小」。私はそれがほとんどない代わりに「吐」になっているだけ。休み時間は大体トイレで吐いて過ごしている。そろそろ「トイレの番人」なんて呼ばれてもおかしくない。……うっ、また気持ち悪くなってきた……。おろろろろろろ。
昔から、私は吐きやすい。物理的なものに限らず。
この学校に入学して初めて学食に行った時もそうだった。食器を返却しにきた私がお盆に載せていた長芋の煮っ転がしの食器を見て、それを作ったらしいお姉さんが「それ、美味しかった?」と聞いてきた。お世辞が苦手な私は素直に「あんまり美味しくなかったです(味付けが好みじゃなかっただけ)」と本音を吐き出したら「うええぇぇぇぇん! なんでそんなことゆーの!? バカぁ!」とえんえん泣かれてしまったことがある。なんでも吐き出す私の悪い癖だ。なかなか治らない。すぐにそばにいたおばちゃんが「ひよこちゃん大丈夫かい!?」と厨房の奥へ連れていっていたのを覚えている。
そういえば、こんなこともあった。
ここに入学する前……だから六年生の頃。初恋の女の子に対して想像妊娠したことがある。どうも人に惚れっぽい性格みたいで、その女の子以外に三回もそんな経験をした。どれも違う子だ。同級生だったり、友達のお姉さんだったり。
あの時期は一時的に月一のアレが来なくなって楽だった。けどその代わりにつわりっぽいのが来た。何度体験しても慣れなかった。三番目に好きになった隣の学級の女の子と偶然廊下で会ったときには胎動を錯覚して「あ、動いた」とうっかり呟いて引かれたこともある。あれは恥ずかしかった。
「うぐっくっ!」
思い出に浸ってる場合じゃなくなった。余波が来た。
昼休みは残り二分。あと一陣、あと一陣だけ吐かせて……!
「おぶおえぇぇぇ…………!」
私は、便器とズッ友だ。