6.シオリサイド
電車で揺られること数十分、学校の最寄り駅に着いた。星南女子学園高等学校、私の通う高校はここから歩いて5分ほどの距離にある。
古びた大きな門をくぐっても校舎までなだらかだが長い坂がある。
毎日通っているとはいえ、さすがに体力が削られる。校舎が見える頃には私はいつものように軽く息が上がっていた。
息を整えて、辺りを見渡す。右手に見えるグラウンドには朝練をしている部活動生が見える。その奥の体育館でも似たような光景があるのだろう。
だが、私は部活をしていないのでその中に加わることなく校舎に入っていった。
教室に入ると、いつも通りまだ誰も来ていなかった。カバンをロッカーに入れ、朝イチの授業の準備をするとスマートフォンをポケットに入れて最上階の渡り廊下へ向かった。
渡り廊下は朝の冷んやりとした風が吹き抜けていて気持ちがいい。
加えて、教室のある棟と美術室のある棟をつなぐこの渡り廊下は今は昼間と違い行き交う生徒達の姿はない。
手すりにもたれ、スマートフォンを取り出した。ロックを解除し画像のアイコンを開いた。
「…」
日に日に『彼女』だけを収めた画像フォルダが色とりどりになっていく。私と同じ黒髪から始まり、ブラウン。少し赤みがかったブラウンに変わり、次はまた黒に戻った。あまりに派手な髪色のせいで生活指導でも受けたのだろうか。
そして最新の画像は一番派手な色が写っている。
一瞬白かと見まごうほどの金髪。
髪色は様々だが、私の撮った画像の中の『彼女』の表情は決まって同じだ。
長くカールしたまつ毛を伏せ、口は小さく開いている。体は力を失い、うつむいて帰りの電車の座席に座ったまま眠りこけているのだ。
「なんて無防備な…」
周囲が無人だからか、ふと口に出していた。
(だからこうして、私みたいな人間に写真に収められていることにも気づかない…)
こっそり撮りためた彼女の画像。
特に何か用がある訳ではない。だが、私は一日に一度は必ず彼女の画像を見てしまうのだ。
犬や猫の画像のように癒されるためかとも思ったが何となくしっくりこない。そんなに軽々しい行為ではないように思う。
なぜだろう。
私はその画像をしばらく眺め、スマートフォンをしまった。
予鈴が鳴ってしまう。急がなくては。
なぜか未だ高い体温のまま、教室へ戻ることにした。