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お兄ちゃん!大好きだよ!!

宜しくお願いします

5月 京都の桜もすっかり散り終え、学校生活や社会人達が新しい環境に慣れ始める頃。

いつもと変わらぬ休日を送っているのは漣恭一さざなみ きょういちとその妹、漣小春さざなみ こはるの兄妹だ。


「お兄ちゃん〜気持ちいいぐらいの晴れ日よりだね」


京都市でも少し東北、比叡山寄りのアパートに住み、朝一番の朝日を受けて思わず顔を綻ばせているのは妹の小春。

小春の声に釣られてその兄恭一もベッドからむくりと起き上がる。


「……相変わらず朝から元気だな小春は」


恭一の目はまだ隈が残っており眠そうに目を擦っている。

そんな兄に小春は元気な声で話しかける。


「せっかくの休日だもの。たまには二人でお出かけしたいんだよ?」


「……………たく、しょうが無いな」


小悪魔のような笑顔で笑いかける小春に恭一も断りきれずに妹の頼みを聞き入れる。

眠くて思考の回りきっていない恭一だが嬉しそうな小春の笑顔を見ていると疲れが吹っ飛ぶ様に感じるのだった。






二人して地元では名の知れたカナートというデパートにやって来た漣兄妹。二人はと言うより妹の小春は周囲から目を引く存在であった。


少し、二人の紹介をしよう。

まず妹の小春は高校に入学したての高校一年生。黒髪のサイドテールを結った彼女は比較的標準的な育ち方をしているとは言え、少し子供っぽさを残している印象を受ける。

人懐っこくまた面倒見のいい性格な為学校では一年生ながら高校で五本の指に入る程の人気者である。1ヶ月しか経っていないとは言え彼女に告白して玉砕された輩の数は数え切れない。何故彼女が全てを拒んで居るかは説明する必要もあるまい。


そして、漣兄妹兄の方恭一だ。彼は小春より三歳歳上で高校は卒業しているが大学には通っていない。それもその筈、恭一は高校時代にライトノベル作家として大成し学校を卒業した今自宅で専業作家をやっている。


最後にこの兄妹を語る上で最も大切な事がお互いを信頼仕切っている事である。

彼等の両親は共に古生物学者をやっており、小さい頃から海外を転々としている。

そのお陰で兄妹は互いに支え合って生きるしか無くなり、通常の兄妹より強固な絆となって存在している。小春は恭一の事を第一に考えているし、恭一も小春の事を一番に考えているのだ。



さてと人物紹介はこれくらいにして状況は二人がデパートに来ていた所に戻る。


「さてとお兄ちゃん。まず何処に向う?」


「ふっ愚問だな我が妹よ」


分かりきった答えを聞くように小春は恭一の顔を覗き込み、目が合った二人はニヤリと笑い合う。

そう二人が向かう先は言わずと知れた大〇書店である。


大〇書店に着いた二人はお目当てのラノベコーナーへと直行し新作を物色し始める。


ラノベ作家である恭一は中学時代からオタク文化に触れ初め、釣られるように小春もオタクへと染まって行くのは何もおかしい事では無い。しかし彼女自身、恭一の前以外ではオタクの話題は出しすらしないのだが。


「なるほどねー今期のアニメ原作が大々的に推されてるな」


恭一は【この素晴らしき世界にはヴィーナスを!】という最近アニメ化もした人気小説の第一巻を手に取る。

異世界物は世間的に飽きられる風潮にあるがその流れを真っ向から叩き潰したのがこの作品だ。


「そのアニメ見たけど…なんでこんなに売れてるのかな」


小春が不思議そうに小説を手に取って考察している。

そんな小春に恭一が答えてやるのはもはや見慣れた光景である。


「異世界つったら何がトレンドだったか分かるか?」


「えー?そりゃあ『俺TUEEEE』系の主人公じゃない?」


「その通り!異世界転生物ってのは何か知らんが普通の高校生がトラック事故に巻き込まれてチート能力を手に入れて転生。異世界で無双してハーレム作るってのが一種のテンプレだったんだが……」


「なるほどー、その全てのテンプレを否定したから読者に受け入れられたって事ね」


小春は納得がいったように恭一の言葉を続ける。

恭一もそれに頷きその先を話す。


「だがな、ある問題が生まれたんだよ……この作品が元凶で」


「あー……」


察しの良い小春は渋い顔をしている。伊達にラノベ作家の妹はしていないのだ。


「従来のテンプレを使用する作家は置いといて、このヴィを真似た類似作品が特になろうで大量生産されたんだよな……」


「あれは酷かったね……」


思い返せばまだ近い思い出である。小説家になろうというサイトの新着異世界転生物にテンプレ相殺型の小説が溢れかえった事が……


普段から小説漁りをしている二人にとってあの光景は思い返すのも辛い物だったので並んでブルっと身を震わせているのだった。


「お兄ちゃん!洋服、見に行かない?」


重い空気を変えようと小春が恭一に服選びを提案する。


「別にいいけどこの間も買ってなかったか?」


「わたしじゃ無いよ?今日はお兄ちゃんの服」


「えー俺は良いよ…センス無いし…」


あまり乗り気では無い恭一に対し小春はむぅっと頬を膨らませる。


「そんなんだからお兄ちゃんの小説の女の子はダサい服着てるとか言われるんだよ?」


「ぐはぁっ………それは…やめて…心に来る」


恭一は身を抱える様に縮こまる。昔恭一がネット小説を書いていた時代に感想で『こいつらいつもダッサイ服着てんな』と言われてから作中に出てくる服装は全て小春が考えている。


「わたしが選んであげるから大丈夫だよ?それに美少女な妹と一緒に居るんだからもうちょっとお洒落してもいいんじゃない?」


「ほっとけっ!」


コツンと小春の頭を小突くも足取りは服屋へと向う。恭一も何かと素直になれない性格なのだ。


「あ、これなんてどうかなっ?こっちも似合うな〜♪」


恭一の服を選ぶ小春は自分のを選ぶ時よりも嬉しそうである。チェックのシャツやパーカーを手に持ち、サイドテールをふよふよと揺らす小春と服を合わせられている恭一は傍から見ればタダのカップルにしか思えないだろう。


心做しか通りすがる男子学生の殆どが恭一に対して僅かながら嫉妬の視線が向けられていた。



「うん!これだ!ほらほら、着てみてよお兄ちゃん♪」


「俺に似合うか……?」


苦い顔をしつつも試着室へ押し込まれた恭一は渋々渡された服へと着替える。

そして着替え終わった自分の姿を見て恭一は思わず息を飲み込んだ。


「どう…だ?変じゃないか?」


「わぁ!やっぱりわたしのセンス抜群だねっ!」


笑顔でぴょんぴょん跳ねる小春に恭一は恥ずかしさが堪えきれない。


小春の選んだ服は空色のTシャツに白のワンポイント入ったパーカー、それにベージュのジーンズと無難ながらも今までの恭一からは想像もできない仕上がりになっていた。


「いいね〜良しっ!ここはお兄ちゃん想いの小春ちゃんが奢ってあげよう」


手を腰に当て上機嫌な小春の気持ちを恭一は受け取って自分で精算した恭一は次にその服を着る日が楽しみで仕方なかった。

妹より兄の方がツンデレの素質を持っている漣兄妹であった。





二人が家に着いた時には周りもすっかり暗くなっており料理を小春が掃除を恭一が受け持って素早く家事をこなし、夕飯の席に着く二人。

二人の間には昔から楽しそうな空気が流れている。

お互いがお互いの事を思いやっているからこそ喧嘩は愚か、ちょっとした言い合いすらしない。


そんな空気を小春も恭一も何より大切にしている。


「お兄ちゃん!」


小春が笑顔で恭一を呼ぶ。


「ん?どした?」


「やっぱりね、わたしお兄ちゃんが大好きだよ!!」


そう言い放つ小春に恭一は目を丸くして取り乱す。


「そ、そういう事はちゃんと好きな人ができた時に取っとけ…」


「むぅっ、わたしはお兄ちゃん以外愛せない体にされたのに……」


「おまっ、何人聞きの悪い事を…」


「えへへっ。嘘だよお兄ちゃん♪」


「まったく…俺の妹は」


(でも、大好きなのは嘘じゃないんだよ?)


恭一に聞こえない声量でそう呟く小春であった。



そして小春が見せるどんな宝石よりも輝いている笑顔は恭一以外には見たことが無い事を恭一はまだ知る由もなかった。


極度の妹好きが全世界の妹好きの為の妹の本を書いています。


(どうぞ、宜しくお願いしますm(_ _)m)

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