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第6話

「ねぇ、あたしあの子嫌いかも」


 以前行きたい行きたいと聡里が騒いでいたカフェで、聡里は紅茶とケーキを幸雄は抹茶ラテを飲む。

 店内は華やかすぎず地味すぎず、落ち着いた雰囲気だが所々に飾られているドライフラワーや小物が、お洒落な空間を作り上げている。

 周囲の客は女子がほとんどで、幸雄は若干の居心地の悪さを感じながら背を丸めて小さくなる。


「ちょっと聞いてるの?」

「なんだよ」


 甘味と苦味が上手に掛算された抹茶ラテが美味しい。

 目の前にいるのが聡里じゃなくて朱里ならば、という妄想をしてしまう。


「朱里ちゃん、あたし好きじゃないわ」

「へえ...は?」


 嫌いというのは嫉妬の一種か、という思いが全面に出ていたようで聡里は目を吊り上げて幸雄のラテを奪い、ずごごごと音を出して喉に流し込む。


「おい、俺の抹茶ラテ返せよ!」

「うるさい!!ぶりっ子嫌いなの!」

「城之内さんがぶりっ子?あれは天然だろ」

「これだから男は….あれは天然を作ってるの、養殖なの!!」


 養殖女子とは、天然を装った女子のことだ。

 しかし天然を装っていたとしてもあの美少女なら許される。可愛いは正義だ。

 一気に減った抹茶ラテを受取り、聡里が口を付けた箇所など気にせず、一口飲む。


「嫌な女だと思った?」

「何がだよ」

「あたしがよ。城之内さんのこと嫌いって言ったあたしを、嫌な女だと思った?」


 聡里が嫌な女なのはいつもの事だ。

 小学生からの仲であり、聡里の良い所も悪い所も知っている。今更、そんなことくらいで嫌な女だなと思うまでもない。


「好き嫌いなんて人それぞれだろ、それに関して俺は何とも思わない。が、まあ、言うとしたら、ほぼ初対面でよく知りもしない相手を嫌いというのは、俺はあんまり好きじゃない」


 関わった時間が短い上にお互い性格も知らない。それなのに「嫌い」と決めつけたりするのは好きじゃない。直感で嫌いと思った、なんていうのもあまり好きじゃない。


「....幸雄だってよく知りもしないのに城之内さんのこと好き好き言ってんじゃん」

「うぐっ」

「あたしと逆なだけでしょ、何偉そうに言ってんのよ。男ってなんであんな子が好きなの」

「お前だってイケメン好きだろ」

「男は顔だけじゃない」

「嘘つけ、結局イケメンを選ぶくせに」


 顔が良い人間は得だ。男だろうが女だろうが見た目が整っている人間はすべてにおいて勝ち組だと思う。

 普通の顔面レベルであれば第一印象で「ふっつー」「ちょいブサ?」等と思われるため必死に中身でカバーしなければならない。しかしイケメンだと内面でカバーする必要がない。もし中身が残念であっても「まあ、イケメンだし」と許容される。

 顔の良い奴はモデルや顔をウリにしている職業で稼げるがブスでは何も稼げない。美形は金になるが不細工は金にならないということは誰もが思っている。


「明日、城之内さんが生徒手帳持ってくるといいわね」

「え、う、うん」

「あ、そういえば。昨日買った雑誌でさ、養殖女子っていうコーナーがあったわ」


 鞄をゴソゴソと漁って最近話題のモデルが表紙になっている女性向け雑誌を取り出して、目当てのページを捲る。


「ほら見て」


 そう言って差し出された雑誌を受け取る。

 この店は女子ばかりで入るのも恥ずかしく、今も肩身が狭い。この空間で女性向けの雑誌を読むのは一層恥ずかしい。

 それでも幸雄が読まないと気が済まないらしく、目で「読めよ」と睨みつける。


「し、仕方ねえなー」


 少しだけ大きな声でこの場にいる女子に「俺は仕方なく見てるんだぜ」というアピールをしてみる。


 女性向けの雑誌なんて見るのは初めてで、ドキドキしながら中身を覗く。

 タイトルは大きく「養殖系女子とは!?」と書かれている。

 その一、男性の前と女性の前では態度が違うことが多い。

 その二、「私って天然だからぁ」と言う。

 その三、注目されようとわざとボケる。


 その他にも養殖女子の良いところなどが書いてある。頭が良いとか演技力が高いとか。

 聡里が、どうよどうよと感想を求めてくるので最終的に出した結論を口にした。


「養殖系女子、嫌いじゃないぜ」


 この後聡里はずっと不機嫌だった。



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