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これを運命といいます  作者: 円寺える


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第32話

 聡里が帰った後、幸雄は自室で大きなため息を吐いた。

 まさか聡里が家にいるとは思わなかった。もう顔も見たくないだろうと勝手に思い込んでいたが、会いに来る度胸があった。思えば聡里は、そういう人間だった。

 先程の聡里を思い出す。

 瞳に涙を浮かべて、この世の終わりかのように絶望一色だった。自殺をしなければいいな、と思いながら制服のままベッドに寝転んだ。


 きっと明日から、聡里は話しかけてこないだろう。その確信はあった。


 ただの幼馴染だと思っていたら、その幼馴染は自分に好意を寄せていた。

 幼馴染だと思っていたが、自分はどうやら聡里に幼馴染以下の感情を持っていた。

 答え合わせをしている気分だ。


 聡里を泣かせたばかりだというのに、睡魔は容赦なく襲ってくる。

 瞼が重くなり、眠りへの舟を漕ぎ始める。


 聡里に言われた言葉を思い出す。「きっと人を殺したりするの。暴力で相手を痛めつけたり、手段を択ばない女に決まってる!そんなやつなの!」と、朱里を非難していた。それに対し、なんという想像力を持った女だと驚いた。

 女同士、伝わるものがあるのか。


 幸雄はうとうとと、朱里に出会った日のことを思い出す。


 あの日は、いつもと変わらない一日だった。

 いつもと同じように学校へ行き、クラスメイトと楽しく話し、聡里と言い合いをし、何気ない日常の一つだった。帰り道もそう、違う道を歩くことはしなかった。何もない、ただの一日。いつの間にか倒れ、気づけば朱里の家に運ばれていた。


 その空白の記憶を、幸雄は忘れていなかった。


 あの時、一人で歩道を歩いていると、何かが視界にちらついた。

 カーブミラーに、何かが映っていた。立ち止まることなく、歩きながらなんとなくカーブミラーを見つめていた。


 すると突如、電信柱から全身黒の衣服を身に纏った人影が出てきて、何かを持ちあげていた。何かは分からなかった。ただ、今から投げるような、ぶつけようとしているような、そんな態勢だった。

 黒い人影は幸雄を目掛けて何かをしようとしていた。自分の身が危険だ、それは瞬時に理解した、それと同時に、黒い人影の顔も一瞬認識できた。

 黒いパーカーを被っていても、一瞬風に吹かれ顔が露わになった。

 それを見た時、防御に入ろうとしていた幸雄はカーブミラーから目を逸らし、体の力を抜いて気づかない振りをした。


 そうして幸雄は、道に倒れ込んだ。


 下から見上げるとよく分かる。

 光悦な表情で息が上がっており、目を三日月にして幸雄を見下ろしている。

 後頭部の痛みに耐えきれず、瞳を閉じた。


 意識を手放す前に聞こえた天使の囁き。


「やっと見つけた、幸雄くん。運命的な出会いにしようね」


 何を言っているのか理解できなかったが、これが運命ではないだろうか。

 一目見た瞬間、天使だと思った。天使が嬉しそうに自分を狙い、嬉々として運命だと言う。

 運命的な出会いにするとはどういうことか。意味が分からなかったが、意識が戻った後に察した。倒れた男と助けた女が恋をする、これが運命なのかと。ならば自分も、これを運命にしようと思った。


 運命と言うにはもう一つ足りない。

 幼い頃に実は神社で出会っているという事実が、足りない。この事実の答え合わせはもう少し先でいい。今はまだ、言わなくてもいい。きっと思い出すきっかけがまたあるはずだ。天使の導きにすべて委ねる。


 きっと人を殺したりするの、と言う聡里の言葉に笑みがこぼれる。

 天使は何をしても天使である。天使が人を殺したのなら、それがその人間の運命なのだ。すべては天使が決めること。出会いも、場所も、記憶を思い出すタイミングも、何もかも、天使の導きによって決まる。運命は決まっているのだから、人間が足掻いてどうにかするものではない。


 一生忘れることのできない光悦した天使の表情を思い出し、ゆっくりと眠りの舟を漕ぎ進めた。


おわり

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