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これを運命といいます  作者: 円寺える


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第31話

朱里を家まで送り、帰路についた。

お茶でも飲んでいかないかと誘われたが、交際を始めたその日に家に上がるのは礼儀的によろしくないと思い遠慮した。

恋人になった実感はあまりなく、明日会った際に実は嘘だったと告げられそうで怖い。


そんなことをするような子ではないことは承知しているが、よくない方向へ考えてしまう。

よろしくない傾向だ。

選ばれたのは俺でしたと胸を張る勇気くらいほしいものだ。


ただいまー、と気の抜けた声を出してリビングに行くと、見慣れたけれども久しぶりに見た顔がそこにあった。


「おかえりなさい。聡里ちゃんが遊びに来たわよ」


何も知らない、エプロンを付けた母が出迎えたが、微笑ましそうに台所へ戻って行った。

聡里の頬はやせこけたように見え、毎日見ていた元気な姿はそこになかった。

ソファに座り込んだままの聡里に、何と声をかけようか悩んだが母がすぐそばにいる空間で話はできないと思い、自室に連れて行った。

大人しく後をついてくる聡里に、いつもの勢いはなかった。


「なんか、久しぶりだな。体は大丈夫か?」

「えぇ」


聡里を椅子に座らせ、自分はベッドに腰掛ける。

無表情でいる聡里に気味の悪さを感じるが、勝気な性格の聡里が弱っている姿を初めて目にしたからかもしれない。

まるで別人のようだ。


「あのさ、あの子なんだけど」

「朱里ちゃん?」

「…朱里ちゃん?」


あ、やべ。そう思うが、隠したところでいつかはバレてしまうので、いつ話そうが同じことだと考え直し、今日から付き合うことになった旨を伝えた。

徐々に顔色を変え、般若のように顔を歪めていく。その様子を眺めながら、こいつ本当に俺のことが好きなんだな、と呑気なことを思った。


「なんで!?」

「なんでって、好きだからだよ」

「あいつの性格の悪さを知らないからよ!」


立ち上がった拍子に椅子は倒れ、下の階にいる母に気付かれたか不安になった。

これ以上寄ることはない程眉間にしわを集め、顔の皮膚は全体的に上がっている。ぴくぴくと顔が痙攣しており、激怒という表現だけでは物足りない。


その怒りを目の当たりにし、幸雄は驚いて後ろに手をついた。


「なんであんなのが好きなのよ!どう考えてもおかしいでしょ!」


ヒステリックに叫ぶ聡里に対し、頭おかしいのかという感想しか抱かなかった。

自分の恋が実ったからか、発狂した姿を見て幻滅したからか、幼馴染の情すら自分は持っていないことに気付き、呆然とする。

聡里にそれほど関心があったわけではないが、幼馴染の位置にいた聡里は自分から遠い人間だと思ったことはなかった。だが、今やどうだろう。ヒステリックに喚き散らす聡里を見ても、こんなやつに天使を合わせることはできない。母に聞こえているだろうか。いつになったら帰るのだろう。そんなことしか頭になかった。

幼馴染ではなく、ただの他人だった。


「悪魔みたいな女よ!幸雄は何も知らないから!とにかくおかしいの!絶対に裏があるはずよ、あたしが突き止めてやる!!」


そんなに喚く程、自分のことが好きだったのだろうか。

過去を振り返っても、聡里に好意を持たれている場面などなかったはずだ。いつも憎まれ口ばかりで、恋を感じる時なんて一切なかった。


「将来幸雄をどん底に落とす女よ。きっと人を殺したりするの。暴力で相手を痛めつけたり、手段を択ばない女に決まってる!そんなやつなの!幸雄は知らないから!」


なんという想像力だと驚愕する。


「それでもあの女を愛せるの?それでも好きなの?そんなわけないよね、そんな女誰だって嫌でしょ!?」


幸雄はゆっくり目を瞑り、口から大きく息を吐き出した。

今まで傾聴していただけの幸雄が動いたため、聡里は閉口した。


「そんな女でも好きなのかって、今聞いたよな」

「えぇ、そうよ。嫌でしょう」

「好きだよ、それでも」


好きな気持ちに変わりはない。

恋とはそういうものではないのか。

欠点があったからと言って、感情は萎えるものではない。

その欠点を含めて好きになるのが恋ではないのか。


そう言った幸雄の表情は、聡里の記憶にはないものだった。

真剣そのもので、まるで俺が守ると言わんばかりに、少しだけ聡里に敵意を向けている顔だった。

ずっと片想いをしていた相手が、目に敵意を宿してじっと自分を見つめている。

無駄だ、と聡里は悟った。


もう何を言っても響かない。こんなに幸雄のためを思って言っているのに、本人はまるで聞く気がない。これまでの自分は何だったのだろう。ただ好きで、隣にいたくて、それだけだったのに、自分には何が足りなかったのだろう。何が駄目だったのか。

自分なりに頑張ってきたが、突如現れた性悪美少女に奪われた。

幸雄のためを思って進言しても、敵意しか向けられない。

それならもう、いい。


あふれ出る涙をそのままにし、黙って幸雄の部屋を出た。

ふらふらと揺れる体を、二本の足がなんとか支えて前進させる。

ぽたり、と床に涙が落ちていく。瞬きをする度に涙は下へと落ちていく。

幸雄の母には会わず、家を出た。


長年の恋が終わった。






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