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これを運命といいます  作者: 円寺える


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第30話

「城之内さん」


朱里の歩幅に合わせていた足を緩めて、もう少し遅いテンポで足を動かす。

その変化を察して見上げる美少女と視線が絡み、足を止めた。


「俺、その」

「なぁに?」


もごもごと口を動かし、視線を左右に動かす。

情けないと思う。

もっと男らしく、怯むことなく照れることなくはっきりと口に出したかった。


一度空気を吸い、ばれないように吐き出す。


この緊張が伝わればいいと思うが、伝わってほしくないとも思う。


「あの、出会ったときから、その」

「うん」


どんどん語尾が小さくなっていく。同時に、視線も下がる。

振られたら、どうしよう。もうこの関係も終わるのかもしれない。一緒に下校したり、教室で喋ったり、そういうこともなくなるかもしれない。

そもそも、告白されることなんて望んでいないのでは。迷惑でしかないのかも。もし、嫌そうな顔をされたらどうしよう。冗談だよ、って笑ったらそれで終わるのか。


勝ち戦になりそうだ、と思った自分はもういなかった。


口の中が乾き、声を出そうとしてもきっと掠れた不格好の声しか出ないだろう。


「白井くん」


なかなか話を切り出さないため、不審に思ったのか小さな顔が覗きこんできた。

驚いて一歩下がる。


「白井くん、何か私に言いたいことがあるんじゃないかな?」

「う、うん」

「ふふふ、何の話かな?」

「そ、それが」

「私も同じ話があるんだけど」

「えっ」

「私の予想だと、きっと白井くんは私が言おうと思ってる言葉と、同じことを言いたいんだと思う」


同じ言葉。

本当だろうか。

目を細めて笑みを浮かべている顔を見ても、正しいのか分からない。


「私から言ってもいいんだよ」

「えっ」

「でも白井くんが嫌かなと思って」


告白は男からしたい。

それは小さなプライドだった。

そのプライドを投げ打って、身を任せた結果良い方向に転んだとして、その後少なからず羞恥心を持つようになってしまう。それは嫌だった。


「お、俺が言いたいです」

「では待ちます」


自分から言ってもいい、ということは玉砕の可能性は低い。と思いたい。

未だ笑っている朱里と視線を合わせ、一度咳払いをして口を開く。


「城之内さん」

「はい」

「俺、多分初めて会った時から、助けてもらったあの日から、今もずっと好きです。付き合ってください」


日本語がおかしくなかっただろうか。

伝えたい一心で言葉を出したが、単語や文法まで気を配っていなかった。

変な日本語になっていなかっただろうか。


今までで一番心臓が大きく動いている。

この瞬間のためだけに、今日一日を過ごしていた。


朱里からは返事がない。

高校の合格発表なんて比にならないくらい、朱里から出される可否が待ち遠しい。

まだか、まだか。


「白井くん」


きた。

何を言われるだろう。

シチュエーションが微妙だったか、住宅地は駄目だったか。それとも平凡すぎる事を言ってしまっただろうか。


怖くて直視できず、ちらちらと顔色を伺う。


「白井くん、私も好きだよ」


顔を両手で挟まれて、強引に視線を合わせられた。

間近で見る朱里はやはり綺麗で、産毛も見当たらない。


「えっ」


それより、今、返事は何と言ったか。

受け入れられたように聞こえた。


呆気にとられて、瞬きすら忘れる。


「あはは、断ると思った?」

「だ、だって」

「私、結構気のある素振りしてきたつもりだったんだけどな」


気付いてなかったのかぁ、と頬を掻くその仕草を見て、あぁ本当なんだなと実感する。

ここで名前を叫び、抱きしめる勇気などないため、両手で顔を覆うことしかできない。


「やっと恋人になれたよ」

「はあぁぁぁ、嬉しい。俺、まさかこんなことに…はぁ」


力が抜けてその場にしゃがみ込む。

朱里は当然の結果だとでも言わんばかりの笑顔を咲かせている。きっと恋人になる未来が見えていたのだろう。

頭を膝につけて、息を吐き出す。

確かに、今までのことを振り返っても、自分のこと好きなのかもと思う瞬間は何度かあった。だから勝ち戦だと思っていた。けれど、他人の腹の中なんて分からない。張りつめていた緊張の糸が一気にほどける。


「白井くん」

「な、何?」

「一つ、付き合って早々のお願いがあるんだけど」


しゃがみ込んでいる幸雄の目線に合わせ、朱里も膝を折る。


「苗字呼びじゃなくて、名前呼びがいいな」


そんな可愛いことを言われて断る野郎がいるだろうか。当然いない。

むしろ嬉しい限りだ。


「えっと、朱里…朱里ちゃん」


あかりちゃん。

そう口に出すと、既視感があった。

どこかで聞いたような、懐かしいような響きだった。


「ふふ、幸雄くん」


何かを懐かしむように、愛情溢れる声で名前を呼ばれた。

これを、知っている。既視感が離れてくれないが、思い出せないものは考えても仕方ない。


朱里の手を軽く引っ張り、二人で立ち上がる。


「帰ろうか、朱里ちゃん」


立ち上がるために掴んだ手は放すことなく、繋ぎ方を変えて二人並んで道を歩く。

代わり映えしない帰り道だったが、今日は違う景色に見えた。


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