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第3話

「そういやぁ、聞いてくれよ。昨日すっごい美少女に会ってさ」


 翌日の朝、学校で小学生からの仲である竹下聡里に興奮しながら話しかけた。

 聡里はボブの髪型が似合う女で、可愛いか不細工だったら可愛い部類に位置する。

 中身は見た目通りサバサバしていて、第三者からは姉と弟に見えると言われることが多かった。

 唐突な話に聡里は鬱陶しそうに顔を歪め、左手を腰に当てた。


「はぁ?美少女?」

「そうそう、俺が倒れてたのを態々自分の家まで運んでくれたんだぜ」

「ふうん、で?」

「で?って…」

「これってもしかして運命かも、とか思ってんの?馬鹿じゃない」

「う、うるせえ!」

「え、図星?うわぁ。あんたさ、もうちょい自覚しなよ。あんたみたいな冴えない男に美少女が振り向くと本気で思ってんの?」


 鼻で笑う聡里に、何も言い返せない。

 運命かも、と思ったのは事実だったし家に帰って余韻に浸りながら妄想したのも事実だ。


「美少女が助けてくれる運命より、小学校から今までずっと同じクラスで現在席が前後というこの状況を運命だと言うのではないでしょうか、幸雄くん」

「お前と運命なんて…」

「はぁぁぁ!?あたしだってあんたと運命だなんて思いたくないし!」

「お前が最初に言ったんだろうが」

「本気にしないで、気持ち悪い!」

 

 聡里の性格は幸雄から見ると可愛げがない女子代表だった。

 昨日の美少女を思い出し、美少女は性格もいいのに、と失礼なことを思いながら口煩く怒っている聡里を頭から足の先まで視線を行き来させる。

 聡里の容姿が整っていないわけではない。ただ、昨日の美少女に比べると劣ってしまう。


「まぁた二人が喧嘩してる、なんなの?付き合ってるの?」

「つ、付き合ってるわけないでしょこんな男と!!」

「はいはい、聡里は素直じゃないねぇ」


 熱くなった聡里を引き取りに来てくれる聡里の友達。

 刺々しい聡里を「はいはい」と軽くあしらえる聡里の友達に幸雄はいつも有難いなと思っている。

 こんな可愛げのない女子代表を理解し、友達でいてくれている子を生涯大事にしろよと、親のような気持ちになる。


「はぁ、本当にあいつといると疲れる」

「まあまあ、白井くんも熱くならないでよ」

「そうだな、俺は大人だしな」

「何よ、あたしが子供だって言いたいわけ!?」


 何でもかんでも噛みついてくる聡里は、実は自分のことを嫌っているのではと思わせる。

 常に眉間に皺を寄せ、不貞腐れている。癖なのか本気なのかが分からない程、これは日常となっている。


「聡里、うるさい。白井くん追いかけて高校受けたクセにそんなこと言うと嫌われるよ」

「んなっ!?ち、違う!!追いかけてない!!あたしは家から近いから受験したんであって…..」

「はいはい、もうホームルーム始まるから席に座ろうね」


 聡里の友人が慣れたように聡里の背中を押すが、何かを言いたそうに聡里が振りかえる。


「なんだよ」

「別に、あんたを追いかけて入学したわけじゃないからね、勘違いしないでよ!!」

「分かってるって….」


 逆にそこまで否定されると、本当は追いかけてきたのではと疑ってしまう。

 家から近いという理由受験したのは本当だろう。この辺りにもうひとつ高校があるがそこへは少し遠い。


「お前らー、席ついてるなー」


 担任が教室へ入ってきた。

 やる気のなさそうな声を出し、スリッパの踵を踏みつけ、ふらふらした足取りは教師として褒められたものではない。

 その教師の後から、女子生徒が教室へ入ってきた。


「転校生の城之内朱里さんだ」

「城之内朱里です、よろしくお願いします」


 担任に紹介された後、一歩前に出て透き通った声で名乗った女子生徒。

 天使と見間違うほど整った容姿と、守りたくなるような華奢な体。

 運命かと思った。

 

 教卓の横に立っているのは間違いなく昨日の美少女。名前も一緒、顔も一緒。

 昨日友達になった城之内朱里だった。


「あっ」


 呆然としていると、幸雄の存在に気付いた朱里が小さく手を振った。

 自分に手を振ったのか分からなかったので辺りを見渡し、自分だと気づいた頃には手が下げられていた。


「おー、なんだ、白井と知り合いか?良かったな、友達がいて」

「はい」


 自分と同じ学校の制服を着て立っていると、なんだか感動した。

 天使なのは変わりないが、制服を着ているというだけで同じ人間だと思わせてくれる。


「じゃあ、席は白井の横にするか。前田、席代わってくれるか」


 幸雄の隣に座っていた前田は快く了承し、朱里が座るはずだった席に荷物を持って移動した。

 前田の席に朱里が着席する。


「また会ったね、白井くん」


 自分の言った「またね」は間違っていなかった。

 本当に運命かもしれない、と胸が高鳴った。



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