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第2話

「お茶のおかわり、いかがですか?」

「あ、だ、大丈夫です」


 緊張で手が震る。

 やはり綺麗だ。こんな美人は今まで見たことがない。


「それ、やめませんか?」

「ど、どれですか?」

「敬語です、私たち同い年ですし」

「そ、それを言うなら城之内さんだって敬語じゃないですか」

「そうですね、ではお互い敬語は無しということで」

「う、うん」


 もしかしたら明日雷が頭上に落ちてくるかもしれない。

 美人と敬語なしでお喋りができるなんて、自分は前世でどんな徳を積んだのだろうか。

 この瞬間のために自分という存在が生まれたのでははいだろうか。

 

「あの、白井さん」

「な、なんでしょう...あ、いや、何かな」

「あっ、白井さんでよかったのかな。白井くんがいいのかな」

「ど、どちらでも」

「うーんじゃあ、白井くん。白井くんは好きな子とかいるの?」


 出会って一時閒も経っていないというのに、恋愛話を直球でしてくるあたり、クラスのヒエラルキー上位とみた。

 自分みたいな雑草男の恋愛を聞いて楽しいだろうか。


「あっ、ごめんなさい。もしかして、私今失礼だったのかしら」

「そ、そんなことは….」


 綺麗な手を口元にやり、眉を下げる表情も愛らしく見える。


「私、男友達なんていなかったから、つい。男性と何を話せばいいのか分からなくて…気に障ったのならごめんなさい」

「全然、大丈夫だよ!」


 クラスのヒエラルキートップだと思ったが、意外にもそうではないのかもしれない。

 控え目な言動が多いため、上位女子によく話しかけられる中間層女子という感じだろうか。

 美しく性格も良い女子は下位ではない。上位というほど派手で目立つような子には見えない。となると、中間層にいながらも高嶺の花的存在。恐らくこれで当たりだろう。


「白井くん?」

「あぁ、いや、何でもない」

「怒ってる...?」


 不安そうに上目遣いで見つめられ、ぐっと胸辺りのシャツを掴んだ。

 これを計算でやっているとしたら、なんて恐ろしい子。


「お、怒ってないよ」

「そっか、良かった」


 ホッとしたように胸を抑える姿にやはり天使だと再認識する。


「私、引っ越してきたばかりでこっちに友達がいなくて、その、良ければ友達になってほしいなぁ、なんて」

「俺なんかでよければ、喜んで」


 自分なんかで友達が務まるのか、というネガティブな思いはある。しかしそれでも欲が勝る。美少女とお近づきになれるなんて滅多にないのだから、是非ともお友達になりたい。


「ありがとう、引っ越してきて最初の友達が白井くんで良かったわ」


 周囲に花が飛んでいるように見えたため一度目を擦る。目を開けると視界に入ってきたのは壁にかけられている時計。

 午後の七時前を知らせている。

 窓の外を見てみると確かに暗くなっていた。


「ごめん、もうこんな時間だったんだ」

「え?あ、本当ね。ごめんなさい、私が無駄話を始めたせいで」

「そんなことないよ。それより、親御さんに一言…」

「大丈夫よ、この家には私一人だから」

「えっ、一人暮らし?」

「うん。だから心配しなくても大丈夫」


 真っ先に気になったのは親だった。

 他所様の娘に得体の知れない男を自室に運ばせたのだから、頭の一つや二つ下げないと。そう思っての発言だったが、一人暮らしと聞いて心配になった。

 こんな美少女の一人暮らしを許している親は、頭大丈夫なのか。


「あ、下まで送ります」


 幸雄が鞄を取って部屋を出ようとすると、朱里も一緒に立ち上がる。

 階段を下りて玄関まで行き、靴を履いて爪先を地面に数回軽く叩きつける。


「城之内さん、今日はありがとう。城之内さんがいなかったら、俺干からびてたよ」


 まだ夏にはなっていないが、近年温暖化が進んでいる。夏ではないにしろ、暑いことには変わりない。あのまま道に倒れたままだったら暑さにやられ脱水症状が出ていたかもしれない。

 運良く通りかかった美人のお陰で死は免れた。


「大袈裟だよ。こちらこそ友達になってくれてありがとう」

「危ないから、俺が出たら鍵を閉めて、寝る前は戸締りの確認を忘れないで」


 なんとなく恰好をつけたくて出た言葉だった。

 人生で初めて口から出た台詞だった。


「うん、じゃあ、またね」


 手を振る朱里にどきりとする。


「う、うん、またね」


 思わずまたねと返して家を出た。

 「また」があるのか分からないが、別れの言葉が思いつかなかった。


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