第12話
聡里のせいで朱里が孤立してしまうのでは、というのは幸雄の杞憂だったようで、次の日聡里はケロリとしたものだった。
良かったと安堵したのも束の間、朱里が教室に入ってきた途端、悪役のように目つきを鋭くさせていた。
朱里は友達が多くできたようで、休憩時間はたくさんの人に囲まれていた。
フレンドリーさは尊敬もので、そのスキルが欲しいと思うくらいだった。
必然的に朱里と話せるのは授業が始まるほんの数分で、物寂しさを覚えた。
聡里に至っては関わりたくないのか、思いきり避けていた。話しかけられても無表情で相槌を打つだけで相手にしようとしていない。さすがにその態度はあからさまではないか、と言ったが鬼のような形相に幸雄はすぐさま引き下がった。
この状態が続くのかと思うと疲れる。聡里はもう少し大人になるべきだ。
「白井くん、この後付き合ってくれるかな?」
「もちろん、約束したしね」
放課後、家具屋へ行く約束をしていたため二人で学校を出た。
「城之内さん、もう友達がたくさんできたんだね」
「うん、皆すごく優しいから」
「すごいなぁ」
「そんなことないよ。私だって初日はすごく緊張したし、友達ができるか不安だったの」
聡里が例外なだけで、普通なら朱里と仲良くなりたいと思うだろう。
「でも私やっぱり、聡里ちゃんに何かしたのかな」
聡里の態度は気になるようで、不安そうだ。
何を言ってもフォローにならないと思い、曖昧なことしか言えなかった。
もう一度聡里に態度を改めるよう言っておこう。
「あ、ほら家具屋はあれだよ」
家具屋に入り、目当てのカーテンを探す。
制服を着ているから夫婦だとか同棲だとかは思われないだろうなぁ、と呑気に妄想する。
カップルに、見えたりするのか。
ただの友達か兄妹か。兄妹はないな、だって全然似てないし、歳の差があるようにも見えない。じゃあただの友達か。
自分と朱里がどんな風に見られているのか、の答えを出して一人で落ち込む。
「あ、白井くん!」
なんだ、カーテンが見つかったのか。
しかし、違った。
「見て見て、この子可愛い!」
柔らかそうな、触り心地が良さそうなクマのぬいぐるみを両手に抱き、あろうことかクマの顔に頬ずりしている。その迫力は凄まじいもので、クマになりたいと心の底から思った。
「う、うん、可愛い」
あなたが。
「このクマ人気あるらしいの、柔らかいしすごく気持ちいいの!」
可愛いの破壊力が凄まじく、なんとか話題を変えたかった。
「あ、カーテンあれじゃない?」
そう言うと城之内さんはそちらに目をやり、「本当だ」と駆けて行った。
「白井くん、グレーのカーテン買ってくるね」
二コリと微笑んで灰色のそれを抱きしめレジへ持っていくので慌てて後を追った。
「ふふふ、なんだかこのカーテンを見る度白井くんのことを思い出しそう。今日は付き合ってくれてありがとう」
生きててよかった。最上級の笑顔を向けられた魔女の呪いにかかったように固まった。
なんて可愛いんだ。
この胸のときめきは果たして恋なのか、それともただ可愛いものを見ただけの反応なのか。自分でも知り得ない感情だが、この感情に恋と名付けることにした。
そうすれば、しっくりくる気がする。
「今度二人で出かけるときはもっと楽しめるとこに行こうね」
人生初めての恋が始まった。




