勇者→魔王
そのまま気を失った魔術師の少女を受け止め、優しく床に寝かせると、ズリズリという音が近付いてきた。
ゆっくり月明かりに照らし出されると、女性らしい、出るところは出て絞まるところは引き締まった、ほどよい肉付きのグラマラスな女性がゆっくりと現れた。
それに伴うかのよう、下半身の蛇の尾は美しく見とれるほどに月明かりにキラキラと光る、綺麗で妖艶なラミアだった。
「次はお姉さんが相手?」
「んー、お姉さんはやめとくわぁ。そんな殺気向けんといてぇな。」
戦意が感じ取れないため、青年はゆっくりと殺気を解いていく。
「ありがとーな。手加減してもろて。」
チラッと犬娘の方を見ると、きゅー…とまだ目を回している。
「わざわざ殺してまでして、後々面倒な事にしたくないだけだ。」
あるんだよな。
たまにこういった後々胸糞悪くなる運営のいたずら心満載の嫌がらせ的なイベント。
とある王国の大会で相手のHPを0にしたら死亡エフェクトがかかり、殺人容疑で捕らえられたり、その街で買い物も宿も使えなくなったり。
クエストの獣人を倒したらその獣人の子供が泣きながら見えなくなるまで意思を投げてきたり、ずーっと殺しに来たりと精神的にくるものがあるし面倒くさくて流石にそのデータを消したわ!
作り込みが凄いが、殺すのが必須ではないクエストとか所見殺しにも程がある。
嫌いではないが、流石に精神的にくるのはキツい。
「おにーさんは一撃で倒してしもーたけど、一応あの子も魔王さまの側近張るくらい強いんやでー。あの子の為にも言っとかんとなぁ。」
口元を上品に隠してくふふ、と笑う。
「それにしても、おにーさんすっごい強いなぁ。惚れてしまいそうになるくらい。…魔王さまの次にやけどなぁ。」
「魔王?…やはりここはメメント王国じゃないのか?」
クエストの内容として、魔王軍の魔物の侵略を止めるはずだったが、さっき襲ってきた獣人やこのラミア、この話からしてメメント王国ではなく、魔王城だろう。
「せやせや、説明をするのを忘れとったわ!
えーと…おにーさんには、魔王になってもらいますぅ。」
「……はぁ?」
思考が停止するには、十分なインパクトのあるパワーワードだった。