最悪の出会い
「お前が勇者か?」
いち早く我を取り戻した活発そうな少女が聞いてくる。
言葉の端々から、まるで生身の刀のようなこの上ない殺気を突き刺してくる。
「さぁな。少なくとも…」
言葉を紡ごうとした瞬間、少女は掻き消えて「だとしても、死ね」と呟き、目の前で爪を振り下ろしていた。
褐色の肌と対照的な初雪のように光輝く銀色の髪に犬耳。踊るように流れる白銀の尾。
それに目を奪われて反応が遅れる。
辛うじて、かわす事ができたが頬にかすったらしく一筋の線が走る。
「次は外さない。」
少女から、素早い回し蹴りからの連撃が繰り出される。
鋭くも滑らかなその動きは、まるでダンスのステップを踏んでいる様だった。が、全ての攻撃を紙一重で避ける。
「がぁあぁぁぁぁ!!!」
少女は攻撃のスピードを上げるが、どれもこれも当たりそうで当たらない。
「攻撃が直線的。」
思わずボソッと言った一言が褐色の少女の逆鱗に触れたらしい。
「…マジで殺す。」
耳がピンと張り詰めてそびえ立っていた。
大降りの攻撃を外すと少女は大きくバックステップを飛び、大きく息を吸い込んだ。
声を吐き出した次の瞬間、地面が大きく抉り取られ、何かのとてつもない衝撃で後ろに吹き飛ばされた。
そのまま闇に吸い込まれていき、奥からなにかがつぶれた鈍い音が響いた。
「ふん、口ほどにもない奴め。」
少女は汗を拭うと、
「そんな事ないと思うけど?」
潰したはずの男が後ろに立っていた。
「しつけのなってない犬には、」
青年はゆっくりと人差し指を丸めて親指に指を引っ掻ける。
少女が急いで振り返ると、ちょうどおでこの位置にギリギリと引かれた指が。
「お仕置きだ。」
「きゃんっっ」
パチンと言う音と共に体がぶっ飛び、遅れて衝撃波が凄まじい勢いで少女を追走していく。
壁に激突する轟音が部屋に響き渡った。
「まさか…デコピンだけで…」
帽子を押さえていた魔術師が、壁に打ち付けられて目を回している犬娘を見て驚愕の表情をうかべている。
「で、まだやるかい?」
青年はニヤリと禍々しい笑みを浮かべた。
魔術師の少女は汗をダラダラ流し、いろいろと諦めた。
『あ、もうこれ終わったわ。』