勇者召喚の儀式
「姫様!このままでは我々は魔王軍に敗北してしまいます。」
モジャモジャした髭の老人が慌ただしく捲し立てる。
「姫様、ご決断を…」
「…わかりました。『勇者召喚』の準備を!」
その瞬間、大広間に巨大な魔方陣が現れる。
「じいや、紙とペンを。」
「はい、こちらに。」
姫は紙とペンを受けとると、サラサラとペンを走らせた。
そして、紙を折りたたみ便箋に封をした。
「勇者様…どうか、私たちの世界をお救いください…」
姫は便箋にキスをして魔方陣に放り投げると、便箋は吸い込まれるように魔方陣の中央に飛び込み、トプンと、まるで水面に落ちるように吸い込まれていった。
途端に魔方陣が輝きだし、巨大な一つの光の筋となった。
「勇者様…」
一筋の雫が流れ落ちたその瞬間、光の筋は急速に膨れ上がり、天へ向かって光は消えていった。
「姫様…」
どうして、まだ成人の儀を迎えておらぬ姫に、こんな重大な決断や重責を背負わせねばいけないのだろう。
ただ立ち尽くす少女は、いつもの凛とした姫ではなく、年端もいかぬただの少女だった。
少女はすぐさま頬を拭うと、
「じいや、勇者様をお出迎えする準備を!」
いつもの凛とした姫に戻っていた。
「上手くいくと良いですな…」
「上手くいくに決まっているじゃないですか。だって、私が召喚するんですよ。」
そう言う姫の笑顔は、いつもと変わらぬ美しい笑顔だった。
「そうですな…きっと上手く、いきますな。」
願わくば、姫様を救ってくれる勇者が現れますよう。
まだ淡く光る魔方陣へ願いを込めた。
****************************