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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
異世界より召喚されし巫女
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帰国、そして、(2)

痛い。


いたい。


痛い。熱い。苦しい。寒い。辛い。


「あ……あ………………あああ……」


世界がぐるって回る。違う。アタシが立っていられなくて倒れちゃったんだ。頬に当たる感触で、それを理解する。


どくどくと、全身から力が流れ出していく。

視界が暗くなってく。

耳鳴りがして、痛くて、辛くて、気持ち悪い。


「あああ……あああ……っあああっ!!」


誰かが叫んでる。口を閉じていられない。ヨダレが垂れちゃったらみっともないな、なんて事を頭の隅っこで考えてた。


「いやあああああああああ……っ!」


この、痛いのを抜けて、空っぽになるギリギリで大地に向かって根っこを伸ばすみたいに『アタシ』を広げるんだ。


頭がガンガンする。


「……さっさと『水面』を選ばないからだからね。そのままだと、死ぬよ?」


呆れたみたいな、諦めたみたいな未来のアタシの声が聞こえたような気がした。


「アタシ、手伝えないから」


アタシの気配が消えて、寒いのが増える。


アタシの予想じゃ、これを三日。三日耐えたら、痛いのは楽になるハズなんだ。

辛いけど、しょうがない。


……だって、アタシ、本当はアラステアさんに『水面』になって欲しい。寄り添って生きてくなら、アラステアさんがいい。他の人じゃ、やっぱり、やだ。


でも、それは出来ない。


アラステアさんにはアラステアさんの望み通り、この国の王様でいて欲しい。


……だったら。


だったら、アタシは、アラステアさんを水面にして、ずっと一緒にいることをあきらめる。他の方法で、アラステアさんと一緒にいることにする。アラステアさんが死んだあともこの国を護る存在になりたい。


この神殿にいる、他の精霊の成れの果てみたいに。


意志も記憶もなく、ただ、『王格』だけを見て、一番いい王様になれる人が誰なのか、ていうお告げを下す能力だけを残した存在。

それに、なる為の準備がこれ。


痛い。苦しい。辛い。寒い。熱い。


五分たったのか、一時間たったのか、もしかして三日たったのかもしれない。どのくらい時間がたったのかわからないころ、じわじわと温かな何かが染み込んで来るのを感じた。


これは……アテル王国そのものの感じ……?


そう思ったアタシはその、光みたいに穏やかな『何か』を受け入れる。『何か』はすんなり入ってきて、アタシを通り抜け、『水面』に収まる。


「思ってたより楽だっ……」


はい??????


なんで、アラステアさんが、ここに?


「まさか」


ウソぉ!?


頭の中が、ショックで真っ白になった。


せっかく作ったバリケードが壊されてる。

未来のアタシがやったに違いない。

琥珀色の目が、アタシを見下ろしてる。


目を開いて最初に見えたのは、アラステアさんだった。


起き上がりたくても、さっきののせいでうまくいかない。だるすぎる身体に、アラステアさんとの『繋がり』から力が満たされていくのを感じて、アタシは全身の血が引いていく気がした。


失敗だ。


どうしよう。


「事情は聞いたよ」


誰に?


そんなの決まってる。

未来のアタシに違いない。余計なことをしてくれやがって、と汚い言葉で、心のなかで毒づいた。


さっきまで、床を転げ回ってたっぽいアタシは、アラステアさんに膝枕されてた。

琥珀色の目が、べっこう飴みたいに甘そうに見える。


さいあくだ……。


「好きだ」


アタシを覗き込んでる、アラステアさんの顔は青ざめてる。


「だって」


失敗だ。一番さけてたつもりの、アラステアさんが国王で居られる未来を消しちゃった。


「好きだ」


「この国を反映させるためには」


失敗だ。視界がにじむ。

喉の奥……鼻の奥がツンとした。目尻から熱いものが流れてく。

この人とは、無理矢理一緒にいさせられる時間が長かった。この人とはたくさん話をした。


「好きだ」


「あなたの夢は、この国を繁栄させることでしょ……」


「好きだ」


「そのために努力して、」


「国を導く事は、国王の椅子にいなくてもできるんだよ。アラーナは優秀だしね。もしも私の事を少しでも想ってくれているのなら、私を選んだことを後悔しないで欲しい。

……君の側が、そこだけが私の本当に幸せな場所だ」


そんな事、言われても。


「見たでしょ?アタシ、本当はおばあちゃんなんだよ」


「関係ない。私は君が好きだ」


そんなに、優しい手で、髪を撫でないで。

失敗したの。あなたの夢を壊したの。


「しんちゃんが、チャームのスキルがどうとか言ってた。ねぇ、水面を呼び寄せる為に、何かの魔法みたいな力が働いてないって、言い切れる?

アラステアさんがアタシに向けるその気持ちが、本物だって本当に言える?」


顔を覆ったアタシの両腕は、強引に開かれた。

怒ってる。唇が震えてる。頬が緊張して、強い眼差しがアタシを射抜く。


「それなら、君が私に惹かれているのは、私の魔力や外見のせいではないと君は言い切れるのかい?」


アタシを見下ろしているのは、この国で一番霊格が高い人だ。この国で一番『国そのもの』と同じ匂いを持つ人、この国で一番きめ細かい、滑らかな魔力を持つ人。


「……」


ぐ、とアタシは黙るしかない。

確かに、アラステアさんの外見は綺麗だ。みんながキャーキャー言うの、納得できる。それに、この王国そのものとほとんど同じ匂いのする魂、お高いチョコレートみたいな魔力……。

惹かれている、て……そんな、そこまで周りからバレバレだったわけない……よ、ね?

ああ、もう、わけわかんない。どうしたらいいかわからない。とりあえず恥ずかしいし、悲しいし、怒った顔が怖いし、嬉しいし、困った。


「……ね?関係ないよね。私は君がいればいいんだ」


「……」


アラステアさんの緊張が解けた。柔らかくてとろけそうな笑顔に、やっぱりアタシはどうしたらいいのかわからなる。


「好きだ。愛してる」


告白イベントとか、そんなの今やらなくてもぉぉっ……!

ねぇっ!


今、この国の未来に関わる話がどうこうって話がああああああああっもうっ!


顔に触りすぎ、うなじをさわさわしないっ!

アラステアさん、あなた、今!人間やめて精霊になっちゃったって、わかってんの!?

そろそろ、アタシの身体は自由に動く。

なんか、もう、さぁ……はぁ。

すっごいいろいろ考えて、いっぱいいろいろ苦労したんだけど、ムダだったっていうか、さぁ……。

アラステアさんのせいっていうか、おかげっていうか、涙もひっこんだ。


「……」


よっこいしょって起き上がって、アタシは花散らし水面を手元に呼ぶ。

こうなっちゃったらもう、悔やんでもしかたない。

アタシはアラステアさんを、ずっと好きだった人とこれからも一緒にいる未来を、受け入れるしかなさそうだ。


「うららさんは?私の事を愛していてくれんだろう?

……いや、本当の名前は『わたせれい』だったかな?」


「レイ・グム・オウロ・アウルム」


鞘には、アタシの魂が入ってる。

剣にも、アラステアさんの魂が入ってる。


「アラステア・グム・オウロ・アウルムがアラステアさんのちゃんとした名前なんでしょ?

だったら、アタシは奥さんなんだから……その……そう、なるんでしょ?」


「ふふふ、うん、そうだね」


アラステアさんの笑顔は、よく晴れた青空みたいだと思った。

その空を切り取ったみたいな、青色の剣。

アタシはその剣をアラステアさんによく見えるように持つ。


「名前を呼んで。アタシの名前を。

アタシの水面、アラステア・グム・オウロ・アウルム。

アタシはあなたを、(つがい)として受け入れましょう」


鞘が、パアッと光って、すぐに光が引いていく。


「私の花散らし、レイ・グム・オウロ・アウルムよ。私があなたの番の相手だ」


剣がパアッと光る。

未来のアタシが持ってたのと同じ、波に似た模様が浮き上がった。

非常に完成度が高く、国宝になるのにふさわしい品物に、異世界より召喚された魂が宿り、『国守の聖◯◯』となります。


レリオが作った剣と鞘は共に素晴らしい素材、素晴らしい技量で産み出されたので魂が宿りました……鞘に。

通常は剣にのみ魂が宿るのですが、あまりの素晴らしい完成度だったので、魂が二つ入るだけの空きがありました。そして、『うらら』と名乗る少女の魂は鞘に入りました。

剣にも魂が必要でしたが、鞘に宿った精霊は『鞘と剣の名前』が欠けていたため自覚が薄く、時間をかけて精霊としての能力や自覚に目覚めていきます。

『剣の精霊』が居ないため、うららにはペナルティなどのトラブルが起きます。


最終的に、剣としての形状を保たない『国守の精霊』になる道をうららは選びましたが、失敗。

最も剣の精霊に相応しい魂を剣に取り込んだので、ハナチラシミナモは『国守の聖剣』になりました。

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