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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
異世界より召喚されし巫女
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病室

「確認しておきたい」


胸板に頭を押しつけられてるみたいなこの体勢だと、アラステアさんの心臓の音がよく聞こえる。もしかして、こんなに近いとアタシの心臓の音も聞こえちゃう?


時間がたって、ばくばくいってた心臓の音がだんだん穏やかになる。一方的に心音聞いてるだなんて、なんだか自分がずるいことしてる気になった。けど、アタシが離れたくてモジモジしててもがっちり抱え込まれてる。離してもらえない。


「君も、いつか、消えてしまうのか?」


……どくどくがちょっと早くなった。


「このままだったらね」


ここは、アテル王国じゃないから。

契約者はそこにいるんだけど、なかなか近寄らせてもらえないから。

花散らし水面を、神殿に置いて来ちゃったから。


「どの、くらい」


ここ最近、アタシが眠くて眠くて仕方ないのは、剣のほうが崩れはじめてるからだと思う。未来のアタシは、もう『脆くなってきてる』て言ってた。

海の上にいたときでそうだったんだから、いっくら充電しても、剣の修復のためにアタシが眠りについても、崩れるスピードに追い付けるわけがない。


このままだと、中身がない水面から崩れてく。


花散らしだけならかなり持つ。今のままでも、何ヵ月かは。でも、中身のない水面はたぶん、三日か、四日で目に見えて錆びたり、崩れてく。


完全に崩れてばらばらになっちゃう前に修復しないと、水面はかなりまずい。


「アタシが完全に消えるまで、まだ時間はあるよ」


アタシは、花散らしは……まだ、当分大丈夫だから。アタシはアラステアさんの大きな背中に手を回して、さするみたいにして撫でた。

こうしてると、子供達のちいさな頃を思い出す。

泣いてるところ、こうしてなだめたっけ。


「私が考えていたよりも、はるかに時間が無いんだね」


まぁ、そうだね。でなきゃ、この人がここまで動揺するわけないし。


「そんなすぐに消えないよ」


アタシはね。


××××××××


はっきり言って、アラステアさんを凄いと思った。もともといろいろとすごいのは知ってたけど、それでもまだこの人をなめてたらしい、アタシ。……うん。


アラステアさんはその日のうちから動いた。

いろいろな国に連絡を取ったり、会談したり、ホント魔法でも使ってるんじゃないかってくらいの速さでいろいろなことを決めてった。


アテル王国から着いてきてる部下の人たちが過労で倒れるんじゃないかってアタシは心配したけど、そこも万全だった。

レリオが片っ端から回復魔法かけてた。うっわブラック……。


アラステアさんの動きもあってか、翌々日には国際会議が再開した。もう、根回し済みの事ばっかりで、承認してくだけの簡単な流れになってた。

ヨヌイールチの人たちが真っ青な顔で泣いてたのがね……。脅し過ぎっていうか、仕方ないっていうか、容赦ないっていうか……うん……生きててよかったね、てアタシからは言っとく。うん。


××××××××


ふう、とアタシは目を開いた。

まぶただけじゃなくて、やっぱり全身が重くてダルい。


「おばあちゃん……起きた、の?」


孫の麗佐(りさ)の声だ。ギシギシきしむ首を動かして、そちらの方に顔を向けた。

前より、また視力が落ちたみたい。ぼんやりしてて、見えにくさがアップしてる。


「ええ」


麗佐に手伝ってもらって、体を起こす。


「おばあちゃん、何か飲む?」


「いやだ、そんなに寝起きすぐに、なにか欲しいだなんて思いつかないよ」


少し笑っただけで、首だけじゃなく全身がギシギシきしむような気がした。


表情はわからなくても、麗佐が心配してくれてるのはよくわかる。アタシは麗佐の手の甲だと思える、あったかい肌を少し撫でた。


「おばあちゃん……今回は、何日起きていられる?」


「……そうね、明日までは起きてようかしら」


アタシがそう言えば、麗佐は嬉しそうに息を吐いたのが聞こえた。そんな麗佐に今、これを伝えるのはすごく残酷なことだ。


でも、言わないと。


「麗佐。でも、もうおばあちゃんはダメみたい。

明日までは絶対にもたせてみせるから、お母さん達に伝えて、みんなを集めてくれる?」


麗佐がビクリ、と固まった。


「やだ……おばあちゃん、やだ」


「麗佐」


子供や孫の中で、麗佐が一番アタシに似てる。よく見えないけど、大きな目に、みるみる涙が浮かんでくるのがわかってかわいそうだった。


ハンカチ……はどこだかわからない。

枕元に、ティッシュの箱がいつも置いてあったはずだ。せめて手を伸ばして、渡してあげたいのに、この死にかけた体じゃそんな簡単なことすらうまくできなくて、アタシはため息をついた。


麗佐だって、もう働いているような歳だもんね。ゴメンね、ティッシュも渡してあげられないおばあちゃんで。ひとりでなんとかしてね。……おばあちゃん、ティッシュに手を伸ばせないの。


「う……おばあちゃん……ヒック……この、まま……スン……夢の、世界で、スン……幸、せに暮ら、すの?」


「……うん。そう。だから、泣くのはもうおしまい」


××××××××


麗佐が電話をするために病室から出ていき、アタシは真っ白な壁の病室を見回した。

もう、動かない足。かすんでよく見えない目。寝たきりでいることが増えたせいで、肉の落ちきった腕。

どこもかしこもしわしわで、がさがさで、シミだらけで、よぼよぼだ。


「……ね、だから言ったでしょ、アタシはよぼよぼのおばあちゃんだって」


部屋の空気が揺れたみたいになった。そして、そこにアラステアさんの姿が現れる。


霊格のせいなのか、他に理由があるのか、なんなのかはわからない。アラステアさんのことだけははっきり見える。

すごく真面目な顔をして、アラステアさんはアタシのそばまで来て手と、頬に触れてきた。

アタシはそんなアラステアさんの若い、みずみずしい肌を見上げて笑った。


「アタシね、こっちでは子供が三人いるんだよ。もうすぐ、ひ孫だって生まれるの。

夫と結婚する前に、他に何人かと付き合ったこともあるよ。……ねぇ、がっかりした?」


アラステアさんが何を考えてるかなんて、アタシにわかったためしがない。今も、このくそまじめな顔をして、アタシのしわくちゃな手と頬を撫で回してるこの人の考えがさっぱりわからない。

まだ二十代の彼の目に、この、死にかけたアタシはどう映ってるんだろう。どれだけ醜く映ってるんだろう。


「はぁ……愛する人が年老いた姿は、こんなにも美しく感じるものなんだね」


はい死んだ。


アタシ、死んだ。なんかもう……っ!

いや、ホントに明日死ぬ予定なんだけど。


何言ってくれちゃってんの!?はぁ!??????


わからない。ほんっとわからない。ダメだ、この人。

アタシは、この人と距離を置きたくて仕方ないのに、なんでこんなにぐいぐい来るんだ。ホントにわからない。


しんちゃんが死んだ頃から、アタシは病気とか老化とかで死にかけてた。そのぼろぼろの体を、アタシはレリオやアラステアさんからもらった魔力でここまでずっと、もたせてきてた。


医者から、なんで生きていられているのかわからないって言われたこともあるくらいだし、ね。


あっちの世界にアタシひとり、ずっといるのは不安だった。だから、いつでも逃げられる場所を残しておきたかった。


逃げ道のつもりでもたせてただけだけど、なんか……もう……なんとでもなりそうだよね……。


はぁぁぁぁぁぁあ。なーんか……いろいろ、不安だったのがばかばかしいっていうかさぁぁぁぁぁぁ。


戻ってきた麗佐にアラステアさんを紹介して、次の日勢ぞろいした子供や孫たちとはぐだぐだなお別れをして、アタシは、渡瀬麗(わたせれい)としての終わりを迎えた。


たまには様子を見に来るから、さみしがらないようにっていちおう言っておいたけど、アタシとしんちゃんの子供に孫なんだから、きっと大丈夫。


これで、アラステアさんの謎の執着がなくなって、アタシともっと距離をおいてくれるようになったらもっとずっといいのに。


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