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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
異世界より召喚されし巫女
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襲撃

朝ごはんを食べ終わって、食後のお茶も飲んだ。そろそろ、部屋に戻らないといけなくなる。

ピニーに……アタシ以外の精霊に、聞いてみたいことがある。


今、聞いていてみちゃう?


ピニーさんと世間話してるアラステアさんを見上げた。


レリオの無精髭は見たことあるんだけど、この人の無精髭ってまだ見たことないなぁ……やっぱり、永久脱毛とかしてるのかな……脛毛とは生えてたから、ムダ毛が存在しないってわけじゃ、なさそうだよなぁ……。


ムカつくくらい綺麗な顎のラインだ。


この、無駄に綺麗な顔をした人のねちっこい、そしてやきもちやきな性格を考えると、今ここで下手な聞きかたしたりすると、なんかいろいろなことのジャマされそうだなぁ。


「そろそろ、部屋に戻らないといけないね」


アタシの視線を、早く部屋に帰りたいからだとアラステアさんは決めつけた。

別にーぃ?アラステアさんがアタシとピニーを話させないようにしてるの見え見えだもん。いいもん、大人しく帰るもん。ファンとしては、同じ空間にいられるってだけで幸せだもん。


アタシたち、ハタから見る分には仲良しに見えるっぽい。生暖かい笑顔ってこれなんだろうなって感じに、ピニーはアタシとアラステアさんを見て微笑んだ。


違う!そうだけど違う!アラステアさんのヤキモチヤキはそうなんだけどアタシは違う!


っっっあー!!否定したい!できない!!


……んもうっ!!


ピニーがアタシに握手を求めて、手を出してくれる。

アラステアさんと違って、ゴツゴツした手だ。


「ヨヌイールチから、用事が済んだので会議をまた再開できると連絡がありました。

他国の『異世界より召喚されし巫女』……いえ、精霊に会うのははじめてです。また今度、ゆっくりお話したいものですね」


「……あの」


「なんでしょう?」


ピニーさん……やっぱり若いときもカッコいいなぁ。初めてピニーさんの曲を聞いた時からずっと憧れてた。この人の曲で何回癒されたのかわからない。


「ピニーさんは、いつの時代のピニーさんですか?」


アタシにとっての『今』、ピニーはとっくに人生から引退した人だ。こんなところで、こっちの世界で、こんなに若いピニーとこんな風に会えるとか、ぜんぜん思わなかった。


たぶん、この髪の長さはメジャーデビュー前のピニー。

インディーズ時代のジャケット写真の姿、そのまんまのピニーはアタシが高校生の時よりも若い。アタシよりも年上には絶対に見えない。


……ピニーの追悼ライブね、すごかったんだよ。たくさんのアーティストが集まったんだよ。

ドームでやったんだよ。アタシもしんちゃんと行ったんだよ。


ピニーの笑顔にちょっと、寂しそうな陰がさした。


「私は向こうで死んでから、こちらに来ました。

……もう、百年以上前の事です」


そっかぁ……。やっぱり、いろいろあるんだなぁ……。


「次の国際会議は来年ですね。

また、お話できるのが楽しみです」


太陽みたいににっこり笑ったピニーがまた、手を出してくる。

アタシは今度はそのおっきな手を握った。


「そうですね、楽しみです」


だけど、ピニーと会うのはこれが最後だと思う。会えて良かった。ホント、会えて良かった。


××××××××


ネェッロ王国って、やっぱり南国感がある。

長い長い渡り廊下は木製で、どうもこの辺はアジアンリゾートって雰囲気になってる。


芝生と、ベンチがあって、その向こうに海が見える。今日も暑くなりそうだな……て言いたくなるけど、けっこう過ごしやすい気候だ。日向ぼっこしたいなぁ……。


ん?


視界の隅っこで、何かが動いた。


「……え?」


目の前で、ネェッロがつけてくれた護衛の人がグラッと倒れた。


あわててアタシは意識を広げようとする。……ああうっ!ダメ、やっぱりできないっ!


「うららさん、伏せっ」


アラステアさんが、焦って固まったアタシの腕をぐいっと引っ張って床に押し倒した。痛い。床が硬い。


……ふせって!犬じゃないんだからねアタシ!


ピキン、てアラステアさんが魔法でバリアみたいなのを張ったのが空気の感じでわかった。


アラステアーバァァーリアァ……(ごめんなさいホントごめんなさい)なんて……言える空気じゃなさそう。


……アタシ。


今、何の役にも立てない。


こんな時なのに、ここで王様が襲われてるっていうのに、アタシにはなんの力も湧いてこない。怖い。体が震えてる。

アラステアさんにぐいぐい押されてる頭と腕が痛くて、あんまり頭を押さえつけられるものだから、今見えるのは床の木目だけだ。


ガラス越しみたいに、金属どうしがぶつかる音が耳に痛くて……アタシ、何のためにここにいるんだろ?


情けないなぁ……。


泣くな、アタシ。悔しい。怖い。怖いよ。

泣くな、泣くな、泣くな、アタシ。


クイクイッって、レリオとの『繋がり』が引っ張られる。レリオが襲われてる。


レリオ……っ!


アタシ、ここで怖がってる場合じゃない……レリオのところに行かなきゃ。

……レリオ……うん。『繋がり』を通してレリオの所には行けそう。


たぶん、たぶんだけど、レリオのすぐ近くに行けば、アタシもそこそこは動ける……はず。

だってアタシはレリオの契約者。レリオに呼び出された。レリオが剣を創って、アタシを鞘に封じ込めた。


アタシは、レリオを、契約者を守らなきゃいけないんだ、それが精霊ってものだから。


でも。アタシは奥歯をぎゅっと噛みしめた。


……泣きたい。今、すっごく泣きたい。


××××××××


アラステアさんがアタシの頭を押さえつけるのをやめて、バサッとアタシにおおきな布がかけられた。


「全部、終わったよ」


布のせいで、足元しか見えない。アラステアさんに抱き抱えられるみたいにして、アタシは運ばれた。


……まだ、泣くな、アタシ。

今泣いたら、声が漏れる。


今周りにはメイドさんとか、部下の人とか、官僚みたいな人がきっといっぱいいるはずだ。

アラステアさんが何か指示を出して、数人と短いやり取りしてたり、誰かがバタバタ走ってるのが聞こえたような気がするけど、耳鳴りがしてるアタシにはやり取りの内容までは聞き取れない。


泣くな、アタシ。


パタン、とドアが閉まる音がして、ボスンってアタシはふかふかの上に落とされた。

たぶん、ベッドかな。


布が取り払われて見えたのは、ネェッロ王国が用意して、この数日アタシ達が過ごしてきた寝室だ。

ギシギシいう首を回して部屋を見回しても、アタシとアラステアさんしかいない。


「アタシ……レリオの所に行かなかった……」


アタシの目から、ぶわっと涙があふれてくる。


「レリオの精霊なのに……レリオの精霊なのにぃっ!」


アタシは、眉を下げたアラステアにしがみついた。


「アラステアさんのことも守れなかった!

アラステアさんは王様なのにっ!アタシ、レリオのっ精霊なの、にっ!アラステアざん、は、王様、なのにっ!レ、リオのっせぃ霊……なの……っに、アラステ、アさん、は王様なの……にぃ……っ!」


アラステアさんが、黙ってアタシを抱きしめてくれる。

涙も鼻水も止まらない。

頭が痛い。全身がびきびきひきつるみたいに痛い。精霊としての役割を無視したせいだ。息が苦しい。


「あだし……っれ、りお、をっ守る、の、がやぐめだのに……アラステアざんからはなれられなぐで……」


「うん……」


「アらスでアざんのこど……ばもえなぐで……」


「うん……」


「ごわがっ……ああああああ……ごわがっだ……」


「うん……」


アタシはいっぱい泣いた。アラステアさんの腕の中は、いつも通り暖かい。

やっと気持ちがちょっとだけ落ち着いて、アタシはハンカチでずびっと鼻をかむ。


「う……ひっく……もう……すんっ……だいじょ、ぶ……すんっ……ありがと」


顔を洗って、今アタシがやらなきゃいけないこと、出来ることを考えよう。気持ちを切り替えなきゃ。


なぜかアラステアさんの腕がアタシを包んだまま、解放してくれない。


「まだ」


頭の上から、アラステアさんの声が降ってくる。

頭に顔を突っ込んでるんだと思う。脳天がもわっと暖かくなって、声はちょっぴりだけこもってた。


「私はまだ、落ち着かないんだ……もう少しこのままでいさせてくれないか」


「そう……な、の?」


珍しい。アタシがしがみついてただけじゃなく、アラステアさんもアタシにしがみついてただなんて。


「先程、私がいろいろ指示を出していたのはわかっていたかな」


「うん」


「その時に、報告が二つ入った。先程の襲撃はヨヌイールチ国によるものであることがひとつ、それと」


言いながら、アラステアさんの心臓がばくばく音をたて始めた。

なんだろう。


見上げたかったけど、腕の力が強まって、アタシは動けない。


……なんだろう。


「ヨヌイールチ国の『異世界より召喚されし巫女』が、ここに来ていたらしい。

そして、先程の襲撃の最中に……死ん、だ、そうだ」


死んだ。アタシみたいに、こっちに来ちゃった誰かが、死んだ。

ピニーがあっちではもう死んでたんだって聞かされるのとはちょっと違う。こっちで死んだら、アタシたちは一体、どうなっちゃうんだろう。


「うららさんもネェッロ王国に来る少し前から具合がよくない……君は、大丈夫なんだろうね?」


大丈夫だよ、とはちょっと言いにいくい。

アタシはアラステアさんの背中をそっと撫でた。

アラステアさんがこんなに不安そうにしてるところなんて、初めてだ。


アタシは怖いって、悔しいって泣いてたけど、その間ずっと、アラステアさんは不安で仕方なかったの?


アタシは、集中して、自分自身の様子を探る。

……まだ、何日かは、持つ。

レリオの、契約者の力を分けてもらえたら、更に何日かは延びる。

それを正直に伝えたら、ちょっぴりだけ落ち着いたっぽいを

アラステアさんは、アタシを解放して、そして首を横に振った。


「……うららさん。私をハナチラシミナモの所有者にして欲しい」


そろそろ、そういうこと、言われるとは思ってたけど……今言われるとは思わなかったなぁ……。



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