会議が始まりましたね……ってぴにー!!!
結婚することをあれだけ嫌がってたうららだけど、実はあれでかなり、アラステア様の事が好きだったりするんじゃないか、と俺は思っている。
今回、急に召集がかけられた国際会議。
急な要請にどれだけ早く対応できるか、どれだけの人物が会議に現れるか……それさえも、国力を示す指標となってしまう。
当然ながら、俺たちアテル王国の一団がメラーテルに到着した諸外国の中で一番乗りだった。
他の国が揃うまでの期間、アテル王国の一団はネェッロ王国側と外交や商業の話し合いをしたり、親交を深めたり、視察に出る事が出来る。
他の国が到着してくると、そういった国々とも話し合いや親交を深める為の茶会やパーティーが開かれたりする。
そんな中、うららは大人しくアラステア様の隣にいた。
たまに微笑んだり、耳打ちしあったり、見事に仲の良い国王夫妻を演じている……つもりらしいけど、あれはどう見ても新婚の、イチャイチャ夫婦の姿だ。
アラステア様がうららの側に居ないときは、アラーナの出番だ。アラーナとも仲の良い姉妹として振る舞っている。
いや、こっちは本当に仲が良い。
うららは基本的に自分で受け答えしないので、部下の報告によると、一部の国からの評価が『お高く止まっている』だとかであまり良くないらしい。
政治も外交も経済のことも、何もわかっていないうららがおかしな事を言って、外交問題になるよりは良いと思う。
……というような事をおっしゃったのは、アラステア様だ。
××××××××
まさか、国同士がまじめに話し合いしてる席で、クロスワードパズルを解いてる人なんて普通はいないと思う。
政治とか商売のことについて、よくわかってないアタシは、お茶会とか会議とか、ぜーんぶ黙ってた。
ちょっと悪いかなっとは思ったよ?でも、相手の人が言ってる事、難しくてぜんっぜんわかんないんだもん。
アラステアさんもアラーナさんも、レリオもブレンダンも、他の役人の人達もそれで良いです、黙ってて良いからニコニコとだけしててくださいねって言ってくれたし。
わかんないクセに、テキトーな事を言って、真面目にお仕事してる人のジャマするのはよくないとアタシも思う。うん。
国連……とかそんなものよりは、かなり規模の小さい会議だ。
テーブルの並びは、コの字っぽくしてある。
ひとつの辺に二つの国、テーブルは三列から四列でひとつの国の分って感じだ。
そういう塊が七つあるから、七つの国が今日集まるんだなって事がわかる。
それぞれ、偉そうな人だとか、いかにも官僚って言うの?役人さんとかが書類とか本とかを山のように積み上げてる。
コの字の空いてる方にもテーブルがある。そこは、主催のネェッロ王国がいるところ。
ネェッロの人たちはまだ、誰も来てない。
それぞれの国が自国内のメンバーで話し合ったり、他のテーブル(国)に声をかけたりして、かなり今は賑やかだ。
で、そんな中でアタシはアラステアさんに渡されたクロスワードパズルをやってるわけだ。
暇潰しにはすごくいいけど、いいの?これ。
クロスワードの他にしりとりノートまであるんだよ……なんと、これはこのテーブルについてるアテル王国全員参加。
舐めてる?会議。
クロスワードでわかんないところを、アラステアさんが教えてくれる。ね、国際会議ってのを舐めてるよね?さすがにまずいと思うんだけど!
手を伸ばしてきたアラステアさんが、いきなりアタシの耳飾りに触れてきた。くすぐったい。
「ちょっと……こんなときまで仲良しゴッコするんですか?」
文句を言ったとたん、綺麗な音楽が頭の中に流れ出して、ガヤガヤとした周りの音が消えた。今朝渡されたこの耳飾りって、何かの魔法の道具だったっぽい。
「そう。いつでもどこでも、私たちは仲良しなんだとここにいる全員に見せつけておかないと駄目なんだよ」
アラステアさーん?なんかその笑いかた、スッゴい、うさんくさーい!
……でもまぁ、どうせ、アタシ、会議で発言することないもんね?
相変わらず、アラステアさんのお声はよっく聞こえる仕様らしい。アタシはニッコリ笑って、アラステアさんの耳に囁いた。
「あとでゼッタイ、このたまりにたまったイライラをぜーんぶまとめてぐーで殴ってあげるから、カクゴしててくださいね」
「それは怖いな。ふふふふ」
「ふふふふ」
ふふふふじゃないっての!
マジでなぐってやる……。むぅ。
××××××××
ネェッロ王国の首脳が揃い、会議が始まった。
最初は当たり障りのないような内容からだ。
うららちゃんは、アラステア様の魔法の道具とパズルを与えられたせいか、とてもご機嫌で、大人しくしている。
俺の役割は書類をやり取りする通信機を操作することで、交渉の一切はアラステア様とアラーナが受け持ってくれている。
はっきり言って、今回の戦争についてのヨヌイールチ国の主張が酷い。
聞いている各国も、揃って呆れているのがよく伝わってくる。
「何の問題があった?先にちょっかい出してきたのはアテル王国。国主不在の時にこちらが仕返しして何が悪い」
いやいや、先に……ていつの話だよ。
「先に、とおっしゃいましたけど、それは四百年前のお話でしょうか?」
「そうだ」
アラーナの質問に、ヨヌイールチ国王がうなずいた。
確かに、歴史上、四百年前にアテル王国がヨヌイールチを攻めた事になっている。
「四百年前の精算はその戦争の翌年に済んでおります。
そもそもあの戦争も、そちらの国がわたくし共アテルの大地に呪いをかけられたからですよね?」
アラーナはそこで一旦、記憶を探るように首を傾げた。
「確か、当時のヨヌイールチ国王がアテルの王妃に懸想なさったのが発端だと、ヨヌイールチ国史に記載されておりますよね?」
アラーナの言葉に、会場のどこからか失笑の漏れたのが聞こえた。たぶん、他国の役人だろう。
俺も笑いたい。
「そ……っそもそも、あれは戦争とは言えない!」
ダン、とテーブルを強く叩いて、ヨヌイールチ国王はこちらを指差してきた。
「そちらの国が何かの魔法を使って行った、一方的な虐殺ではないか!!」
うららの、不思議な魔法のようなアレの事を差しているのだと、すぐにわかった。
「ヨヌイールチ国王」
静かに、アラステア様が立ち上がる。
それだけで空気が変わった。明らかにアラステア様の方が貫禄がおありだ。
「あの戦争において、そちらがお使いになった呪法についてのお話はされないのですか?」
戦争のあとの調査で、モンスターを呼び寄せる呪法が使われていることが判明している。残っていた魔力と紋様も証拠としてサンプルを各国に送ってある。
ヨヌイールチ国王の顔色が、分かりやすく変わった。
「とっ……とにかく、あの辺りの領土は我がヨヌイールチのものだ!」
言ってる事がめちゃくちゃじゃないか……。
カタリ、ガタリと音がした。
ネェッロの席にいた男性と、うららが同時にゆらり、と立ち上がる。
「もう一度、言ってください。今、なんと?」
ネェッロの男性が静かに、ヨヌイールチ国王に向かって告げる。
不思議な雰囲気の男性だ。うららのようにヒラヒラの多い服を着ている。
うららのほうは耳飾りを外して、アラステア様に押し付けていた。
「今、領土をよこせって、言った?」
……あ、怒ってる。
かなり怒ってるぞこれは……あー……もう……これは……止められないぞ……。
音を聞こえなくする魔法の道具を使ってたくせに、よく聞こえたな?調子でも悪かったのか?
「ふざけないでよ」
もしもうららがここで暴れだしたら、外交問題だ。
××××××××
綺麗な音楽を聞いていたのに、嫌な音がした。
ん?
今立ち上がって何か言ってるのは、どっかの国の人だ。何を言ってるのかは、音楽のせいでわかんない。
ただ、領土がなんとかって、言ってなかった?
……は?
え?領土?
「ふざけないでよ」
領土がどーのこーのって話なら、黙ってなんていられるわけ、ない。
「そうですね」
予想外の方から男の人の声が同意してくれたから、アタシちょっとびっくりしながらそっちを見た。
ピニー!!!!
やだ……ピニーだ!!ピニーがいる!!
活動50周年ライブ以来かも!!?
キャーって歓声あげたい。めっちゃ手を振りたい。
アラステアさんに手を押さえ込まれてなかったら、ゼッタイやってた。
「国の線を決めるのは、我々、精霊の役割です。
人間に勝手に決められては困ります」
うんうん。
アタシは完全同意!って感じにうなずく。
ヒラヒラした衣装があんまし似合ってないけど、『異世界より召喚されし巫女』ってことで着させられてるんだと思う。やっぱりピニーは素敵だ。サイン欲しい。
「そうですよね、水の剣」
「アタシは草の盾です、風の槍」
みんながざわって言った。アタシは会場を見回す。
……自分が精霊だって言ったの、初めてだったかもしんない。




