なんかね、このインクがスゴいらしいよ(1)
夜が来て、そして時間が朝になったから、神殿の門の中にある、広場みたいなところに行く。
ここは、神殿前にある、一般の人が入ってくるとこほどはだだっ広くない。
けど、ここだってじゅうぶん広い。
白っぽい石畳と、丸い広場の周りにはヨーロッパっぽい、白い柱が何本も建ってる。
前に来たときも思ったけど、特別エリアって感じがした。きっと、ここは王族とか貴族エリアみたいなものなんだと思う。
で。
なんか……。
用意されてる馬が、三頭しかいないよ?
交換用のお馬さんがいない。
アタシは不思議に思ったけど、ウィンとブレンダンは普通に馬に乗ってる。それでいいっぽい。
……てことは、ここから港って、あんまり遠くない?
それとも、神殿にいる時間が予想よりも短くて、時間に余裕ができた?
なんとなくすっきりしないけど、ボフェティさんとウィンの手配にミスがあるわけない。
「いってらっしゃいませ」
ボフェティさん他、神殿にお勤めの人たちに見送られて、アタシたちは朝も朝、すごく朝、早めの時間に日の出と一緒に出発した。
「行ってきます!」
××××××××
近かった。
馬で、小一時間?
歩きでも余裕で移動できた。
「アラステアさんたちと別行動してた意味……あるの?」
「あるぞ。俺たちが神殿にいる間に、アラステア達は荷物を運べる」
荷物、ねぇ。
馬車移動だと遅いし、自由が少ないから馬移動でアタシはよかったけどさ。
まだアラステアさんたちが港町に着いてないなら、神殿に戻りたいなぁ……って。アタシは遠くに小さく見える神殿を振り返った。
そう。
こっから見えてるのだ、神殿。
神殿のほうが高台ってのもあるけどさぁ……。
文句は言いたいけど、とりあえずって感じで王族対応のできる宿に、入る。
まだ朝だよ!?普通なら、チェックアウトもこれからって感じだからね!?
うっ……。
宿が、あんまり豪華で上品すぎるから、びびる。
ほら……一応、王妃さまってことになってるけど、ホントに『いちおう』だから、アタシ……。
チラッと横目で見えた従業員さんたちが、スッゴい緊張しまくってるのがわかる。
安心してください!!!!アタシもびびってる!!!!
オタガイサマだよ!!!!
カーペット?じゅうたん?はお城なみにふかふかだし、壁にかかってる絵があからさまに高級だし、やっぱりここにもおっきな壺とか飾ってあるし……。
もしかして、お城でアタシがいる建物より豪華かもしんない。
早くリラックスしたい。カピバラになって寝て過ごしたい。
ちょっぴり現実逃避しちゃう……ううっ。
前を歩くウィンと、振り返ったらすぐ後ろを歩いてるブレンダンは、王族っぽいオーラを出してる。
これは、アタシも王族っぽくしないとダメっぽい?
ここで、優雅でお上品……ていうヤツを失敗しまくったら、しかもそれがカサンドラさんとデメトリアさんに後で知られたら、絶対怒られる。そんなのイヤだから、仕方なく、いっしょうけんめい、お上品にアタシも歩く。
めっちゃ高そうなお部屋に通された。正面の大きな窓からはきらきら光る綺麗な海と、青空が見える。
これは……わーーー!!って大声を出して駆け寄りたい。
我慢だアタシ、耐えるのアタシ、たぶんアラーナさんとかはそんなことしない!がんばれお上品!!
「はぁ……とても素敵な景色ですね」
よし、優雅、成功!
ホテルマン(ここが宿なのかホテルなのかアタシにはわかんない。もうこの、ここに案内してくれた人はホテルマンってことでいいと思う)さんはハッとしてから、申し訳なさそうにおじぎした。
「お褒めいただきありがとうございます…… 」
なぜ申し訳なさそうに?
不思議に思って、心の中だけで首をかしげる。ホテルマンさんが頭を下げた時、ウィンがこそっと仕草で『座れ』って言ってきた。
アタシは少し硬めのソファーに座る。
テーブルにお茶が置かれたとき、ホテルマンさんの手が震えてた。
……あれ?
なんかアタシ、失敗したかな?
××××××××
「すっごい緊張したぁ……」
ホテルマンさんが部屋から出てって、ブレンダンが扉に鍵をかけた瞬間、アタシの緊張は崩れた。
ムリ。優雅、しんどい。
どうせ旅装だし、床ふかふかだし。
床にごろーんて寝そべっちゃえ!
あ……幸せ……。じゅうたんふっかふか……。
「だらしないぞ」
ソファーにポスンて座ったウィンにはあきれられた。
「まぁまぁ王妃っぽく振る舞えてたよ、がんばったな」
ブレンダンはボフって雑に座る。さっきの王族オーラがもう、無くなってる。
どうやって出し入れするの、その王族オーラみたいなの。
「もう、アラステアさんがくるまでカピバラになってひなたで寝て過ごしてたい……」
てアタシは言いかけた。最後まで言えなかった。
カピバラの『ぴ』、を言いかけたとこで、二人に
「……っ待て!」
「ダメダメダメだろそれはっ!?」
と言わせてもらえなかった。ご不満。
「なんでよ」
アタシは床にごろーんてしたまま、二人を見上げる。
どうせアラステアさんたちを待つだけなら、それでもいいじゃん。……だめ?




