外交デビューのお誘い
「今度メラーテルで行われる国際会議に、王妃として同席してほしい」
……はい?
アタシが?それって、外交するってこと?
「ムリ」
座るよりも前、お茶室に入ってすぐにそれを言われた。
アタシもつい、考えるよりも前、反射で答えちゃった。
アタシが歩くと、ヒラヒラしまくった衣装の裾が細かく揺れて、波打つ。
衣装は軽いし動きやすいしで楽なんだけど、それを着る前の作業……今回のわしゃわしゃからお着替えまでの作業も大変だった。しっかりぐったりだ。疲れたぁ……。
疲れきったアタシは、肘掛けに寄りかかりながらアラステアさんを見上げた。
アタシの体感だとかなり時間がたってることになってるんだけど……こっちじゃ、何日たってるんだろ?
「……二日間だよ」
アタシの視線に気がついたアラステアさんは、琥珀色の綺麗な目を細めた。
この人は目だけじゃなくて耳の形とか、唇の形とか、バランスとか、ムダに全部が美しい。なにそのシミもシワもないつやぷる素肌。
嫌味か。
お髭はどこにやった。男らしさはどこ行った。
……もしかして、永久脱毛の可能性が微妙に出てきた?出てきちゃった?
アラステアさんがアタシのすぐとなりに腰を下ろしてくるのにはもう、あきらめた。
そのアラステアさんがちょっと身を乗りだしてきたから、アタシの顔を覗き込むみたいな感じになる。
「うららさんの方は、もう落ち着いたのかな?」
あのさぁ……ちょっと、ねぇ、この人ってさぁ……はぁぁ。
「……まぁ、アタシのほうじゃ、けっこうな時間もたちましたし」
そうだ。
前回来たときはアタシ、かなり落ち込んでた時だったんだっけ?
思い出しちゃうと、やっぱりどうしてもちょっと、落ち着かない。
アラステアさんには二日前の事なの……?うわぁ……。
えっと、確か、あの時って、除幕式があったんだっけ?
「カサンドラさんのほうは、あれから落ち着いたんですか?」
カサンドラさんが、キアランさんの事を思い出して泣いてたような気がする。アタシにとってはすっごい前の話だから、いつのことなのかはかなりうろ覚えだ。
「うん、それについては心配ないよ。
もともと父上が亡くなってから、かなり時間も経っている。あのときはちょっと、感傷的になっただけかな」
……それなら、良かった。
……そうだよね。時間が経てば、悲しみは消えなくっても、だんだんと落ち着くものだよね。
アタシは少し息を吐く。
六角形をしたこの部屋の内装はシンプルだ。淡い水色の壁と、深い茶色の壁板に、やっぱり茶色の床。
天井は壁と同じ色で塗ってある。ペンキ?しっくい?なんていうの?……そういうのでざざっと作られた、おっきな花の模様があるだけ。
テーブルは木目の綺麗な楕円形で、ソファは薄紫に青い模様が入ってるけど、これも控えめで、キツさがない。
全体的にさっぱりしてる。
この部屋の雰囲気を、実はちょっとアタシ、気に入ってたりする。
……外から丸見えじゃなきゃ、もっといいのに。
この部屋でカサンドラさんとキアランさんも、仲良くお茶をしたのかな。
それとも、アタシとアラステアさんだけの話なの、かな……?
今はデメトリアさんと同じ建物に住んでるカサンドラさんは、キアランさんが亡くなる前、この建物に住んでたって聞いてる。
「それで、」
アラステアさんの声で、ぼんやりとしてたんだって気がついた。
「国際会議の話なんだけど」
ちょうどばっちり目が合った。
アラステアさんが、ん?て感じに首をかしげる。下から。アタシの顔を覗き込みながら。
……っ!!?
いい大人がそんな事するんじゃないっ!ムダに綺麗な顔をした大の大人がそれをやると、その仕草とのギャップおっきいんだからっ!
お城をうろうろしてる、全部のご令嬢にあやまって……っ!
「ふふっ……。うららさんはいつも通り、座っているだけでいいんだよ。私とアラーナが全て受け合うのだから」
アタシの反応を見たアラステアさんは、満足そうにふふふって笑った。あーもうっ!腹立つ。
そういうところでからかってくるから……っ!
こういうところ、だいっきらい。
「だいたいメラーテルってどこのことかわかんないし。
ムリです。ムリ」
たぶん、この国じゃない。それだけはわかるよ。
用意のいいアラステアさんが、準備してたらしい地図を広げる。
「この国は、長く玉座が空いたままだった。
私が無事に戴冠したとはいえ、まだ他国からの目は厳しい。この会議で、我がアテル王国の内政は揺るぎないと知らしめておきたい」
難しい事を言いだした……。難しい話、ムツカシイ。
ていうか、玉座が埋まらなかったのって、アラステアさんがさっさと結婚しないで、ずっと遊びあるいてたからだよね?
さっきも言われたように、アタシに国交とかできる訳がない。それはアラステアさんもわかってるはずだ。
なのに、アタシが行かなきゃならない理由。
「夫婦仲良しアピールをそこでもしろってことですか」
「……そうなるね」
良くできました!みたいな笑顔にグーパンチしたい。
だいたい、なんで夫婦仲良しアピールが政治の役に立つんだか。
絶対、ぜっったい、そんなとこに行ったらめまいする。するに決まってる。自分がこのアテル王国から出ることを想像したら、なんだか背中がぞわぞわしてきた。
あ、これは絶対ムリ。
「ムリムリ。ムリです。ホントにムリ。
ワガママ言ってるのはわかります。でも、無理」
アタシを落ち着かせたかったのか、アラステアさんはアタシの二の腕に手を添えてきた。
さっきまでのアタシをからかう感じはもう、しなかった。
「うららさん?」
ムリ。アテル王国から出るなんて、絶対ムリ。
むぅ……。
地図にはネェッロ王国、て書いてあった。
アテル王国からは船で行くっぽい。
むぅ……。
「一回、神殿に行かせてください」
「神殿に?」
「アタシにもいろいろあるんです」
本気でムリなのがやっと伝わったっぽい。説明出来なくてごめんなさい。
アラステアさんが少し考えるような感じの顔になった。
「……私とアラーナは移動準備でどうしても忙しい。
ボールドウィンならつけられるかもしれないね。
調整しよう」
今日からほぼ毎日の更新ができそうです。




