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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
6/75

異世界より召喚されし巫女

早朝は特訓、朝食を取ってから商店街をぶらぶらする。

そのあと村の近くの森に行く……という繰り返しも今日で3日目。


森には街道よりも少し強いモンスターが出てくる。

勿論、俺の腕なら問題なんて無い。


うららは森で木の実を見つけては、『あれは食べられるの?』と聞いてきた。

だいたいそれらに毒は無い。

薬の材料になったり、ダーの材料だったりするものばかりだった。


でも、洗っただけの木の実だとか、よくあのまんま食べる気になるな……。


俺は柔らかな草地に座った。

その辺の木の枝で、地面に模様を描く。

口の中で呪文を詠唱した。


「またそれやってるんだ」


うららが俺の側に寝転がる気配を感じた。


描いた模様が赤く光りだす。


もこもこと地面が小さく盛り上がる。

俺の描いた模様の光がだんだんと青に近づいていく。

青からだんだん白い色へ。

……ゆっくりと、光が引いていく。


鈍く銀色に光る塊がいくつか、模様のあった場所にある。

それを拾って俺は大きく息を吐いた。

魔鉱石の精製はそれなりに疲れる。


「ごめんね、いつも。退屈だったでしょ」


「そんなこと無いよ」


うららは立ち上がって、服についた葉っぱを払っていた。


「何をやってるのかさっぱりわかんないけど、面白いもん」


それから俺が持っている小さな袋を覗き込んだ。


「で、これなぁに?」


「魔鉱石」


「マコウセキ?」


あの……。顔が近くないですか?

俺は少しだけ、うららが見やすいように袋の口を少し動かす。

どきどきしているのがバレないように、顔が離れるようにした。


「珍しい金属でね、これを加工すると、武器や装備品に使えるんだ」


今の、変に思われなかったかな。不自然じゃなかったよな?


「この辺からもこもこ出てきたのに?」


くりくりした目が俺を捉えている。

良かった、変には思われてなさそうだ。


「どう説明したらいいかな……」


魔鉱石は強力な武器の素材になる。

他国のスパイなら、魔鉱石の精製法に興味津々なのはわかる。

だけどこの数日いろいろ話をしてみて、俺はうららがスパイの可能性は低いと思い始めていた。


それに、この魔法は説明したからって出来るもんじゃない。


魔鉱石精製の材料も、魔方式も魔方陣もありふれたものだ。

呪文は聞かれていない。呪文を聞かれたところで素人が簡単に魔鉱石を精製できる筈がない。


魔鉱石は精製法が難しい。


だから稀少価値があって旅費にするはぴったりなんだけど……。


「特別なコツがあってね。誰にでもできる訳じゃないんだ」


説明がめんどくさくなった俺は、笑って誤魔化す。


「へー……」


うららはそんな説明にもなっていない説明で納得してくれたのか、しきりにうんうんうなずいていた。


「じゃあ、レリオって本当に凄いんだね!」


「そうだよ俺、凄いんだから少しは尊敬しろよー?」


なんて軽口をかわしてみたりする。


「んー、アタシの事を『うららちゃん』ってまた呼んでくれるようになったら考えても良いかな?」


魔鉱石の精製は、魔石の時とは違ってやたらと時間がかかる。


陰りはじめた日差しを感じて、宿へ帰ろうとうららを促した。

森の木の間から見える空を見て、しばらくは雨が降らなさそうだな、とか俺はぼんやり思っていた。


街道に辺りが騒がしい。

うららの顔が緊張している。


モンスター。


口の形がそう言っていた。


「うらら……ちゃん、ここで待てる?」


うららは辺りを見回した。周囲に他のモンスターがいないか警戒したらしい。


無言でうなずくのを確認して、俺はモンスターに襲われている荷馬車と、その護衛らしい人達の所へ駆けていった。


「加勢する!」


随分とモンスターの数が多い。

俺は剣を振る。


「助かる!」


護衛のひとりが叫んだ。


××××××××


昨日レリオが助けた荷馬車に、アタシは乗っけてもらってた。


どう話をつけたのかはわからないけど、レリオは護衛として荷馬車を護っている。


つまり……つまり……実はどういうことかアタシにはよくわかんない。


「うららちゃん」


先頭の荷馬車にお父さん、真ん中の荷馬車にお母さんと女の子、後ろの荷馬車にはお兄さん……4人家族+護衛が7人。


「なぁに?クラリッサ」


「レリオって、うららちゃんの恋人?」


はぁ???


女の子はコイバナがお好き。

どこの世界でもそういうもの。


「違うよ、ただの旅の連れ」


「えー?違うの?」


クラリッサはアタシより5歳くらいは年下に見える。

今は残念そうに唇を尖らせてた。


「クラリッサ、うららさんが困っているわよ」


馬の手綱を握るのはシモーナさん。

クラリッサのお母さんだ。


「でもぉ……」


シモーナさんが何か、いたずらっ子みたいな感じでアタシとレリオを交互に見てた。


「本当に、ただの《・・・》旅の連れがここまでしてくれるものかしら……?」


この親にしてこの子アリ!

シモーナさんもニヤニヤと噂好きそうな笑いが口元に浮かんでた。


指輪を貰ってるところを見られなくて良かった!


アタシは左手の人差し指に意識を向ける。

今、それを見るのは良くない気がした。

そこには今朝、宿を出る前にレリオから貰った指輪がある。


レリオは御守りだから絶対に外さないでねって言ってた。


「レリオってイケメンだよねー」


クラリッサもシモーナさんと一緒に馬車からレリオの方を覗いてた。

つられてアタシもそっちを見る。


レリオは荷馬車の近くを歩いてる。


「クラリッサ、パパだって若い時はカッコ良かったのよ?」


「でもパパ、今は中年太りだもーん。クラリッサはレリオみたいなイケメンがいいなぁ」


イケメン……なのかな。

気にしてなかった。


て言うかこの会話が聞こえてたら恥ずかしい!


「ね、うららちゃんはなんでレリオと旅することになったの?」


んー、これは説明が難しいぞ。


『何となく、レリオについて行かないといけないと思った』

なんて言ったらあとでどう、からかわれるか。


「実はね、アタシ、迷子なの」


少し重い口調になるように気を付ける。

クラリッサが驚いたみたいにあんぐり口をあけた。


「どうしたらいいか困ってたら、レリオがアタシを助けてくれるって」


「うららちゃん……迷子だったの?お家がどこかわからないの?」


よっし成功!

クラリッサに向かって、アタシは無言でうなずく。


「うららさん、過ごしてた街や村の名前もわからないの?」


シモーナさんの言葉にもうなずく。


「住んでいた街の事もあんまり思い出せないし……」


よし。同情を引いたっぽい。

これで根掘り葉掘りアタシの事を聞かれないかな!?


「じゃあ……レリオはうららちゃんの恩人なんだね!?うららちゃんの王子さまなのね!?」


はい違いまーす。

恩人は認めるけど王子さま違いまーす。


そろそろ他の話題になってほしい……!

乙女チックなポーズで何か妄想するのやめてね、クラリッサ。


「でもさ、旅費ぜーんぶレリオが持ってくれるんでしょっ?レリオってもしかしてお金持ち?」


「そうね、今回の護衛も代金は入らないからって……」


そうなの?

あの、もこもこ地面から湧いてくる魔鉱石っていうのがあるからかな。

クラリッサがアタシの服をつまむ。


「凄く良い生地の服。うちでもこういうの取り扱ってるけど、高くて手を出せないよー」


へぇ、と思う。


「大切にされてるよー?」


だからってさぁ……そのニヤニヤ笑いをどうにかしようよ。


旅は基本、朝出発して、夕方にはつぎの村か街につく。

そんな風になってるみたい。そのリズムを崩すような移動をしない限り、普通は夜営なんてしないみたい。

……辺りは木の少ない森。ん?林っていうのかな?

さっきモンスターが1匹出たけど、すぐにそれは退治された。


カラオケ、行きたいなぁ。

ぼんやりと、カラオケでよく歌ってた曲を口ずさむ。

気がつくと、クラリッサが一緒に歌ってた。


あれ?この世界にこの曲あったの?


「うららちゃんがずっと歌ってたから、覚えちゃった」


ペロリ、とクラリッサは舌を出した。


「うららちゃんは、あたしの知らない歌、たくさん知ってるのね」


だって異世界の歌だもん。なんて言えない。

えへへ、と笑って誤魔化す。


「きっと巫女様が聞かれたらお喜びになるよー?」


巫女様?て神社にいる人だっけ?てことは、ここにも宗教があるんだ。めんどくさい宗教じゃないといいな。


「何の巫女様?」


「うららちゃんは聞いてない?あたしたち、これから神殿のある街に行くの」


お祭りがあるからだとクラリッサは続けた。


「神殿にはね、『異世界より召喚されし巫女』様がいらっしゃって、世界の平和を祈ってくださってるのよ」


『異世界より召喚されし巫女』。

異世界って言葉が気になった。

その人はもしかして、アタシと同じ場所から来た人なんじゃない?


アタシも、それなの?

アタシが祈ったら何かあるのかな。

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