サボりまくりのツケ
ウィンに担がれて、アラステアさんの仕事の部屋を出る。
一旦閉まった扉が開いたら、何かと思うじゃん?
開いた隙間から、アラステアさんがニコニコと扉の隙間からジェスチャーで『四』てアタシにこっそりと伝えてくれる。
雰囲気的に、四時間……や四ヶ月ってことはないと思う。
四日、ね。
はーい、わかりました。
しばらくアタシを担いでたのは、アタシが暴れて逃げたりしないかを確認してたつもりらしい。
大人しくしてたら、人通りの多い廊下の手前で下ろしてもらえた。
さすがにお城の中を抱えられて移動するのって、変だもんね。……ね?変だよね?
明るい廊下の向こうから、綺麗なドレスを着た集団がやってくる。
「……うわっ」
アタシはウィンを見上げる。
「逃げるなよ」
アタシを見下ろしてくるウィンの目付きが悪い。いやもともとこの人は目付き悪い。
ニッて笑ったときのワルモノ感が、すごい。
「うらら様、ごきげんよう!」
デメトリアさん……シュクジョとしてこの距離でその大声はどうかなって……うん。知ってる。
これもアタシを逃がさない為だよね……はぁぁぁぁぁぁぁ……。めんどくさぁぁぁぁぁぁぁ……。
ええっと、シュクジョのあいさつって、スカートをつまむんだっけ?でも、アタシ今、スカートじゃないんだけど。
アタシの服はいつもと同じ。
白とクリームの動きやすいズボン姿だ。こういう時って、どうしたらいいんだろう?
困りきたアタシはまた、ウィンを見上げる。
「うらら様、こういう時こそ、わたくしを頼ってくださいませ。
とりあえず、で結構なのです。それらしい仕草をなさればよろしいのですよ」
デメトリアさんがさくさくと近くに迫ってきた。さくさく早足で寄ってきた。さくさく迫ってきた。
めっちゃ悪役顔のご婦人だ。後ろに取り巻きもいるから、さくさく寄られると迫力がハンパない。
でも、ホントはこれで、けっこう優しい人なんだよ。
「お母様、それではよろしくお願いします」
ウィンから、メイドさんとか、侍女?取り巻き?をたくさん引き連れたデメトリアさんにアタシは引き渡される。
「ええ、よろしくってよ。わたくしが、必ずアラステア様が満足するよう、品よく整えて差し上げますわ」
シッシッて手で自分の息子を追い払いながら、デメトリアさんはニカッて笑った。
……シュクジョがニカッはいいのかな……シュクジョ……シュクジョってなに……シュクジョというものがさっぱりわからないよ……。
デメトリアさんにしっっっかり手を握られて、アタシは『王妃様専用の』区画に連れていかれる。
ばっさぁっ!と薄手の布を頭からかけられて、ほとんど引きずられながらって感じだ。
ヴェールみたいに薄い布だから足元も周りも見えるけどさ……ひぃん……歩きにくい。
「さぁ、うららさま。お湯あみから開始いたしましょう」
この、これから始まるフルコースがもんっのすごいのだ。
服を脱がされて、メイドさんたちの手でよってたかって全身くまなくわしゃわしゃ洗われて、落ち着く暇なく、ぐにぐにマッサージ、ひらひらした服を着させられたら今度はメイク、それからまたヴェール?布?ヴェールでいいや、ヴェールをバッサリかけられる。
ここまで三時間はかかってるんじゃないだろうか。時計見てないけど。
途中にフルーツとか、お茶とか挟まないと、とてもやってられない。もぐもぐ。
デメトリアさんたちが着ているいかにも!なドレスと違って、アタシが着させられてるのは、ヒラヒラを通り越してビラビラしてる衣装だ。
ゆったりしてて、軽くて、どちらかっていえば動きやすい。
いちおう、こういうところは、気を使ってくれてるのかもしれない。
「うらら様、アラステア様がこちらにおいでになるまではまだ、大分余裕があるでしょう?
今のうち、肖像画のモデルをお願いできますこと?」
「……モデル?」
綺麗に切り分けられたフルーツを、フォークで食べさせてくれる係までいるんだよ……口をもぐもぐするだけでいいんだよ……スゴいね王妃……。
「ええ、さようです。広間と、主要なお部屋に飾るのですわ。
アラステア様とレリオ様がお描きになった素描がございましたから、あとは仕上げだけなのですけど……」
ふふふと悪役顔で笑うデメトリアさんに、アタシは逆らえない。
大人しく絵師が待機しているっていう部屋に、移動することにした。
××××××××
国王の寵愛を一身にうけた王妃は、普段、奥の間で大切にされているので、人前に姿を見せる事は少ない。
……て、ことになってる。らしい。
んーと?つまり、アラステアさんはなかなかのヤンデレってこと……になるの、かな?
うわぁ……けっこうサイテー。
一度に済ませるだかなんだかで、絵師さん五人に囲まれて、一気に肖像画が仕上げられていく。
メイク係の人の腕が良くて、すっごく良かった。
いろいろ、いろいろごまかしてくれてありがとう……っ!
めっちゃ緊張する。
スッゴい顔がひきつってる自信がある。
お上品な受け答えができないアタシは、デメトリアさんに「なるべく口を閉じておくように」と言われた。
はい。
大人しくしてます……。
もちろん、絵師さんたちも『異世界より召喚されし巫女』の王妃にわざわざ話しかけてきたりしないけどね。
この人たちもきっと、失礼があったらいけないとか、思ってたりするんだろうなぁ……。
めっちゃ緊張してるのかもなぁ……。
そしたらなんか、おかしくなってきて、ちょっとだけ笑っちゃった。
……あ。今、笑ったの、バレてないよね?
大丈夫だよね?
アタシが飽きて、疲れを感じた頃、やっとアラステアさんが来る。
いやったぁ!これで謎の緊張感から解放される!
「皆、よく描けているね。完成するのが楽しみだ。
うららさんもお疲れ様、彼らは片付けがあるだろうし、私たちが移動しようか」
「はぁい」
××××××××
「めっちゃつかれた」
アタシはソファーのひじ掛けに寄りかかる。
今いるのは建物のはしっこにある、六角形のあんまり大きくない部屋。
ここは、外がよく見えるようにって、ぐるっと大きな窓に囲まれてる。
こちらからだと、庭の向こうに渡り廊下だとか、アラステアさんがさっきまでお仕事をしてた建物がよく見える。
で、建物の窓から、こっちを見てる人影がけっこういるのも、見えちゃうわけだ。
うへぇ……。今日もめっちゃ見られてる……。
距離があるから声を聞かれたり、アタシ達の表情まではよくはわかんないらしい。
けど、こうして見せ物になるってのはあんまり気分がよくない。ていうか慣れない。
「お疲れ様だったね」
いつも通り、この部屋には二人っきりだ。
この人と二人きりってのも、けっこうキツいものがある。
……それでも、アラステアさんという存在自体には、前よりも慣れた。ちょっとだけ。だから近寄らないで。
アラステアさんがお茶を入れて、アタシに渡してくれる。
「ありがとうございます」
はぁ……。今もお疲れケイゾク中なんだけどね……。
「王様が自分でお茶を入れるって、変なの」
ああ、でも、香りのいいお茶って、リラックス効果ある……。
うん。やっぱり、おいしい。
アタシと、アラステアさんが仲よさそうにしてるところを、臣下?部下の人達に見せると、『国王夫妻は仲がおよろしい』ってなるんだって。で、その噂を役人とかから聞いた国民は安心して平和に暮らせる。
……そういうものらしい。わからない。
サラシ者みたいでキツいけど、このお茶に免じてもう少し、アタシも仲よさそうなフリを頑張ってみよう。
相変わらず、整いまくりの顔をしたアラステアさんがけっこうな近くに座ってくる。
太もも同士の距離はこぶし一個しか開いてない。
「なんか、ちょっと、近すぎません?」
「このくらいはいいですよね?」
う゛っ…………。見ないで、真っ直ぐアタシを見ないでっ!(グーパンチしたくなるからっ!)
「そうだ。この館の改装案ができたんですよ。
先に改装を済ませた転移の間はどうでしたか?」
……ガマンガマン耐えるんだアタシ、これもこの国の平和のタメ……っ!
ふー、ふー、ふーぅ……。オッケー、落ち着いた。イケる。まだまだ大丈夫。
「あの部屋はスゴく良かったです」
転移の間って、アタシが最初に出てこさせられる部屋だ。
「良かった」
アラステアさんが嬉しそうに目を細める。……気まずい。アタシは目をそらして、カップに描いてある小花の模様を見つめた。
「あとは、これがうららさんの私室の案ですが……」
「げ」
アラステアさんが見せてくれた紙には、部屋のイメージ図が書いてあった。
でも、前にあの部屋に入ったときに見たのと、印象がほとんど変わらない。全く改善されてない。
くどい。成金趣味とカミヒトエってやつだ。
模様と色がごちゃごちゃしすぎ。飾り付け用の布がいっぱいあって、目がチカチカする部屋のまんまだった。
「……お気に召さなかったようですね」
アタシは自分の手の中にある、趣味のいいティーカップを眺める。
あの部屋にある布も、家具も、一個いっこはスゴく素敵なんだよ……でもなんで、それを集めようとするかな……?
もっと、シンプルにしてくれないかな……?
どう言えばこれが伝わるんだろ??
「ワビサビって程じゃなくていいんですけど……もっと無地の場所が欲しいっていうか……」
赤と金の組み合わせ、かわいいのは認めるけど壁全面は、目がチカチカする。
「白とか、ベージュとか、茶色とか、そういう……静かな色がもっと欲しいです。もっと使う色の種類は減らしてください。
あの、リラックスできるような雰囲気のお部屋はダメなんですか?」
神殿で、アタシがいたあの部屋はシンプルで良かった。むしろ寒々しいってレベルのあの部屋を参考にしてもらえないものだろうか。
あの部屋だったら、カーテンを下げるとか、ちょっと絵を飾るくらいでスゴくセンスいい部屋になったと思う。
「そもそも金色って、つかいどころ難しくありません?」
どうせなら……そうだな……バリ島のリゾートみたいなお部屋だとか。ああでもせっかくここはお城なんだから、ゴシック風もいい。
テレビで見たヨーロッパのお城を改装したホテルのお部屋は素敵だったな。
……あ、でもお城って言えばキンキラが定番なのかな……?
「んー、ベージュの布に白い糸で刺繍するとかで、使う色を減らすとか……せめて、壁の飾り布は外してほしいです。
どうしても何か必要っていうなら、風景画……それも、とにかくシンプルなの……」
んー、イメージが固まらない。
アタシはアラステアさんを見上げる。
「とにかく、目がチカチカするのは落ち着きません」
伝われ、ワビサビ精神!
シンプルいずベストっ!
「……わかった。もう少し、私の方も担当の者と話し合って来るよ。
ところで、今回はいつまでいられるのかな?」
そう聞かれたのは、普段なら、とっくに帰ってる頃だからだ。
「……んー、一晩くらいなら、たまにはこっちにいてみようかな……」
そして、アタシはいつも通りカピバラになるのだった。
カピバラになって、カピバラのまんまあちこちうろついて、気が向いたらまたもとの世界に帰るんだっ!




