なかなかばたばた文化祭(2)
しんちゃんのクラスは理系クラスだからなのかどうかわかんないけど、男の子ばっかりだ。
アタシは文系クラス。女の子がちょっと多い。
しんちゃんのクラスメイトだっていう山村君と、うちのクラスの日笠君、新保君、アタシでしんちゃんのクラスがやってるっていう喫茶店に向かう。
しんちゃんのクラスの前には『一時休業』の札が出てた。
うっわ……。雰囲気、悪っ。
教室の中ではしんちゃんがやたら殺気立ってて、少し遠巻きにおどおどした感じの女の子達と呆れきった顔の男の子達がいる感じだった。
「渡瀬、連れてきたけど」
山村君がそう言ったら、しんちゃんはちょっとだけ怒ってる表情を引っ込ませた。
「悪い……うららちゃん、絞りだけでいいから手伝ってよ」
しんちゃんの前に、あとはトッピングだけ!……っていうケーキが並んでる。
手を洗って、使い捨ての手袋を着けたアタシは、しんちゃんの指示通りに生クリームを絞ってった。
そこに、他の子が小さく焼いたクッキーをのっける。
見た感じ、しんちゃんが焼いたクッキーじゃなさそうだな。スポンジもちょっとしんちゃんが焼いてるのとは違う気がするから、きっと調理室とかで誰かが作ったんだと思う。
ん……!かわいいっ!美味しそう!
「手伝わせてごめんなさい、私たちも練習はしたんだけど……渡瀬君がこんなに見た目にこだわると思わなくって」
クッキーをのっける係りの女の子が、小さな声でアタシに言う。
しんちゃんは生クリームの失敗してでろっとなったのをヘラで落として、新しいクリームを絞り直してる。きっと、しんちゃん以外の子が絞ったのは、ほとんどあれになっちゃったんだろうな……て量だ。
ごめん、あれで練習したっていうなら、あんまりにも不器用すぎると思う。
形が悪いなんてレベルじゃないもん。
ケーキ屋で生まれて育って、自分もいつかはパティシエに……ていう夢を見てるしんちゃんには許せないレベルの…………げ。
待って。
何をどうしたらそこまで生クリーム無駄にできるの……?待って待って、上にちょっと絞るだけだよ?なのになんで四角いケーキがおまんじゅうみたいな形になっちゃうの……?
あれをやった子、あまりにも不器用すぎる。
これだけ人がいて、全員がまともに絞れなかったんだ?
……むしろ、スプーンですくって生クリームのっけたほうがまだよかったんじゃ……。
「……たまたま、クラス全員不器用だったんだ」
アタシが呆れてるのにきづいたのか、山村君が情けなさそうに笑う。
じゃあ、なんで手作りケーキ屋なんて企画を思い付いてみたんだろ。
「うららちゃん、この『手伝い』、すげぇ時間かかりそうだから俺ら一旦帰るな」
日笠君も、失敗ケーキの山に呆れたかんじだ。たぶん、『俺でもそこまで酷くない』って今、思ってるに違いない。
あはははは……。アタシ、解放されるかな……?
『お手伝い』は延々と続いた。解放されたころには文化祭初日が終わってた。泣ける。
午前中、アオイと文化祭をちょっとでも回れて良かった……!
途中からはアオイだけじゃなく、他のクラスメイトも手伝いに来てくれたからまだ良かった。
その辺、日笠君と新保君がいろいろ調整してくれたっぽい。感謝!
××××××××
ひぃーん……忙しいよぉう……。
文化祭二日目。
一般公開日。
うちのクラスからはアタシとアオイ、しんちゃんのクラスからは女の子二人ってことでトレードが成立しました……!!!
一般公開日。めっちゃ混む。めっちゃ忙しい。
誰だケーキ屋なんて企画したやつ……っ!
コーガイさんが来て、アオイに手伝いを続けさせるのがなんだか申し訳なくなった。アオイだって、もともとクラスでの担当分以上やってくれたんだ。
あと、しんちゃんをからかいたおすコーガイさんがうるさかったってのもある。
「うららちゃん、ここにある分で終わりだから。
もしよかったら、このあと一緒に文化祭回らないか」
「うん、いいよ」
しんちゃんが、残りのケーキを指さした。
アタシの予定はぜーんぶ狂った。他のクラスメイトを捕まえるのも今更めんどくさい。
いっっっぱい働いたしんちゃんとアタシが、文化祭の残りの時間を楽しむことについて、誰も嫌そうな顔をしなかった。
むしろ、いっぱい働かせてゴメンねって言われて、申し訳なさそうに送り出されたって感じだ。
「はーーーーぁ……疲れた……」
とりあえず、教室を出て、渡り廊下のベンチに座る。ずっと生クリームを絞ってた手が痛い。
中庭には巨大迷路ができてた。アオイとは行かなかったから、これからしんちゃんと入ろうかな?
昨日の夕方、しんちゃんのクラスメイトがアタシのクラスに来て、土下座して成立したこのトレードがアタシのトラウマを刺激しやがる。ぐぅぇ……っ。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
教室から持ってきてくれたっぽい、よく冷えたジュースをしんちゃんから渡されたアタシは、ありがたく口をつける。
「誰よ、あのクラスでケーキ屋企画したの」
「山村」
「断りなよ」
「俺が学校休んでた日に決まってた」
「……ゴシュウショウサマ」
これはこれでいい思い出になるのかもしんない。
××××××××
高校を卒業して、アオイはアメリカに留学した。
コーガイさんのアメリカ転勤に着いてったって言ってもいいと思う。
さすがアオイ!がんばれ!!
しんちゃんはなんかすごく頭のいい学校に進学。アタシは家から通えるそこそこの短大に進学。しんちゃんのお家のケーキ屋さんでのバイトはなんとなーくって感じで続けてる。
「うららちゃん、短大終わったら、就職どうするの?」
その日、閉店作業をしてるときにおじさんに聞かれた。
もしかして、うちのお母さんになんか言われたんだろうなぁ……正直、なんにも考えてないんだよねぇ。
しんちゃんは、大学通いながら製菓学校にも行ってるらしい。アタシとは大違いだ。
しんちゃんには最近会えてないから、おばさん……じゃない、店長に聞いた話。
「あんまり考えてないんだよね……」
働くって言われてもねぇ。
やりたい仕事があるわけじゃないし。
バイト代そこそこ貯まってきてるから、アタシも製菓学校行ってみるかな?
「もしよかったら、正社員としてうちで働かない?麗ちゃん、ここで働いて長いし」
なんて楽な就職先……っ!
「え?いいんですか?」
受けちゃうよ?その話、受けちゃうよ??




