なかなかばたばた文化祭(1)
アタシが髪をショートにしたのは、それが流行ってたからってのもあるし、気分転換してみたかったってのもあるし、夏の暑さに負けたってのもある。
秋といっても夏休みが明けたばっかりって感覚のほうが強い。まだまだ暑い。
溶けるっ干からびるっ!
文化祭の準備をする教室の、この落ち着かない感じは毎日強くなってくる。
文化祭、早く来いっ!……あーでもこのまま楽しいお祭り気分もまだまだマンキツしていたい!
「しんちゃんのクラスは喫茶店なんだよね。しんちゃんちのケーキを売るのかな?
みっちゃんのとこはおばけ屋敷だったよね?けいちゃんのとこはバザーで……アオイ、アタシ達はどこから回ろっか?」
うちのクラスの出し物はゲームコーナーだ。
ボーリング、カードゲーム、卓球、もぐら叩きを計画してる。
アタシの担当はボーリング。今作ってるこれがボーリングのレーンになる予定だ。
段ボールに模造紙を貼ってから、絵の具で色を塗る。制服を汚さないようにジャージ着用は基本です!
「……あのね」
アオイの手が止まった。ん?どうかした?
「……うららちゃんに、話がある」
何があったんだろう。アオイの顔がこわばってるような気がした。
××××××××
学校が終わればいつも通り、アタシはバイトだ。
バイトも終わってこれから向かうのは、従業員エリアの奥にある階段。
「しんちゃん、入るよ?」
普段、アタシみたいなバイト従業員はほとんど使うことがない階段を上って、しんちゃんのお家エリアに入る。
廊下を少し行った右側、しんちゃんの部屋の戸をノックして、返事を待ってから入ろうとした。
…………………………は?
「 ……え……と?」
一体ナニゴト!?
戸を開けたら、しんちゃんとアオイが部屋の中で、アタシに向かって土下座してた。
アタシはささっと戸を閉める。
今、イヤなこと思い出しかけた。忘れろ、忘れるのアタシっ!!
なんだったんだ、いまの 。
たっぷり時間をかけて悩んでたら、戸が開きかけた。つい、アタシは開かないように押さえちゃった。
……あれは、あっちの世界の王宮の広間だった。
ずらっと並んだ、明らかに偉そうな人たち。
全員が涙目で……うわ、やっぱり忘れたい。
「ゴメンなさい。俺たちとっくに別れてました」
戸の向こうから聞こえたのは、しんちゃんの声。
びっくりして、力が抜けたところをすかさず戸が開く。
アオイにぎゅっと抱きしめられた。
「ホントはうららちゃん、しんやの事が好きだったんだよね?」
うぇ?なんかめっちゃ誤解されてる!?
「横からちょっかい出してごめん !本当にごめん!」
よくわかんない誤解がどんどん広がってってる気がする。なんか変な汗が出る。
「まって、まってアオイ」
「しかもあたし最低……うららちゃんの邪魔しただけじゃなくて、うららちゃんの大切なしんや……じゃない、しんや君まで傷つけた……ホントごめんなさい!!」
「アオイは悪くない」
かっこ、キリッ、かっことじる、まる。
あー、この感じじゃ、しんちゃんもどうやら大真面目だ。
カンベンして……。
「俺はアオイの事を好きでもないのに調子のって、付き合おうとした。
手は出して無かった、それは誓える……でも、一歩間違えば二人を傷つける結果になってた。
ごめんな……アオイはうららの親友なのに」
「だから、二人ともなんでアタシに謝る!?」
一体これは何の茶番!?
二人が付き合ったり別れたりするのはわかる。高校生だもん。それは、わかる。
なんで二人はアタシに向かって謝ってくるの???
全く、さっぱりわからないんだけど!!!!
どう考えても、アタシは関係無いって気がする。
うん。やっぱり関係ないでしょ。
……関係ない、よね?
と、ここでアオイのほっぺたがちょっと赤くなった。
「それでね……実は……もう一個あって……一般公開の日は彼氏と回りたいなって」
さすがアオイ。美人は男から放っておかれないものらしい。
既に彼氏がいたとは。びっくり。
アタシ、放課後はいつもバイトしてたからなぁー……。
アオイはなんだか幸せそうに見えるし、しんちゃんも振られたから傷ついた……って感じじゃ無さそうに見える。
きっと、この二人にとってはこの形が自然な流れで、それなりにいいことだったんだよ、うん。
ほっぺたを赤くしてるアオイがとっても可愛く見える。それで、アタシはアオイが彼氏さんと、まだ付き合いたてなんだろうな……て思った。
恥ずかしそうにもじもじしてて、見てるこっちの胸がいっぱいになってきそうだ。
「彼氏さん、紹介してよね?」
アオイが彼氏さんと過ごすってことは、一般公開日……さすがにアタシ一人じゃつまんないな……どーしよっかなー……。
他の人……うん、りこたちと二日めは一緒にいよっと。
××××××××
「まさかあの『コーガイ』さんだとは思わなかった」
「隠しててごめんね」
コーガイさんて、なんと!“ソカレリル・カレィドスコォプ”で同じギルドの副ギルマスでした!!
「そういうのでギルド内の人間関係がヤバくなったらやだな……て思ったら、言い出しにくくて……」
文化祭の一日目は校内生徒だとか、招待券持ってる他校の生徒会だとか、そういう人だけだけが来る部内公開日だ。
飲食店系って訳でもないし、今日はそんなにこみ合う筈がなかった。
楽しい。……すっごく楽しいっ!!!
風船。段ボールで作った看板。空き缶のオブジェ。ペットボトルで作ったテーブルは、さすがに上の板だけ木製だ。
……ガヤガヤと人の声。あちこちから流れてくる音楽。流れてくる、いろんな食べ物とビニールがまじったっぽい匂い。
……楽しいっ!!!
暇をもて余したアタシたちはみんな、それぞれどっかから持ってきたお菓子を食べながら、おしゃべりに夢中だ。
このままお客さん、来なくてもいいよって空気になって、誰かが教室の戸を閉めた。
「さすがに不味くない?」
アオイがちょっとだけ眉を潜めたけど、座ったまんまでコーラを飲んでる。立ち上がったりはしない。
だって、アオイもお客さんが来なければ楽できるってホントは思ってるんだもん。ポーズ、ポーズ。
「ちょっと休憩したら、開けるよ」
肩をすくめたのはクラス委員長の、日笠君。隣の新保君なんて、うなづきながらたこ焼き食べてるけど、文化祭実行委員だ。権力者(笑)がこう言うんだから仕方ないっ……楽しーーい。
ガラリ、と戸が開いて、みんな一瞬『ヤバッ』て顔をした。
急いでお菓子やジュースをみんなで隠してビシッと整列した。
……たーのしーいっ!
「あの……」
教室に入ってきたのは三人くらいの男の子だ。
あんまり知らない人達だけど、胸のバッチで同じ学年だってわかった。
「いらっしゃいませぇ」
語尾、伸びたし。
「いや、その……客じゃなくて……『浦浪さん』ている?渡瀬が連れて来いって……」
「……は?」




