戦争じゃない何か
戦争に、綺麗も汚いもない。
ルールはある。あるが、結局は汚い暴力のぶつけ合いだ。
相手よりも大きな力を。
相手よりも有利な立場を。
生きていたければ、裏切りも罠もどんどん使うべきだと俺は思う。
けど、これは、戦争としてどうなんだろうなぁ………………。
あまりにも圧倒的過ぎるこの状況に、俺は現実逃避したくなった。
戦場を独りで駆けていった、うらら。
空間を渡るなんていう、今までの魔法ではあり得なかった事を『異世界より召喚されし巫女』である彼女はいつの間にか、平気でするようになっていた。
初めて会った頃にはやってなかったから、おそらくうららにも最近出来るようになった事なんだろう。
戦場には、まだ、敵兵がたくさんいた。
××××××××
室内で俺たちと話をしていたはずのうららが、まばたきをした瞬間に姿を消した。消える直前、壁に向かって走っていってたような気がする。
消えて数秒もたたないうちに、妙なざわめきが表から聞こえてきた。
「失礼します!表に……!」
ブレンダンの部下が、さっきまで俺たちがいた戦場の方角を指差していた。俺たちは急いで見張り台の方に向かう。
そこには、宙に浮かぶ水の球があった。
一筋、また一筋と水がどこからか集まり、ぶるぶる震えながら、水の球は大きくなっていく。
その水は生き物みたいに動いた。
うにゅり、と動いた水の一部が、何かの生き物の形になった。
「……うっ」
羽根の生えた透明なカピバラ(うらら)……っ!!
落ち着いているときに見たのなら、けっこう間抜けな光景に感じたかもしれない。
でも、明らかに異常な光景に、誰もが緊張していた。
《じょうだんじゃない……!!》
怒りに満ちた声が頭に響いた。うららが怒ってる、と俺は思った。
聞こえたのは俺だけじゃないらしい。
敵兵達にも聞こえているっぽかった。
《この国の領地を決めるのはアタシ達で、あんた達人間じゃないっ!》
うららの怒りなのか、ぶぁっと、強い風が吹いた。
カピバラもどきだったうららの姿が人の形に変化し、地面に降りる。透明だった姿に色がつき、いつものうららになった。
同時に、宙に浮いたままだった水球が一気に戦場に広がった。
《この国を治める王族を選ぶのはアタシ達だけなのっ!!人間じゃないっ!!》
水が、敵兵の武器にまとわりつく。
次々と武器が崩壊していく。
崩壊した武器が、いつかうららを襲った武器、棒手裏剣の形になっていく。
……うららが走り去った戦場に、無事な人間はほとんど居なくなっていた。
圧倒的過ぎる。
必死で撤退していく、生き残り。
俺たちは、アテル王国軍は、ただそれを見ていた。
これはもう、戦争じゃない。
××××××××
「うわぁぁぁ!?」
悲鳴……にならなかった。びっくりしすぎて変な声が出た。
ヤバい!て思った事までは覚えてる。
あとはあんまりよく覚えてないんだ。
すっごく何かに頭に来て、それでアタシ、ここまで走ってきたんだっけ?
木によりかるみたいにしてアタシを見たのは、驚いた顔をひたアラステアさん。疲れの色が濃い。ニッコリ笑って、アラステアさんはアタシの手を握ってきた。
「助けてくれてありがとう。……とりあえず、場所を移動しようか」
アタシは足元を見ないように気をつけてうなずいた。
ここには居たくない。
二人で森の中を歩いて、歩いて、いっぱい歩いた。
アラステアさんにはほとんど魔力が残ってないみたいだった。休憩が必要なんじゃないかな?てアタシがやっと気がついた頃、アラステアさんが少し休もうか、って言った。
夜だった。
アタシもちょっと疲れた。ていうか、さっきの事が怖い。
何が起きたの?
頭に来て、それで、走って……それで、襲われてるアラステアさんを見つけて、それで?
それで、切った。
アタシが。アタシがやった。
こわい。
すごく、怖い。
助ける為には仕方なかった。でも、他に方法は無かったの?
イヤだ。こんなやり方、イヤだ。
アタシが、水面を使って敵を倒したんだ。
体が震える。寒い。怖い。逃げたい。無かったことにして欲しい。イヤだ。
「朝までここに隠れて、それから砦に帰るとにしようか」
肩が抱かれて、アラステアさんのことを暖かいと思った。
ヤだ。
泣きたくない。
泣くのは、ダメだって、『ピニー』の歌にあったよ。女はずるいって、ピニーがうたってた。
だから、アタシ、泣きたくない。
アオイはそんな事がきっかけなの?って笑ってたけどさ。
「……うららさんは、結構泣き虫だよね」
肩をぐいってされて、アタシはすっぽりとアラステアさんの腕の中に収まった。
アラステアさんの魔力はずいぶん細かいんだなって思った。
「我慢しない方がいい。……ここには私しか居ないのだから、泣きなさい」
レリオの魔力は濁流。力の塊だ。
アラーナさんの魔力は細かく編み上げた綺麗なレース。
アラステアさんの魔力は……ものすごく高いチョコみたいだった。あんまり細かく説明したくない。
この人、霊格もスゴく高い。
レリオの匂い……じゃなかった。魔力が恋しい。
アラステアさんの温もりと魔力にホッとしてるのが半端なく悔しい。
アラステアさんがため息をついたのがわかった。アラステアさんの腕の中にいる、アタシの視界は真っ暗だ。頭を撫でられた。
「うららさんには、こういった場所は辛いだろうね」
大泣きすると、頭が痛くなるんだ。
……忘れてた。
××××××××
頭ががんがんするけど、ちょっぴり落ち着いた気がする。
そりゃ、まだ怖いけどさ。
……怖いけど、しかたないもん。しょうがないんだもん。
「アラステアさん、少し、寝てください。アタシ、見張ってますから」
放して、と思って胸を押したけど、アラステアさんはゆるくアタシを抱きしめたまんま放してくれない。
しょうがないから、首を動かして見上げる。
角度的に首がきついっ!はなせ!!
顔が近いのが、たまらなくフユカイなんだけど。
なんでこんなに綺麗な顔しちゃってるかなぁ……あ、さすがにうっすらひげが見えるや。こっちの世界の人って、ひげそりはどうやってるんだろ。
なぐさめてくれたのはありがたいけど、そこにはちゃんと感謝してるけど、こんなに長い時間、密着する必要なくない?
そうやって背中をなでるフリして、お尻にまでさわらなくってもいいんじゃない!?
ぞぞぞっとしたアタシの背中が反る。
アラステアさんの目が、なんか、いろっぽい。
やたらと整った顔。優しくて、うっとりしそうな……まなざし……!!!?
身 の 危 険 を 感 じ る 。
「はなしてっ!それとさっさと寝て!ちゃんと見張ってるから!!」
……主に、アラステアさんがアタシに何かしないように見張らねばっ!
アラステアさんがふふふって笑って、やっとアタシは解放された。
あれだけくっついてたから、いきなり離れるとちょっと寒い?かな?
「落ち着いたみたいだね。じゃあ、少しだけ休ませて貰おう。……女の子に護ってもらうのも、たまには悪くない」
おどけたみたいに、木に寄りかかったアラステアさんが寝息をたてるまでホントに数秒だった。
パッと見ただけでわかるような傷がいっぱいある。
この人が一番、この国の王様に相応しいんだって、アタシの本能が言ってる。
なのに、この人だけが戦場に残ってた。
この人はなんで、みんなと一緒に逃げなかったの?
なんで、こんなに、魔力もほとんど尽きて、きっと疲れきってた時に。
……アタシ、やっぱり、この人、キライだ。
完全に寝てるアラステアさんの隣に座って、意識を広げていく。周りにモンスターも、人間も居ないのがわかった。
森の、ちょっとした茂みの中にいるから夜空は見えない。
虫が鳴いてる訳でもないし、鳥の声も聞こえない。
聞こえてくるのは、アラステアさんの寝息だけ。
間に合って、生きてくれてて、ホントに良かった。




