戦争が始まってしまった(2)
お茶会って、仲のいい友達とだけしてればいいもんじゃないらしい。
いかにもお城!って感じのお部屋に今日集められているのは、『政治的に』要注意なお宅のお嬢様ばっかりなんだって。
こんな中でもニコニコできるアラーナさん、すっごい尊敬する。アタシなら胃が痛くなりそう。
ゾワァっ!!!
いきなり、すっごい、イヤな感じがした。
なんだろう?
なんだろう……アタシはここにいろって命令がある筈なのに、レリオとアタシの『繋がり』がクイクイ引っ張られてる。
んー?行っても、いい感じ?
アラーナさんの膝の上から引っ張られてる方を見たら、そこにはアタシがいた。
アタシが、アタシを手招きしてる。
……シュールっ!
こないだみたいに何か言いに来たのかな?
アタシはアラーナさんから魔力を少し引き出して、分けてもらう。そして、アタシがいた方に走る。
ぱさっ……て、ノレンとか、カーテンをくぐるときのあの感じがした。手を、引っ張られた。
いつの間にだろう?アタシはカピバラ体から人間に戻っちゃったみたいだ。
「なに?何かあった?」
目の前に立ってるアタシが、アタシの質問にうなずく。
「いま、助けにいかないとヤバい」
……だあっ!わかりにくいっ!
うなずいたのは、今のアタシじゃなくて、未来だか過去だか、別世界だかのアタシのほうだ。
「アタシはやることたくさんあるから助けにいけない。
けど、アナタなら助けに行ってる暇があるでしょ?
レリオのとこまで連れてってあげる」
なんか、ずいぶん焦ってる?よほどの事があったのかなって思いながらアタシは、レリオと繋がってる、光でできた線をつまんだ。
「どうせこの先にいるんでしょ?連れてってくれるよりも、助けるほうを手伝ってよ」
「それができるんならもうやってる」
たぶん、未来のアタシはご不満そうに唇を尖らせた。
「アタシだってけっこう忙しいんだから。
それに、アタシが手伝ったら、選べる未来が選べなくなるよ。どうせまだ、決めてないんでしょ?」
まだ、決めてない、ね。
このアタシはやっぱり未来のアタシだ。この前池に引きずり込んで話をした、アタシ。
決めたっていうか……選んだ後の、アタシなんだ。
「あなたが未来のアタシなら、結局はアタシはあなたと同じ人を選ぶんじゃないの?」
未来が決まってるものなら、誰を選べばいいのかとか、あれこれ教えてもらっちゃったほうが、話が早い。だって、未来は決まっちゃってるんでしょ?
……今のアタシの言葉に、未来のアタシは首をかしげた。
「それはどうかな?アタシを助けてくれたアタシは、違う人を選んでたよ」
それって?……つまり、どういう理屈になってるのかはわからないけど、アタシもいろいろ好きに選べるってこと?
「えっと……あなたの未来は、幸せだけど、すっごく後悔してる、だっけ?」
「……まぁね」
「あなたが選んだ人教えてもらって、他の人選ぶとか、やっぱりダメ?」
未来のアタシは笑う。
「ダメだって、もうわかってるくせに」
……候補は、確かに、決めてるけどさ。
人に言われて変えるとか、あり得ないと思うけどさ。
話をしてる間に、けっこう遠くまで移動してたっぽい。だんだん体が重くなって、ダルくなってきた。アラーナさんから分けてもらった魔力じゃ、レリオのところに行くのには足りなかったっぽい。
「相方と離れてたら、充電も弱いからね」
未来のアタシと繋いでる手から、暖かい力が流れ込んできた。
レリオと離れてた事で、今まで減るばっかりだったエネルギーが一気に充電される。
「向こうは戦争してるんだから、レリオに充電してもらう訳にはいかないでしょ?」
未来のアタシはそう言って、アタシを砲丸投げでもするみたいに放り投げた。
「絶対、助けてよね!?」
パサッ、とカーテンとか、ノレンをくぐる感じがまたした。未来のアタシの声は、少し遠くから聞こえた。
そこは、すごい音ばっかりの場所だった。
叫び声、怒鳴り声。金属同士がぶつかる音、何かが落ちるみたいな音。
金属の匂い、ホコリの匂い、何かが焦げたみたいな匂い、お魚でもさばいてるみたいな匂い。
ここは、いろんなものがぐちゃぐちゃだ。
映画で見た中世の鎧みたいなのをつけた人。
アニメとか、ゲームの中みたいな格好をした人。
魔法使いっぽい人。
体操選手っぽい人。
科学者っぽい人。
プロレスラーみたいな人。
うっわ……ぐっちゃぐっちゃだ……。
先のほうにレリオを見つけたアタシは、いろんな人の間をすり抜けて走る。
「レリオ!砦に入れっ!」
ブレンダンの声がした。よし、あっちに行けばいいんだね?
××××××××
たぶん、門、なんだと思う。
大きな戸が閉まって、すぐにレリオが何かの魔法を壁にかけてた。
ウィンとブレンダンはちょっと疲れた感じに見える。レリオの肩を叩いてた。
あれが男同士のねぎらいってやつなのかもしれない。
大きな石でぐるっと囲まれたここは、安全な場所なんだと、本能が教えてくれた。
でも、なんかまだぞわぞわする。
今、ここにいるのは味方だけのはずなのに。ここは安全で、レリオはここにいる限り、大丈夫なはずなのに。
怪我してる人がいた。
疲れきって、地面に座ってる人がいた。
助かったって喜んでる人、怪我人の治療をする人、何か急ぎの用事があるみたいに走ってる人。
男の人も女の人もいっぱいいた。
ここで、レリオが治療に魔法を使わないのは、何か意味があるんだろう。
「うららちゃん、中に入ろう」
「うん」
レリオに言われて、アタシはホコリっぽい建物の中に入った。廊下はお城と比べたら狭い。
「……なんでうららちゃんがここにいるんだ」
ウィンがあんまり勢いよく座るもんだから、シンプルな椅子からはギシッて文句を言うみたいな音がした。
「俺、アラーナ様の所にいろって命令しなかった?
命令を聞かないとダメージがあったよね?具合はどう?」
心配そうにレリオに聞かれて、アタシは自分をチェックしてみる。けど、なんともない。
レリオの命令よりも、レリオの命の方が大事だもんね。
……そう思ってから、違う!って本能が叫んだ気がした。
「……霊格があがったからだ」
アタシは呟く。
魔力と霊格は違う。
こうやって意識しながら見ると、レリオの魔力が凄く大きいこと、でも霊格は普通なことがわかる。
いまこの部屋にいる人で、一番霊格が高いのって、なんとびっくり、ブレンダンだった。
レリオよりもアタシの方が霊格がものすごく高いんだ。
霊格が高いからって、魔法が使える訳じゃないのがザンネン。
「え?レイカク?」
不思議そうにレリオが聞いてきたけど、アタシにもよくわからないんだもん。説明なんてできるわけない。
「んっと、とりあえず……アラーナ様より、レリオの方が死にそうだから、アタシはここに来た。……の、かな?」
スッとウィンが目を細めた。訳がわからないって言いたいらしい。相変わらず目付き悪っ!
……でも、生きてて、良かった。
まだ引っ込んでくれないぞわぞわが気になるけど、みんなが座りだしたからアタシも空いてた椅子に座る。
「さて、どうするか」
「うららちゃんは、戦力に入れない方が良いんじゃないか?」
「ボールドウィン様、まずは戦力の確認からしま しょう」
ウィン、ブレンダン、レリオが始めたのは作戦会議みたいだった。アタシには難しくてわからない内容が話されていく。そのうちの、ウィンの一言がどうしても気になった。
「戦力の確認、……アラステアを待てるのは明日までだな」
待つってどういうこと?
「……え?アラステアさんは、もっと後方にいるとかじゃないの?」
アラステアさんは第一王位継承者だってアタシは聞いてる。
だから、もっと安全な後ろの方で待機してて、ここが前線基地なんじゃないの?普通、偉い人って戦いに参加したりしないよね?シキカン?ていうのはどっか安全な陣地にいるものなんでしょ?第二王位継承者のアラーナさんが『何かあったときのため』に王城に待機してるみたいに。
「……罠が張られてた。それに、意図的にモンスターが投入された。『吹きだまり』とは違うみたいだったけど」
レリオが言った。
ねぇ、アラステアさんは大丈夫なの?どこにいるの?
聞きたかったけど、アラステアさんが大丈夫なら、みんなこんな顔つきはしない。
……アラステアさんは、第一王位継承者なんだよ。
さっきの戦場の様子を思い出したら気持ち悪い。
アタシだってさっきは必死だった。怖い。こんなところにって知ってたら、アタシ、来たくなかった。そんなところに第一王位継承者がいる?
アタシの役割は、剣の持ち主のレリオを守ることだ。
「レリオ、お願いがあるんだけど」
アタシはぎゅっと目を閉じた。
深呼吸をして、胸を張って、顔を上げた。
「アタシに、アラステアさんを助けに行かせて」
レリオはアタシの顔から目をそらした。
「ウィン、お願い。今ささっと動けるの、アタシだけでしょ?」
アタシの手元を見ていたウィンは、いかにも困ったって感じになってた。
「……ブレンダン」
アタシはブレンダンの服のはしっこをつまんで、見上げた。
……アラステアさんは、あんなのでもこの国で一番、王様に向いてる人なんだよ。
お願いだから助けようよ。
助けに、行かせてよ。
「助けに行く、うららちゃんの安全のほうが心配だ」
ブレンダンが服の裾をつまんでるアタシの手をなでる。
レリオよりも硬い手。
ブレンダンのこと、前は苦手だったけど、今はそんなでもないのが不思議。
雑で、そのわりにこまめで、意外と優しいとこもあるんだよね。そして霊格がここにいる中で一番高い。
「そこの二人もそれを心配してる」
「アタシの鞘はアラーナさんに預けてきた。
いざとなったらアラーナさんのとこに飛んで逃げるよ。
……お願い。行かせて」
じぃっと見上げておねだりポーズ。
だって、レリオもウィンも、絶対ダメって言いそうな感じなんだもん。押すならここしかないっ!
ブレンダン!お願い!
……と、おねだりなんかしてみようと思ってた時もありました。
ぞぞぞぞわっとした。さっきより、今までより、もっと、ずっと、すごく、イヤな感じ。
許可なんてとってる場合じゃない。
今、
すぐ、
行かなきゃ……。




