表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
2章 ソカレリル・カレイドスコォプ
50/75

神殿についた。

到着するとすぐに王族の使用人たちと、神殿の下働きたちがせわしなく荷物を宿泊所に荷物を運び始める。それを横目に俺は馬車に乗りっぱなしでこわばった体をほぐそうと、思いっきり伸びをした。


馬車の屋根に貼り付いていたカピバラ(うらら?)が、ふわっと羽を動かして、俺の肩に止まる。ぽてっとした重さがちょうど良い。


「きゅるるるるるるる」


暖かい羽のついた背中を撫でたら、カピバラと呼ぶには小さいその生き物は気持ち良さそうに目を細めた。


「着いたー!」


「うわ……凄い、荘厳!神秘的、綺麗!」


馬車からアオイとシンヤも降りてきた。


「きゅいっきゅるるるるるるる」


カピバラ(うらら?)が、ふわっと羽を動かして、俺の周りをくるりと回りだす。それからアオイとシンヤの周りを。

少し先に飛んでは戻り、また俺たちの周りを回る。


「きゅるるるるるるる」


この先に来いってことか?顔を見合せてしまった俺たちの後ろで、アラステア様がクスリと笑われた。


「サクッと二人を帰してしまいたいから、早く中に入ろう、といってるよ」


……どうやらアラステア様だけは、カピバラ(うらら?)の声を聞き取れるらしい。うららがこうなった理由が、アラステア様のお作りになった魔法の道具のせいだからだろう。


「え、あと一日だけ」


カピバラ(うらら?)に向かってシンヤが指を一本立てた。

カピバラはそこに体当たりをする。ふざけるな、ってことかな?頬を膨らませたうららの顔が浮かぶようだ。


旅の間、うららはずいぶんとあの二人の安全を気にしてた。やっぱり向こうの世界の友人は大切なんだろう。


「きゅいっ」


アラステア様の前に、カピバラ(うらら?)がちょこんとお座りした。


「……仕方ないな」


アラステア様が何かの術をかけた。ポン、とコルクを抜くような、小さな破裂音にも聞こえる音がしたかと思うと、そこにはうららが立っていた。


「もう、やっと戻れた!ほら、早く帰らないと。さすがに、そろそろ門が閉まっちゃうかもよっ!?」


うららはアオイとシンヤの腕を取って、勢いよく走り出した。


「レリオ、アタシが前にいた、あの、水びたしの部屋の行き方、わかるっ?」


キラキラ光る目、ふわふわした髪の毛、弾むような声……うん、間違いない。うららだ。本当にあのカピバラが、うららだったなんて。


「あ……うん、こっち」


釣られて俺も走り出す。


「おい待て、お前たち、鍵はどうするつもりだ!?」


その後ろから、ボールドウィン様も走って着いてくる。


前を走るうららは、俺が買い揃えた白い衣装を着ていた。

……あれ?カピバラになる前はドレス姿だと聞いていたから、その衣装は荷物の中に入れておいた筈なんだけど……。


××××××××


しんちゃんが帰りたくない、とか言い出したらメンドクサイ。

神殿であれやこれやといろいろ起きたらメンドクサイ。

アラステアさんとしか話ができないから、カピバラの姿は、メンドクサイ。

カピバラの姿のまんまじゃ、あっちに行けるかわかんない。すぐに戻ってくるから、お願いだから、人の姿に戻してください。


そう言ってみたら、すっっっっごく嫌そうに、アラステアさんは人に戻してくれた。ヤナヤツめ。


アタシは指にはまってた、アラステアさんに貰った指輪をウィンに預けた。前にレリオから貰った指輪は無くしたまんまだし。これは無くしたくないし。


「これ、便利っぽいから、ちょっと預かっててよ」


聖水の、池みたいになってるところにアタシは入る。


水に入るのと同じタイミングで、薄く何かが広がる感じがしてほっとした。やっぱり、ここが一番向こうに行きやすい気がする。


アタシが人の姿になったら、いつの間にか腰には前に拾った名前のない剣があった。

それを棒代わりにして、頭の中に思い付いたマークをガリガリとそこに刻む。


マークに意味なんてない。ただ、そうしたほうが『ここ』にまた来やすいと思っただけだ。


「レリオ、来て」


アタシはレリオの手を握る。アタシと、レリオの『つながり』の間で、いつもやりとりされてる不思議な力……エネルギーみたいなのを意識する。


その中に、レリオの魔力もある。

レリオの魔力は強くて、勢いがあって、ざらざらしてる。

アタシがイメージするのは、ミルクココア。ああいう、なめらかでとろっとした動きだ。


「……わかる?」


アタシのイメージは繋がりを通してレリオにもわかるハズ。そう思って見上げたら、レリオは顔をしかめた。


「わかるけど、難しいな」


「レリオにコレができないとアタシ、また、ここじゃないところに落っこちちゃうよ」


細く、なめらかに、丁寧に、アタシが書いたマークにレリオの魔力を流し込んでいく。


「これ、しばらく続けててね」


つぎはアオイとしんちゃんだ。

レリオから手を離して、今度は二人と手を繋ぐ。


ばっと道がひらいたのが見えた。元の世界とつながる道。


「帰るよっ!」


「……すげぇ」


「行きはあんなに時間かかったのに……帰りは一瞬だなんて」


蝉がうるさい。暑い。日陰に早く入りたいと思った。


前にも後ろにも、沢山の人が並んでる。受付がある、建物の入り口まではあと100メートルくらいある。


アタシ達の周りにいる人達に、驚いたっぽい顔つきの人はいない。……そう言えばブレンダン、どうやって帰ってたのかな。


「……じゃ、アタシ、もっかい行ってくる」


あっちに行く前にブレンダンとはあんまり話ができなかったけど、あっちにいたんだからきちんと帰れてたって事だよね。


戦争、かぁ……。


レリオとの繋がりは、前よりも強くしっかりしてる。道を、往復したからだ。アタシはそれに意識を乗せた。ぐいっと意識が引っ張られた、のに、渡れなかった。


「……あれ?」


あせる。


レリオの魔力を感じる事はできるのに。さっきよりも集中してみた。ぐんっ!と強く引っ張られたのに渡れない。


「うららちゃん、どうかした?」


アオイが首をかしげた。


「どうしよう……レリオの所に行けない……」


きっと今、アタシの顔、青い。


「え?行けないって、だってさっき向こうで何かやってたじゃん。行けないの?もっかい試してみたら?」


アオイは心配してくれる。アタシの手を握ってくれた。


どうしよ。なんで行けないんだろ?


列はノロノロ進んで、入り口がもう少しだ。

向こうでレリオが待ってる。アタシ、行かなきゃ。

レリオだけで戦争に行く?そんなの、ガマンできるわけないよ、レリオの所に行きたい!


ぐいっ、と引っ張られた。でも、道が見えない。これじゃ渡れない。


「……なんで?」


途方に暮れるって、このことだ。

建物の中にも人がいっぱいいる。しんちゃんがあいてるベンチを見つけてくれた。


「とりあえずさ、一回落ち着けよ」


「おちつけるわけないじゃん……」


今のアタシには、しんちゃんが履いてる灰色のスニーカーの、ちょっと汚れてるくつひもを見るのがせいいっぱいだ。


そんなアタシに、あのさ、としんちゃんは大きくため息をついた。


「レリオさんも、ボールドウィンさんも、ブレンダンさんも、凄く強かったよな?」


「……うん」


そんなの、当たり前じゃん。レリオは賢者。あの国を支える一人だもん。

ウィンとブレンダンは賢者じゃないけど、剣だけの腕なら同じくらいに強い。その三人が弱いわけない。


「うららちゃんがいなかったら、負けるのか?

俺さ、旅してるときに思ったんだけどさ。アラステアさん、あの人ホントにすげぇよ。

リーダーシップが凄い。俺、ソカカレでギルマスやってるからわかる。……ゲームと現実じゃ全然違うけどさ。とにかく、あの人はすげぇ」


アラーナさんだって、アタシ達とドラゴンを倒した。今ならわかる。アラーナさんだって、強い。


「アラステアさんが指図して、あんなに強い他の人達がちゃんと従ってて、それで、どうやって負けるんだよ?

……な?だから、うららちゃんは、今は落ち着けって」


……確かに。アラステアさんがいて、レリオがいて……戦争って聞いてアタシは怖くなっちゃったけど、そうだよね……?負けるわけない。


風を感じた。道が開いたんだ。アタシはそこに飛び込んだ。

中は色んな色がぐちゃぐちゃになってて、なのに真っ暗で、眩しい。


ずっと先にアタシとしんちゃん、アオイが見えた。ああ、あれはみんなで向こうに落っこちゃった時だ。

ブレンダンがどんどんとはぐれちゃってる。アタシは近寄っていって、ブレンダンの襟首をつかんだ。


「あれ?うららちゃん?」


「ね、ひさしぶりで合ってる?」


「まー、さっきぶり?」


こんな、訳がわかんないとこにいるっていうのに、ブレンダンは落ち着いてる。


「ね、レリオって、元気してる?アタシの呼び出し方ちゃんと教えたのに、なんにも無かったんだけど」


「……あー……アイツなら、落ち込んでる」


向こうのほうにいるあたし達が、どっかに落ちたのが見えた。きっとこれからウィンに会う。あたしはちらっと見えた景色を指差した。


「あれ、どこかわかる?」


「まぁ、なんとなく」


「レリオを、あっちのアタシのとこに連れてける?」


アタシが首をかしげたら、ブレンダンがニカッて笑った。


「ああ、任せろ!」


……ここだ。


レリオの屋敷が見えた。ぽいっとブレンダンを放り投げる。

その時、『道』の中にいたアタシにも、あり得ないくらい散らかりまくった部屋が見えた。


はぁぁぁ!?


だから、レリオは家に帰りたがらなかったの!?


……ムカッ!


アタシがこっんなにレリオに会いたくて、苦労して、心配してたってのに、レリオは散らかし放題してただけなんて!


「おい、レリオ!俺、うららちゃんに会ったぞ!お前を連れて迎えに来いって言われた!」


ブレンダンの慌てたみたいな声が聞こえた。

パシン!と、ムカムカを全部込めて、レリオの後ろあたまを思いっきり、はたいてやった。

レリオがその勢いで、ベッドに顔を埋めたのが見えた。


「うわ、きたなっ!」


『道』から出て、改めて見たアタシの部屋がひどい。

これはすぐに片付けさせないと。


……じゃなかった。アタシ、すぐに神殿に行かなきゃ。レリオの、『持ち主』のところに。

部屋の中を走って、またすぐに『道』に入る。


××××××××


細く、魔力をひたすら細く、一定に。

一気に大量に魔力を放出するのは得意だ。細かい作業もできる。……なのに、うららのイメージ通りに魔力を流す事が難しい。


俺の魔力とは違うものが求められているのかも知れない。


ああ、またぶれた。なかなか安定させられない。

絹糸のように細く、磨きあげられた剣のように、鋭利で滑らかに。


「……レリオ、手伝おうか?」


いきなり、魔力の流れの扱いが簡単にできるようになった。アラステア様が俺の向かいに立っていた。


他人の魔力に干渉するのは難しい。さすが、10代で大賢者の称号をお持ちになった方だ。魔力の量は俺のほうが多いけど、やはり魔力の扱いの上手さは、永遠に敵いそうにない。


ふんわりと優しい風が、うららが残した謎のマークから吹いてくる。

溶け出すように、自然に、うららの姿が現れた。


ふわふわした髪の毛。

黒目がちな瞳。

ぷっくりした唇。

小柄な体。

小さな手。

かわいい、可愛くて仕方ない、俺の娘。


……ん?娘?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ