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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
5/75

商店街にて

「うらら、おはよう」


朝早く、レリオがアタシを部屋まで起こしに来た。


あれ?

鍵……寝る前にちゃんとしめたと思ってたんだけどなぁ……。


「おはよ……」


「服とか装備とか、手伝わないと身に付けるの無理かなって思ったんだけど、どうする?」


レリオの少し弾んだ声を聞いてるうちに、寝ぼけてた頭がだんだんさえてくる。

アタシはあわてて、布団を身体に巻き付けた。


「着替えくらいはひとりでできるもん!見ちゃダメ!」


ついでに枕を投げつけてやれっ!


「出てけっ!」


パジャマはきちんと着てたけど、寝起きはあんまり人に見られたくない。ていうか見せるもんじゃないよね?アタシだってちゃんと女の子なんだからね!!


レリオが出てった後。

また鍵が開けられちゃうかもしれないから、念のため、物陰で着替える。


昨日アタシの足を治したみたいに、鍵を開ける魔法とかもあるんじゃないの?


まるでアタシのために作られたみたいに、服も靴も身体になじんだ。

これならいくらでも歩ける、と思う。

戦うこともできそうだ。昨日はすっごい気合い入れないとムリ!としか思わなかったけど、今はそうでもない。


お店で試着した時はこんな感じしなかったのに。

ベッドでゆっくり寝たから、身体も軽い。


着替え終わってドアを開けたら、すぐ外側でレリオは待ってた。

アタシをじっくり見てから、あの爽やかな笑顔を見せてくれる。


「うん、似合ってる」


アタシの部屋に大きな鏡は無かったから、レリオの言葉に安心した。


「じゃあ、行こうか」


××××××××


よくやった俺。

白とベージュ辺りで揃えたから、剣のデザインにもよく合ってる。

ちょっと森の中なんかでは目を引くかもしれないけど、とてもうららに似合ってる。


宿の裏手に向かいながら、俺の肩辺りでふわふわと揺れる髪の毛を見ていた。


「どこに行くの?」


「ん?だからさ、特訓。そろそろ必要でしょ?」


見繕っておいた木の枝を一本手渡す。

受け取ったうららは神妙な顔をしていた。


「こう、持って……」


「こう?」


まずは剣の握り方。

そして素振り。

それから簡単な打ち合い。


「……ったぁ!」


うららが剣に見立てた木の枝を落とした。


「大丈夫?」


俺なんかよりも小さな手のひらを見ると、赤くなっていた。


「うん」


ふーふーと息をかけたあと、手をグーパーしているのがかわいいと思……わないぞ!俺は!


「ん?もう特訓っていうのやらないの?」


下から顔を覗き込まれる。

俺は視線を逸らす。誤魔化したくて大きく伸びをした。

嘘です。かわいい。これはもう認めるしかありません。

スゲーかわいい。小動物か。


「朝御飯、食べに行こうか」


なんとか普通に聞こえるように気をつけて言う。

……うららの顔が曇った。


「ね、後で市場とか行けないかな?」


「いいけど。どうして?」


「んー……ちょっと」


うららは曖昧な笑顔を浮かべた。

そういえば、夕べも食事の時に元気がなかったような。

元の世界と食事が違うのかもしれない。


そう思いつつ、食堂に向かう。

いつも通り『ダー』が出される。


いろいろな物を粉にして、お湯で溶いた物だけど、うららはこのダーがあんまり好きじゃないみたいだ。

それでも普通に朝食を済ませた。


「レリオ、今日中にこの村を出る?」


「んー、それでもいいんだけど……」


俺は食後のお茶を飲む、うららをちらりと見た。

今朝の動きを見ると、足はもう痛くなさそうだ。

回復魔法をあんな、人が沢山いるところで使うことをためらって、回復の魔法薬で済ませたから少し心配してた。でもこれなら大丈夫だろう。


この村から、急いで俺の家に帰って異世界より召喚されし巫女についての調べものに専念するか、時間をかけてうららの話を聞きながら旅をするか。


そうだ、うららが異世界より召喚されし巫女と決まった訳じゃない。

スパイの可能性を忘れちゃいけないんだった。


俺は少し邪魔な前髪をはらう。


「2、3日ここの村に居ようかな」


「じゃあ、また着替えてもいいかなぁ?汗かいちゃった。」


うららは肩をすくめて、おどけたように笑う。

俺はあの程度じゃ汗なんてかいてないけど、汗臭いと思われたくない。

俺も着替えておこう……。


「そうだね。じゃあ、仕度できたら部屋に来てよ」


そう言って俺はフロントに宿泊の延長をしに行こうとする。

そんな俺にうららは首を傾げる。


「なんで?」


「なんでって……市場を見てみたいんでしょ?」


「あー……」


ひとりで納得していた。

お金もなしでどうやって買い物をするつもりだったんだろう。


それに、


もしも、


うららが他国のスパイなら、長時間一人にさせるのはあまり良くない。

部屋を分けてる時点でうららにスパイ活動をさせる時間を与えている訳だけども。

そのへんの対策を何か考えないとな。


××××××××


レリオにおこづかいをちょっと貰って、自由に異世界の村をぶらぶらしてみたかったんだけどなー。

レリオはアタシの事、何にも出来ないと思ってるのかな。

アタシだって普通の女子高生。それなりのことはそれなりにできるよ?


足の痛みと一緒に、この世界に対するアタシの不安もかなり消えてた。

確かに、アタシはこの世界について無知。

だけど。

ここのホテルなんて元の世界とあんまり変わりがないし、そこまでいろいろ怖がる必要無さそうな気がしてきたんだ。


村にはモンスター出ないって言うし!


シャワーを浴びて、宿のレンタル服に袖を通す。


電気の無さそうなこの世界にドライヤーがあるのはスゴく、すごーく助かる。


あとはメイクができたらなぁ。せめて日焼け止めが欲しい。


そんな事を考えながら、レリオの所に行く。


「レリオー、仕度終わったよー」


「んー……」


レリオはアタシを待ってる間、本を読んでいたみたいだった。

本を置いて笑顔を見せてくれる。うん。爽やか。


「うららは何が見たいの?」


「うらら?」


友達だって親だってアタシの事『うららちゃん』って呼んでくれたのに。


「いいでしょ?うららでも」


「良くないもん。う・ら・ら・ちゃん!」


思いっきり睨み付けてやった。


「はいはい」


あ、これ絶対流された。ゆるさぬ。アタシはうららちゃんって呼ばれるのが好きなのっ!うららじゃダメなのっ!

それから昨日の商店街に向かう。

うーん……果物とか、野菜とか見つからないな……。

売ってるのはレリオが『ダー』って呼んでいた粉ばっかり。


ここの世界に来てから、食事はダーばっかり。


最初は節約のためかな、とか荷物を減らすためかな、とか思ってた。

でも、あの高そうなお宿の食堂にはメニューが無くて、出される料理はやっぱりダー。


これはもう、この世界ではダー以外は食べてないって思ったほうが良さそう。


不味くはないんだけど、ずっとおんなじだと飽きるんだよね。


クッキーが食べたい。ケーキが、ピザが、パスタが、ハンバーグが、焼き魚定食が食べたい。


調理の必要がないフルーツならもしかして、って思ったけど、商店街のどこにも売ってなかった。


「帰ろ」


レリオにそう言って、商店街を歩く。

そうしたら、昨日武器を買ったお店の近くに、ほうれん草に似た緑色が見えた。


「あ!ほうれん草……?」


少し走ってそこのお店を覗いてみた。

野菜が少し、乾燥した葉っぱ、そして……


「イチゴだ!」


後からついてきてくれてたレリオを振り返る。

もしかして似ているだけで違うくだものかもしれないもん。


「レリオ、これ、食べられる?なんていう名前のくだもの?」


お日さまの光が目に入ったらしい、レリオは眩しいものを見るみたいに目を細めた。


「毒はないけど……イチゴだよ。イチゴって呼ばれてる。

でも、このまま食べる人なんていないからね。食べるなら乾燥させて粉にしないと」


だからなんで基本は粉!?


「レリオ、これ高いの?これ買って!」


も、そんな事どうでもいいや。あのでろでろ以外が食べたい。このイチゴがあんまり高くありませんように!


「え……いいけど……こんなのが欲しいの?」


こんなのって、こんなのって、アタシはダーじゃないものが食べたいのっ!!

苦笑いして、レリオはイチゴを一袋、買ってくれた。


あと、小麦粉と砂糖とバターがあればお菓子にできたんだろうけど。


ドライヤーで乾燥させたらドライフルーツにできないかな。

ドライフルーツだから、乾かせばいい……んだよね?

フルーツは薬剤を取り扱ってるお店、覚えておこう。


買ってもらったイチゴをひとつぶ食べたら、甘い。


「んー!おいしい!」


やっぱり食べるならこうじゃないと!

自然と顔がほころんだ。


「レリオも食べてみる?」


ひとつぶ渡すと、レリオの顔がこわばってた。


本当にイチゴを生で食べる習慣が無いんだ。

おいしいのに。

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