うららとうらら?(2)
ホントにアタシなの?この人。
未来から来たアタシ?そんな事、あり得るの?
「ホントに、アタシ?」
アタシと同じ顔をした人は、んー、て言いながら首をかしげてた。
「全くおんなじっ!
……てわけじゃ、ないからなぁ……」
あ、これ、アタシだ。なんかわかる。
「ね、未来から来たんなら、何か未来の面白い話教えてよ。
予言してスゴいって言われたい!」
せっかくのチャンスだと思ったけど、アタシと同じ顔をした人は、首を振った。
その時にやっと、違和感に気がついた。
この人、アタシの顔をしてるのに、すっごく大人びてない?
本当に、アタシなの?
ホントは別人?
ううん……アタシだ。
ううん……でも……アタシじゃない?
「あんまり長くいられないから、さっさと言うことだけ言うね。
うららちゃん、今はまだワケわかんなくて良いから、これだけ覚えて」
この人、アタシじゃない。
アタシと同じ顔をして、録画したときのアタシの声をしてるけど、アタシじゃない。
……じゃあ、だれ?
だんだん不安になってくる。
そもそも、ここはどこ?
周りは青っぽい、灰色が広がってる。
ここが広いのか、狭いのかわからない。
アタシは水の中に引っ張り込まれたのに、ここには空気がある。それに、アタシ、濡れてない。
「いい?
『人格と、霊格は違う 。魔力と、王格は違う』
……意味はまだわからなくてもいいよ。
けど、そろそろ選ばないといけなくなるからね」
この人が何を言ってるのか、さっぱりわからない。ていうかいきなりそんな事言われて、わかる人なんてきっといない。
すごく真面目な顔をして、アタシと同じ顔をしたその人は、アタシの両肩をガシッと掴んできた。
「誰を選んでも、絶対に大丈夫。
アタシは今、幸せだよ。すごくしあわせ。
……でも、すっごく後悔もしてる。
同じ選択をしないで欲しい気持ちがあるし、絶対同じ道を選んで欲しいってのが、ある」
『選ぶ』って事に心当たりは、ある。
「必要なことは、本能が教えてくれるよ」
すぅ、とその人の姿が薄くなってく。
本気でワケがわかんない。
今、何が起きてて、
ここがどこで、
今の人がだれで、
……どうやってここから帰るんだろ!?
「待って、かえりみち!」
アタシは手を伸ばしたけど、アタシは笑って手を振っただけだ。いや待ってよ、教えてよ、ってホントに待って、まってまってまってここどこぉぉぉ!?
アタシの周りは丸い空間だった。
さっきまで。
壁?なのかな?の一部が、溶けるみたいに崩れた。水がだばぁっと入ってきて、
「うっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
おぼれるってコレ。
ヤバい、深呼吸して、上を、水面を目指さなきゃ!ここは、水深何メートルですかぁ!?
××××××××
隣国ヨヌイールチとの戦争が始まる。
思っていたよりも情勢は悪かったらしい。
だから毎日、会議の連続だ。
今日の会議を終えて、俺は窓から外を見下ろした。
そこは中庭のようになっていて、石畳の広場と小さな池があって、うららがそこで剣の練習をしているのが眺められる。
本当はうららと特訓したいけど、今、俺はそれどころじゃないくらいに忙しい。
戦争の準備だけじゃなくて、屋敷のほうにも大量の仕事を溜め込んでるんだよな……。
ため息をつきながら、俺は賢者としての仕事のうち、会議室でも出来ることを持ち込んで片付けていく。
この、三階にある会議室にはアラステア様と、ボールドウィン様もいらっしゃる。
俺と同じように仕事を持ち込んで、ちょっとしたことを軽く打ち合わせながら、色々と準備を進めている。
……決してうららを眺めながら仕事をしたいからここでしてるとか、そういう訳じゃないぞ。
俺は意識の上でもうららのお父さんになるんだからなっ!
魔法陣を特別な紙にひたすら書き込んでいたとき、アラステア様のよく通る声がした。
「ボールドウィン。……あの池は確か、そこまでの深さは無かったと思うけど、どうだったかな?」
「あの池か?」
『あの池』って、そこの庭の池の事だろうな。
何となく気になった俺も、魔法陣を書き込む手を止めた。
……ついさっきまで池の縁に座っていたうららはもう、そこには居なかった。
いつの間にか部屋に戻ったらしい。
「ああ。確か、子供の膝下くらいの深さも無いはずだ」
それがどうした?と言いながら、ボールドウィン様は窓を開いた。
アラステア様は優雅に、でも怪訝そうに目を細めながら、窓辺に向かわれる。
「……たった今、うららさんがあの池に落ちたんだ」
……落ちた!?
目を見開いたボールドウィン様が、アラステア様と池を素早く交互に見る。
「あんな浅い池だ、落ちたとしても姿が見える筈だろう?」
「……うん。だからね、不思議だと言ってるんだよ」
焦る俺や、青ざめるボールドウィン様と違い、アラステア様の声はやたらと落ち着いているように聞こえる。
俺は、部屋を飛び出し、走り出した。
白い壁と、艶のある深い色をした、繊細な装飾の木製の手摺が美しい階段を駆け下り、蹴破る勢いで中庭に通じる扉を開く。
池の縁にボールドウィン様がもう来ていて、バシャバシャと水をかき回しているのが見えた。
浅い池に、うららの姿はない。
「うららちゃん!うららちゃん!」
バシャバシャとボールドウィン様が掻き回す水の中から……うららの気配を感じる。
チラリと三階を見上げたら、真剣な面持ちのアラステア様が池をご覧になっていた。
うららと、俺の間にある繋がりを強く意識した。
俺の魔力をその『繋がり』に流し込む。
水面がまだらに光りだした。
何も見えなかった水中に、『ハナチラシミナモ』が見える。
俺は水中に手を突っ込む。『ハナチラシミナモ』に触れた筈なのに、柔らかい何かを掴んだ。
……うららと、目が合った。
『ハナチラシミナモ』を掴んでいた筈の俺の手は、うららの腕を掴んでいた。
ツイッターの方で『時駆け?』という質問がありましたが、この時間軸にいるうららちゃんは、時駆けしません。
たぶん。
レリオは階段を駆け降りましたが、ボールドウィンさんは窓から飛び降りました。怪我がなくて良かったです。




