うららとうらら?(1)
「う……わあぁっ!!」
しんちゃんとアオイが歓声をあげた。
この街道から王都に入るルートには、大きな門が作ってあった。アタシもこんなに大きな門が街道にあるのを初めて見る。
門の外のお店がお祭りに出てくる出店っぽいのは、夜中には門が閉まっちゃうからだと思う。きっと、店の荷物も人も、夜には門の中に入るんだ。
「この門は新しいんですよ」
馬車の手綱を握ってるのは、アルマンさんだ。
「確か、完成して一月もたっていないという話です」
……ん?
変な感じがしたから、アタシは門を見上げた。
意識を広げてみる。馬車の横にいるレリオがアタシをチラッと見たのがわかった。
すごくよくできた、メの細かい、レースみたいな魔力を感じる。多分、アラーナさんのだ。
アラーナさんの魔力は『繊細』っていう言葉がとっても似合う。
ところどころ、補助するみたいにキラッと光る、滑らかな魔力は他の人のだ。……誰のだろ?
高いチョコレートみたいにものすごく滑らかで、上品で、丁寧に絡むみたいな綺麗な魔力。
門の内側は、賑やかな街並みが広がってる。黒いい艶のある石畳、建物にも黒い色が多い。……ちょっとだけ、懐かしい。
レリオ、ブレンダン、ウィンがいるってことで、アタシたちはいったん、お城に行くことになった。
馬車から見える街の景色に、いちいちしんちゃんが歓声をあげてた。
「うららちゃん、後で武器屋とか入ってみたいんだけど行けるかな!?」
「んー、たぶん?」
レリオがいいって言ったらね。
××××××××
王都に近づき、俺はマズい事をひとつ思い出していた。
俺の屋敷の、うららの部屋。俺が散らかしたまんまだ。
ヤバい。
マズい。
うららに変態認定されるのだけはどうしても回避したい。
……例え、うららがボールドウィン様と付き合うとか、結婚するとか、子供ができるような事になったとしても。
うららによれば、俺は『この世界のうららの父親』らしいからな。嫌われたくない。
俺が必死に嫌われない為には、と頭を働かせていたら、ブレンダンが良い提案をしてくれた。
「異世界の巫女、賢者、王族が揃ってるんだ。
とりあえず、王城に顔を出した方が良いんじゃないか?」
「そ……うだな!王城にも俺の部屋あるし!」
ブレンダン、良い案だ!
王都に入る門を通る時、魔力……いや、魔力とは違う。
何かが揺らいだ。
うららが不思議そうな顔をして、門を見上げていた。
××××××××
王城に着いてすぐ、俺は城内にもある自分の部屋に向かわせてもらった。誰か手配して家を片付けさせないとマズい。
うらら、しんや、アオイ達はブレンダンが連れていってくれた。
多分、湯浴みと着替えを済ませてから、謁見室に通されるんだろう。
書類、修理依頼の武器、いろいろな製作依頼、防御の呪文……城で俺に届く仕事は、基本的に国から手配されるものばかりだ。
……つまり、軍や王族の為のもの。
山のように積み上げられた仕事依頼の書類を見て、もしかしたら戦争が始まるのかもしれないなと、俺は思った。
××××××××
ザ・お城!!
つやつや光る家具も、カーペット?じゅうたん?廊下に敷いてあるのも、ふっかふかでぜーんぶ高そう!
「じゃ、後で。……っと……明日くらいには誰か迎えに越させるから、それまでこの辺にいてくれな」
ニカッと笑って、ブレンダンが連れてきてくれた部屋には、なんと!
メイドさん達がいた。
メイドって言っても、スカート長い方のね。
……あれ?もしかして、メイドじゃなくて女中?女官?ホントは何て言うの?……わかんないからメイドでいいや。
メイドさんがてきぱきとお茶を入れてくれたのは、豪華な応接セットがある広い部屋。
「豪華な部屋だね……」
つい、小声で話しちゃう。アオイもしんちゃんも、部屋の豪華っぷりにドン引いてるのがわかる。
こんな中で暮らしてるんだ……王族ってハンパ無い!!
アルマンさんたちとはお城の門で別れた。
「いつでもフランツ一家を頼ってください。
その為にも、頑張って支店を増やしますから」
別れ際の、アルマンさんの、高級仏壇を売りつけて来そうな笑顔が怖かった。
なんであそこまでうさんくさい、それでいて爽やかな笑顔ができるんだろ?……けっこう、いい人なのに。
ていうか、フランツさんたち、ずっと旅をしながら商売してて、やっと最近持ち店ができたばっかなのに、もう支店を作るつもりなんだ!?
「うららさんが私達と一緒に旅をしてくれたら、王国一の店になるのも、すぐだと思ったんですけどね」
別れ際に、アルマンさんはそう言って、アタシの手の甲にキスしてった。ひぃっ!
すかさずレリオに魔法で治療されて、ウィンの手配した人にお風呂に入れられた。
わけわかんない。
……てわけで、この離れみたいな建物にはしんちゃんと、アオイと、アタシしかいない。あと、メイドさん。
レリオは、お仕事が沢山あるんだって。
最近、あの、妙に迫ってくる感じが無くなってきてたから安心できる。
レリオの近くに居たいのにな……。
《契約者を守れ》
あの、見えるけど見えない『命令』がチカチカしてる。
でもアタシとレリオの間にある『繋がり』からは異常を感じないんだもん。
言うこときいて、大人しくしてるしかない。
前よりもアタシは進化したんだもん。待て、くらいできるもん!
××××××××
……レリオ、どのくらい忙しいのかな?
お城に泊まってから、何日も顔を見せてくれないレリオにイライラする。
《契約者から離れるな》
「わかってるってば」
アタシは『花散らし水面』を握って、部屋を出た。
「うららちゃん、また特訓?」
部屋の中からアオイが声をかけてくる。
「うん。身体がなまっちゃったら困るでしょ」
アタシにとって、レリオは『花散らし水面』の製作者で、持ち主で、アタシがここで生きてく為のエネルギーをくれる人。
アタシがこんなんだから、レリオに勘違いさせてるのかもなぁ。
しんちゃんに注意された。
「そんなに会いたいとか、とにかく近くに居たいって言われたら、恋愛感情で好きだと勘違いされるのが当たり前なんじゃないか?」
でも、恋なんて、よくわかんないよ。
アタシはレリオの近くに居たいだけだもん。レリオを守りたいだけだもん。
部屋を出て、高そうな壺の飾ってある廊下を歩いて、いかにもお城チックな、渡り廊下みたいな所から中庭に出る。
小さな池があって、そのフチに座ったら、小さなお魚が泳いでるのが見えた。
アタシは、剣をそこに浸す。
この水は聖水じゃないのに、すごく気持ちいいんだ。少しそうしてから特訓すると、調子がいい。
……いきなり、手首を引っ張られた。
悲鳴をあげてるヨユウが無かった。
ばっしゃん、とアタシは水中に引きずり込まれた。
やばいやばいやばいやばいやばい!息が!息が!ていうか水鼻に入った!痛い!おぼれる!助けて!
「やっほー」
アタシは焦ってるんだっての!
……ん?
すっごくのんきな声に、聞き覚えがある。
「うわぁぁぁぁっ!?」
なんと!アタシがいた。
「今しか無いと、思ってさ」
アタシ。
どっからどう見ても、アタシ。
「始めまして、て言うの、確かに変なカンジ」
目の前で、アタシの手を掴んだまんまのアタシがはははって、笑った。
「……だれ?」
目の前に、アタシと同じ顔をした人がいる。
……嫌なカンジはしない。
敵……じゃ、ない……と、思う。
「アタシくらい霊格が高くなるとね、未来から過去に渡ることもできるんだよ」




