吹きだまりにまた来ちゃいました
夜、テントでアオイにあの話をしたら、なんかやたらとウケてた。
「モテ期来たんじゃない?」
アオイがそうやって軽いノリで笑ってくれたから、アタシの中にあったモヤモヤも軽くなった気がした。
「モテ期ってさぁ……向こうにいるときが良かった」
アタシはふざけて、おもいっきり落ち込んだフリをする。その背中をばっしばっしとアオイが叩いてくる。
音はしても、痛くない。
「それにしても『ウィン』て……略しすぎっ!
いっそのこと『ウ』にしちゃわない?『ボ』でも良いかも!
……ボ!ウケる!」
「『ぼ』!」
アタシもつられて笑っちゃった。
「いちおうウィンは王子だもん。
レリオの事を考えたら、さすがにそこまではできないよ」
「レリオ、レリオ、レリオ……うららちゃん、本当はやっぱり、レリオっていう人が好きなんじゃないの?」
アオイが首をかしげながら顔を覗き込んでくる。美人がこれをやると、『かわいい』がすごい。
いいなぁ美人は……アタシだってアタシだってそこそこかわいい!……ハズだ。
「アルマンさんもかっこいい人だったって言ってたよ?」
「えぇえ……確かにレリオは女の子から人気あるっぽいけど……うーん……やっぱり……無いなぁ」
言いながらレリオの顔を思い浮かべる。
うん。レリオの事は大好きだけど、ときめけない。
不思議な気分だった。
どうやっても恋愛感情を持てない。
「で、アラステアって人はどんな人!?」
アオイがゴロンと寝っころがった。目がかがやいてる。
「ん……と、一言で言うとね、性格悪いよ。
アラステアさんの妹のアラーナさんは天使みたいな美少女なんだけどね。
アラーナさんによるとアラステアさんは『女の敵』だって。
魔法を扱う技術は凄いみたいだけど、レリオの方が制作系統には向いてるし、レリオの方が魔力強いし、レリオみたいに武器を持って戦う感じじゃないし。
アラステアさん、見た目はイケメンだし、ちょっとした行動もまさにイケメン!て人だったかな……?
遠くから見てるだけならいいんだけど。アタシはなるべく関わりたくないなぁ」
ホントに、アタシとアラステアさんがとか、あり得なさすぎる。
例えアラステアさんが王位継承権一位でなくてもムリ。
こう……生理的に受け付けない気がする。
「なんかさ……王子様と結婚話が出てくるなんて、おとぎ話みたいだね。
でもさ、もし嫌だったら、こっちの世界から逃げちゃえるんでしょ?」
そうなんだけど。
でも、それじゃ、レリオの所に行けないじゃん。
アオイが寝ちゃったあと、そっとアタシはテントを抜け出した。
だって、眠くない。
昼間もふて寝しようとしたけど、目をつむってただけで寝られなかった。
レリオと旅してた時にもそうだった。
アタシには、何日か寝なくても平気なときがある。
テントの外は、空気まで寝てるみたい。ホントにこっちの世界って、星空が綺麗。
ジェフロワさんが見張りをしてるのがわかった。
今は村の中にいて、泥棒さんに商品を取られないようにするだけでいいから、見張りはひとりでいいんだって。
だから、他の人は寝ちゃってる。
少し離れた、広い所でアタシは名前の無い剣を握りしめた。
握りしめながら、レリオとの『繋がり』を確認する。
細い。
細いけど前よりもしっかりしてる。きっとほんのちょっとだけ近づいてるんだ。
あと、どのくらいの距離なんだろう?
試しにアタシの剣、『花散らし水面』を呼んだけどやっぱり手応えは無かった。
《レリオの所に行け》
「そんなの、わかってるよ」
アタシはゆっくり、レリオから教わった剣の型の練習をした。
××××××××
見張りがジェフロワさんからユークさんに代わって、空が明るくなってきた。
疲れた気がしないし、やっぱり眠たくないからアタシは剣の練習を続けてる。
「寝ていないのか?」
ボールドウィン……違う、ウィンが少し驚いた風な感じで、アタシの所に寄ってくる。
みんなのテントからはけっこう離れてるから、普通の声で話してても迷惑じゃないよね?
でもいちおう、声は抑えて話す。
「眠くならないから」
「そうか」
「うん。だから、ほっといて」
名前の無い剣を思いっきり振って、ヒュッて音を出した。
これに魂が無いとはとても思えない。すごくいい剣だ。アタシに合わせてくれてる気がする。
気を抜いて使ったら簡単に折れちゃうかもしれない。大切に、してあげよう。
「昨日の、アラステアとの婚姻の話だが」
「ゼッタイやだ」
アタシは動くのをやめない。この剣を折らないで最大限の能力を引き出したい。
そのコツが、あとちょっとでつかめそうだとか思ってた。
「わかった」
ウィンがそう言うのが聞こえた。
アタシはあと少しって、剣の方に集中してた。
そっか。意識を伸ばしてやればいいんだ。
中身が空っぽだから、折れやすいんだ。
「この話は俺だけの考えだ。……だから、まぁ、安心していい」
名前の無い剣がぼんやりと白く光った。とたんにふあっと軽くなる。アタシの腕の一部みたいに自由に操れる。
ごめんね、前の巫女さん。アタシ、これを使わせてもらうね。
「やった……!」
やっと、コツがわかってきた!
これなら、アタシでもそこそこ戦えるんじゃない?
これなら、
「みんなを守るとかはまだ無理だけど、ウィンと一緒にモンスター退治くらいはできそうかな?」
アタシはウィンを見上げた。
攻撃力って、どう測るんだろう?
ハナチラシミナモ程じゃないけど、確実に、『攻撃力』とかいうものが上がったっていう感じがした。
ウィンは強いし……アタシの力試し。ちょっと相手になってもらってもいいよね?
回りながら大きく踏み出して、ウィンに切りかかる。
当たり前だけど、当てる……ていうか、怪我させるつもりはない。
婚約だとかなんとか、まだホントはちょっと怒ってるんだからね!
「なんだっ!?」
ウィンが避ける。アタシはもう一歩踏み出して、また剣で切りつけようとした。
いっかい、にかい……ほら、もう避けられないでしょ!
キィン!
ウィンの剣がかん高い声を出した。
ウィンの剣はカッコいい。と思った。
キィン、キィンと切り結ぶ。
「どうした!?」
ウィンの質問は、まっとうなものなのかも知れない。
でもさ、アタシが怒ってるって気がついてるよね?だったら何となく察してよ!
「勝手にアタシたちの人生、決めないで欲しいんだけど!」
アタシは手数を増やす。
やっぱり、ウィンは強い。アタシなんかじゃ足元にも及ばない。ハナチラシミナモがここにあったとしても、剣の腕じゃ敵わない。
アタシは大きく距離を取った。
そこにウィンが突っ込んでくる。
アタシはそれをすり抜けて、肘をみぞおちに食い込ませた。
「……ったぁ!」
なにこの腹筋!?あり得ないんだけどっ!
肘の方が痛いってどういう事!?
剣が降ってくる。名前の無い剣で受ける。
今度はウィンの蹴りだ。
顔面に迫るウィンの足を、思いっきり、はねのけた。
その勢いでアタシの蹴りをぶちこむ。バランスを崩したウィンの背中に回り込んで、
「はぁぁっ!!」
ばしーーーん!!!
お尻を、名前の無い剣の腹でひっぱたいてやった。 アタシ、弱いなぁ。
剣の腕前、もっとあげたい。
「あのね、アタシたちにとっての結婚てスッゴクおおごとなの!
そっちはそっちで理屈があるのかも知んないけど、勝手に決めないで!!」
茫然自失って、こういう顔なんだなー……。
ウィンは、鯉みたいに口をぱくぱくして、それから、固まった。
スッゴク、してやった感じ!スッキリ!いい気分!
こういう人でもこんな顔するんだねっ!?
さーて、そろそろ朝御飯の準備しないとだし、宿屋さんのお風呂借りてこよ。
まだ固まってるウィンの服を少し引っ張った。
おーい、かえってこーーーい。
「ね。昨日の今日で気まずいから、ウィンからアルマンさんに聞いておいてよ。
吹きだまり越えるのに何もしてないみたいだけど平気なのかって」
『吹きだまり』と聞いて、ウィンの顔がサッと引き締まる。
「吹きだまり?ここに吹きだまりは無いぞ?」
何を言ってるんだ、この人は。
アタシは眉を寄せてしかめっ面になる。
「あるじゃん。この村、確かに吹きだまりの門があるにしてはしずかだけどさ。でも、」
アタシはすぐそこに見える門を指差した。
「そこから外、吹きだまりだよ。
今モンスターは湧いてないみたいだけど、誰かがでてけばモンスターだらけになるよ」
早朝だからか、そもそもの人口が少ないのか、人影はほとんど無い。
門はしっかりしてないし、なんでこんな小さな村のすぐそばに吹きだまりがあるんだろって気もする。
ウィンは険しい顔をして、門から片足を出した。
すぐに、何かのモンスターが湧いたのがわかった。
よくいる、狼タイプかな?
「ね?何の準備もしなくていいのか、聞いてみてよ」
「……わかった」




