アタシは餌じゃありません!
そのままそボールドウィンさんが泊まっている宿に部屋をとって、泊まらせてもらう事になった。
お金を払うのがボールドウィンさんになっちゃうから、なんだかたかってる気がしなくもない。
アタシ達お金持ってないもん。しょうがない。
食堂で、あの、懐かしい、できれば見たくもない、茶色のでろでろ、栄養満点、『ダー』を食べた。
後でアオイに「ホントにあれしか無いの!?」ってこっそり聞かれた。
うん。
この世界の食事、基本はあれしかないよ……。
レリオみたいに気が利く人が居なきゃ、薬剤扱ってるお店に行くとか山で何か取ってこないと……。
××××××××
アタシは、今、とってもご機嫌ナナメである。
しかも怖い。めちゃくちゃこの状況が怖い。
アタシ、ボールドウィンさん、アオイ、しんちゃんで森の中にいる。
足元はちょっとした広場みたいになってる。
平らで、地面は踏み固められてる。
その周りは森らしく背の高い木がたくさん。
アタシから見て左側5メートル位の所に小川。
小川の先、進行方向に山の斜面。
山の斜面から水が沸いてて、泉になってた。
泉の辺りは今アタシ達が立ってる辺りと違って、木が繁ってる。
木漏れ日にきらめく水面は綺麗だった。
ヌルリ。
水面が盛り上がる。
水が、意思を持ったみたいに動き出す……そしてまた、アタシたちのいる方に来る。
アタシの顔は、これ以上強張りようがないってくらいひきつってる。
もう、悲鳴もでない。
スライムはアタシを狙って動き出した。
短剣を握りしめたアオイがスライムを切りつける。
パシャァ……ン……!
スライムはただの水になる。
キラキラ光る金属をアオイが拾って、袋に入れた。
ヌルリ。
水面が盛り上がる。
水が、意思を持ったみたいに動き出す……そしてまた、アタシたちのいる方に来る。
たぶん、ううん絶対アタシ狙われてる!(ひぃ)
今度はしんちゃんが、剣をスライムに当てる。
以下省略。
怖い。
怖すぎる。
アタシは広場の中央に立ってる。
アタシのすぐ後ろにボールドウィンさん。
……万が一、他のモンスターが現れたりスライムを倒し損ねた時に備えてとかなんとか……じゃあ、アタシは村にいるべきだと思いまーす!
スライムと戦えないんだからこんなスライムが湧く泉になんて近寄っちゃいけないと思いまーす!
ヌルリ。
ヌルリ、ヌルリ。
ヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌル
「ヒッ!」
何が怖いって、たまにちっさいのが20匹位一斉に湧いてくる時。
そういうのはシュババババッ!とボールドウィンさんが一気に倒してくれる。
ときどき出てくるエビフライ……じゃなかった、黒い虎だとか、動く木だとか、そんなのもボールドウィンさんが倒してくれた。
でないとアタシの命に関わる。切実に。
で、たまに何も出てこない時間がある。
うーん……もしかして、ボールドウィンさん、剣のウデマエはブレンダン以上かもしれない。
そっかぁ、それならまぁ……うーん……それはそれで……うーん……。
たとえつよい人がいようがいまいが、怖いものは怖いです!!!!!!!!!
「おい、行くぞ」
モンスターが居ない間に、泉の近くに行ってみる。
……あのね?ボールドウィンさん?
アタシは子猫じゃないんだから、首の後ろ持って歩くの、やめよう?ね?
アオイに笑われてる……。
ここは、前に巫女が現れた場所なんだって。
その人も長く持たなかったみたいだけど。
泉を覗いてみる。あ、けっこう深い。
「『化け杉』だ!」
後ろでしんちゃんの声が聞こえた。お化け杉……?あ、あの花粉を振りまいて動く、木のモンスターだ。
素早くも強くもないから、そのくらいならボールドウィンさんがいればなんとかなるでしょ。
アタシは水中に見えるのが気になる。
あとちょっとで手が届きそうなのに。
「うららちゃん、スライムが!逃げて早く!」
今度はアオイの声。
「あと……ちょっと……」
水の中に身を乗り出して、右手を思いっきり伸ばしてたアタシの身体を支えてた、左手が滑った。
「あぶぁ」
どっっばぁーーーーん!!
予想以上に深い。
びっくりしたけど、そこまでアセらなかった。
おっきな石がゴロゴロしてて、光がキラキラしてる水中はすごーく綺麗。
さっきまでスライムがわいてた場所だとはとても思えない。
ひと振りの剣……細い剣。
レイピアってやつとは違うみたい。
さっき見えてたのはこれだったんだ。
ボールドウィンさんが言ってた巫女、さんの剣、だと思う。
ぐいっと身体を抱えられた。
あわててその剣をアタシは掴む。
痛いって!そんなに力を入れて抱えられたら!
叩きつけられるみたいにして、水からあげられた。
ぴちぴち。アタシはおさかな……。
ちょっとやさぐれた気分のせいで少し動けなかった。
またもやぐいっと身体を起こされた。
だからそんなに乱暴にしないでよっ!普通に痛いから!
「大丈夫か!?」
あんまり怖い顔で聞いてくるから、文句言うのは、今だけやめとくことにした。
つかまれてる二の腕が痛いです。
「……うん。ありがとう、ボールドウィンさん」
ありがとうでいいんだよね?この場合。
ボールドウィンさん、わざわざ飛び込んでアタシのこと助けてくれたみたいだもん。
お礼を言ったらやっと手は離してもらえた。
この人、アタシの扱いが雑というかさ……他の兄弟を見習ってほしい。アラステアさんの事は見習わなくていい。セツジツに。
ボールドウィンさんの黒髪からは、たくさんの水がぽたぽた垂れてる。
ため息をつきながら髪をかきあげる仕草は色っぽかった。
あー……この人もそれなりに整った顔だったな……て掴まれた二の腕をさすさすしながら頭のすみっこで思った。
水の流れる音がやたらと大きく聞こえて、アタシは泉に視線を移した。
聖水……て程じゃないけど、それに近い物を感じる。
もしかしてここはパワースポットみたいなものだったのかも。
水から拾った剣を鞘から抜いてみた。
「綺麗な剣……!」
アオイが歓声をあげる。アタシはしょっぱい顔になる。
……この剣、死んでる。
今のアタシにはちょうどいいかも。
これなら失礼にならない……と、思う。たぶん。きっと。
折れたりしないように、いちいち気を使わないとダメだけど……武器が何もないよりはいい。
四人で、スライムが落としてったいろいろなアレコレを拾っていたら、けっこうな量になった。
けっこう……長い間、その場にいさせられましたんもんね……アタシ……。
さっきまでの恐怖を思い出したら背筋がゾクッとした。
「大丈夫?うららちゃん、身体が濡れたから冷えちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ、アオイ。
スライム思い出して怖かっただけ!」
その間、モンスターは出てこない。
やっぱり『死んだ剣』がモンスターを呼ぶ原因になってたみたいだった。
「ボールドウィンさん、異空間魔法とか収納魔法みたいなものって無いんですか?」
しんちゃんが素材を入れた袋を置いたら、ドシャっ!て音がした。
「……そんな魔法は聞いたこと無いな」
ボールドウィンさんは軽く顎をなでた。
「レリオが使ってなかったんだから、そういう便利なのは無いと思うよ」
しんちゃんが言ってるのはゲームとかでよくある、『アイテム欄』のことだと思う。
他のゲームは知らないけど、『ソカレリル・カレィドスコォプ』ではものすごくたくさんの武器や素材を常に持ち運びながら旅をしてたんだ。
あれがあれば、重いものも簡単に運べて便利かもしれない。
「今度、その便利魔法、レリオに作れないものなのかどうか聞いてみる」
みんなで手分けして、スライムが落とした魔鉱石だとか、魔石だとかを村まで運ぶ。
正直、アタシには金属とカラフルな小石にしか見えない。でもそれなりに価値があるものだし……で、これ、どうするんだろ?
ボールドウィンさんはそれを『換金所』に持っていって、更にそのお金でいろんな物を買ってくれた。
……買ってくれた?
スライム倒したのはアタシ達みんなだから買った?
んん???
アオイとしんちゃんが使ってた、安物だった剣をそこそこのにしたり、旅装整えたり、アクセサリー買ったり。
「……なんでそんな指輪とかがいるの?」
ボールドウィンさんは自分だけじゃなくてアタシとアオイ、しんちゃんにも指輪やネックレスを渡した。
「現金はかさばる上に重い。
アクセサリーとして身に付けておけば、使いたいときに換金できるだろう」
へぇ。そういうものなんだ。




