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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
2章 ソカレリル・カレイドスコォプ
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仮契約・クーリングオフしたい(2)

レリオのフルネームを知らなかったのはショックだった。

アタシはちゃんと教えたのに。

なんでレリオの名前くらい、ちゃんと聞いておかなかったんだろ。失敗だ。


……そっか。『レリオ・コルベリ』っていうんだ。

あとでちゃんと本人の口で名乗ってもらお。


「ちなみに俺のフルネームはボールドウィン・グム・オウロ・アウルムだ」


この瞬間、アタシはものすごくいやーな予感がしてた。

何を言いだしたんだろう?て部屋の隅っこから、視線をボールドウィンさんに戻した。

アタシの頭の上にはでっかい手。


まだ、押さえ込まれたまんま。

アタシの両手はアオイがつかんだまま。


「ちょ……ちょっと……?ボールドウィンさん?アオイ、ちょっと手を離そう?」


いやな予感がする。変な感じがする。続きを言わせたくない。聞きたくない。


「俺の名前は『ボールドウィン・グム・オウロ・アウルム』だ。

鞘の名前は『花散らし』、剣の名前は『水面』、お前の本当の名前は『浦浪麗うらなみれい』……よろしくな、『うららちゃん』」


や ら れ た !


ここに、レリオがいれば。

ここに、アタシの剣があれば。


こんなにレリオから遠くて、細い糸よりも切れそうな繋がりしかない今、ほとんど絆は無いと言っても良かった。


アタシの意思と、本能は別。


ふたつの名前が書き込まれるだなんて……。


けっこう、この事態には、ヘコむ。


レリオがアタシの名前を言いふらすなんて考えにくい。それならこの人は、どうやってアタシの名前を知ったんだろ?


「どう、やって、知ったの」


ボールドウィンさんの指がアタシの唇に触れた。

アラステアさんと同じ色、琥珀色の瞳がいたずらっぽく輝いてる。


「口唇術っていうのがあってな。あの時、お前のはさっぱり読めなかったが、レリオの唇は読めた」


ヘコむぞ……?

これは、もしかして、まずいんじゃないだろうか。


『花散らし水面』の持ち主はレリオ。うん、間違いない。よかった。いやよくない。

アタシから遠すぎて……。


うわぁぁぁぁこれどうなってる状態!?

こんなことってあるの!?


××××××××


ちょっとの間アタシは呆けてた。


だって。

これ、けっこう、かなり、相当ショックだ。


レリオとの繋がりが消えてなくてよかった。


アタシの目には、レリオとつながる細い光の糸と、ボールドウィンさんと繋がる、しっかりした光が見える。

たった今繋がったこれは、距離のせいで頑丈なものになってる。


どうやったらこれ切れるんだろ……?


『絶対にこの人について行かないと!』みたいな感覚はまだない。

よかった、レリオとの繋がりのほうが今は細いけど、前に一緒にいた時間ぶん、強いものになってるのかもしれない。


『花散らし水面』の正しい持ち主はレリオ。


あんまりアタシが反応しないからって最初は心配なそぶりを見せてた3人……ていうか、しんちゃんとボールドウィンさんは今、この世界がどんなところか?みたいな話をしはじめてた。


「すみません、ボールドウィンさん、この国の名前をもう一回教えてもらえますか?」


「ここはアテル王国、王都の名前はクロウェルド」


「ソカレリル・カレィドスコォプやセイレラス、

レオリールと言った名前を聞いたことは、ありますか?」


「いや、無いな」


「……俺たちみたいな異世界人は、こっちじゃたまにいるんですか?」


「……いるにはいるんだが、すぐに死ぬ」


「死ぬ!?」


それを聞いてたアオイの顔が、青ざめた。


ボールドウィンさんがまだ少しボーッとしてたアタシを軽く小突く。扱いがヒドイ。ちょっとは聞いてるっての。


「そもそもコイツが異状なんだ。

今までの巫女といえば、最初の数日はともかく、すぐに青白い顔になっていく。そして数ヵ月もすれば眠るように死ぬ」


つつかれて痛い!ていう文句は飲み込んだ。

アタシ以外の巫女についての話を聞くのは初めて。だから、アタシもちょっと聞きたかった。


「それなのに、コイツは半年近くも元気であちこち走り回り、一回死にかけたところを復活して、この俺が今後の為にと話を聞こうとしたら、姿を消して帰ってしまった。

……かと思えばまたこうして表れる」


低い声を聞きながら、アタシはボフェティさんが泣いてたのを思いだした。


正直、他の巫女達と違うとか、そんなこと言われてもなぁ……。あのときは帰る事しか頭に無かったもんなぁ……。


でも、今なら何となく『巫女がすぐに死ぬ』理由はわかる。アタシ達が生きていくために必要な事なんて、ほんとうに小さな約束だけだ。


「何人もの巫女を保護し、神殿に匿ってきた。

いろいろ手を尽くしているのに、皆結局消えていってしまう。

……なのにコイツはこうしてピンピンしている」


悪役感満点の笑顔で、ボールドウィンさんはアタシを見下ろした。


「レリオの所まで送ってやるから、せいぜい神殿の役に立ってもらうぞ」


「……レリオに、会えたらね……」


としか、言えない。


だから!アタシは今凹んでるまっさいちゅうなの!

あり得ない事が起きてて混乱中なの!


「それで、こいつらはなんなんだ?」


なんなんだと言われましても、同級生です。


ボールドウィンさんは首をかしげた。


「お前みたいな巫女も初めてだが、巫女じゃない異世界人というのは聞いたことがない。

どういう事だ」


だから……どうって言われても……。


「レリオは……ああ見えて雑だから……」


掃除した、と言いながら散らかりまくりホコリ残りまくりの小屋。

酔って、脱ぎ散らかした服。

お屋敷の書斎は棚がぐちゃぐちゃだった。


レリオはいろいろ雑。けっこういい加減。


懐かしいのと、呆れるのとがぐちゃぐちゃに混じってため息が出る。


「人より魔力があるぶん、何でもかんでも力押ししすぎるんだよ。

アラステアさんとかアラーナさんだったら丁寧だからこんなことは起きなかったと思う」


アラステアさんの魔法の冠。あれを通じて感じた魔力。

ドラゴンと戦ったときのアラーナさんの攻撃魔法。


どちらも、とても滑らかで、丁寧な感じがした。

今なら言える。


レリオってすっごく雑!!!


アタシはそのへんにあった紙に、小さくマルをいくつか書いた。

マルは、アタシと、アオイと、しんちゃんのつもり。


「アタシを呼び出すのに、アラステアさんとかだったら丁寧に線引きすると思うの」


マルのうちのひとつを手で切り取る。他のマルに触れないように。

うん。あの二人なら、きっとこうなってた。


まるの一個だけが切り抜かれた紙をひろげる。

小さな穴。きっとこうやって、小さく切り取られたアタシだけが、こっちに来てたと思う。


「持ってて。……でも、レリオのはこんな……」


しんちゃんに頼んでピン、と張るように紙を持ってもらう。そこに、アタシは勢いよく手を突っ込む。


当然、マルの書いてあった所を含めて大きな穴が空いた。ていうかビリビリ。

思わず遠くを見る目になっちゃう。


「つまり、俺たちは単純に巻き込まれただけってことか?うららちゃんの異世界転移に?」


しんちゃんがビリビリになった紙を見て言う。

アタシはうなづいた。

わかってもらったみたいで助かる。


「この次は……もっと丁寧にやらせる……アオイとしんちゃんは心配しなくていいよ。

レリオに会えればちゃんと帰してあげられる。さっきボールドウィンさんが言ってたような事、たとえば消えたら死ぬとか?

ふたりにはあり得ないから……」


はぁぁぁぁ……。


まさか、ここでこんな謎知識を披露することになるなんて。


「ふたりにはって……うららちゃんは、大丈夫なの?」


アオイが言う。心配してくれてるのがわかる。


あ、うん、その心配はさっきまでは確かにあったんだけどね。もう、問題ない。


「大丈夫。しばらくは……っていうか、レリオに会えるまではボールドウィンさんと行動してればきっと平気……」


はぁぁぁぁ……。


アタシにも誰か、いろいろ教えてくれる人がいたら教えてもらいたい……。

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