仮契約・クーリングオフしたい(1)
「自己紹介といこうか。俺はボールドウィン。
このアテル王国の王族で、神殿の管理をやってる。
今はコイツの前の巫女が現れた森を調べていた」
この宿屋、部屋があんまり広くない。
机があって、椅子があって、ベッドがあるだけの部屋だった。
ボールドウィンさんは椅子の背を抱え込むみたいにして座ってる。途中、顎を動かしてアタシを指してた。
コイツ=アタシって言いたいみたい。
アラステアさんのお兄さんにしては、乱暴な仕草。でもブレンダンのお兄さんとして考えたら……あー……納得いっちゃう。
ただ、品がある。
なんでこんな安そうな宿に一人でいるのかはわからない。
けど、ブレンダンも王族のくせに、レリオなんかよりもよっぽど自由に過ごしてる感じがあったしなぁ。
ボールドウィンさんはアオイを見た。
「アオイです。うららちゃんの友達で、今のところ彼氏候補はいるんだけどフリーでっす!」
そこでアオイはビシッと決めポーズ。
やだ、アオイ、かっこいい!
アタシはアオイに拍手した。アオイはどや顔で胸を張る。
隣でしんちゃんがドン引きしてるのがよーくわかった。
「伸弥です。ふたりとは同級生」
しんちゃんはそこで少し考えてからつけ足した。
「あと、うら……ら……ちゃんとは家が隣同士」
そうだよねー、今までアタシの事、『浦浪』って呼んでたんだもんねー。
小さい時は『レイちゃん』て呼ばれてたけど、小学生の途中から『浦浪』って呼ばれるようになってた。
普通、そうだよね。アタシはまだ『しんちゃん』て呼んじゃうけどさ。
ゲーム内ではゲームのアバター?だっけ?その名前にもしてるから、うららちゃんて呼んでくれてたけど、声に出して言うのは初めてだもんね。
ボールドウィンさんが今度はアタシを見る。
ん?アタシ、自己紹介とかいらなくない?
「ああ、お前もだ。上がってきてる資料には書いてなかったことを言ってもらいたいものだな」
この人……話し方がいちいち上から目線というか……。目付きホントに悪いなぁ……。
(資料って、アラステアさんあたりが作らせたのかな)
「うららちゃんです。普通の女子高生です」
終わり!……にしたかったです。
ボールドウィンさん椅子を動かした。ずいっと顔を近づけてきた。
「……で?」
あう……。悪い目付きが更に悪く……。
「えと……カレシハイマセン???」
「違う。巫女としての自己紹介だ」
巫女として……?アタシの能力ってこと?
何を話せば良いと言うんだろう!?
今、アタシができると思われること?かな?
・アタシの剣、『花散らし水面』を手元に引き寄せられます!でも遠いとムリです
・『命令』が、浮かんできます、それができるかどうかはわかりません、でもできないとダメージくらいます
・レリオの身に危険が迫っているかわかるかもしれない
・レリオの大量の魔力+アタシの血液で、一度に大量の武器を操れます
・ただし、スライムには負けます
アタシの能力ってこんなものだと思う。
でもこの辺はブレンダンとかアラーナさんとかも知ってることだから、さっき言ってた『資料』とやらにも載ってるはず。
・あと、レリオがどこにいるのかだいたいの方角がわかります
これが最近できるようになったことくらい。
これをどう言ったものかなぁ……。
このまま言って伝わる……?
なんか、レリオの場所だけわかるなんて、なんだかストーカーっぽく聞こえない?
やだ、アタシは変態じゃないもん(たぶん)。
それにレリオの場合がわかるって言っても、もしかしたら単純に『花散らし水面』の場所がわかってるだけかもだし……。
アタシは、目には見えない細い糸を軽くつまんだ。
細いけど以外と丈夫で、引っ張っても切れそうにない。
壁とか何かにジャマされることもない。
この、糸からレリオの魔力を感じるけど、この先にあるのはレリオが預かってくれてる『花散らし水面』?
それともレリオ?
「……あの、ところで、レリオって元気ですか?」
これ以上悪くなりようが無いって思ってたボールドウィンさんの目付き……ていうか顔が、より怖いものになった。
「そんなことよりお前の話次第で他の巫女達の命を守れるかもしれな」
「はあ!?」
ボールドウィンさんの言葉の途中で、アタシはつい、大きな声を出しちゃう。
「そんなことってなんですか!?
レリオの無事を確認するほうが大事でしょう!?」
その勢いのままアタシは立ち上がった。
ボールドウィンさんはアタシの勢いに驚いたみたい。
「アオイ、しんちゃん、行こっ!早くレリオの所に行かないと」
言いながら、どうやったら最速でレリオの所に行けるのか考える。
なんなら……なんなら、村の人に頼んで、ふたりにはここで待っててもらって、アタシだけ先にレリオの所に行ってもいい。
そのあとレリオと一緒にここまで来て、それからふたりをあっちに帰せばモンスターに会わないから安全かも。
うん。それがいい。
街道無視して直線で行けば、途中で『花散らし水面』を呼び寄せられる。
ちょっとムリすれば……今なら……アタシひとりだけなら……。走って……。
「うららちゃん?どうしたの?ちょっと落ち着いてよ。」
アオイがアタシを見上げてた。アオイもびっくりしてる。
レリオの所に行きたい。レリオに会いたい。
「うららちゃん?」
アオイはアタシの両手を引っ張った。とりあえず座れって言いたいみたい。
「だってアタシはレリオの……。レリオに呼び出された。レリオが……アタシを……」
《レリオの所に行け》
なつかしい命令が出てきた。これが出てるならさっさと行ける!
「落ち着け」
頭をぐいっと押されて、アタシは無理矢理座らされた。
首が!首がぁぁぁ!折れる!
アタシは頭に手を乗っけたまんまのボールドウィンさんをにらんだ。
両手はアオイにつかまれたまんまだったりする。
「俺が王都を出るとき、コルベリは無事だった。そんなに心配はいらないと思うが?」
コルベリ??
コルベリ、コルベリ……聞いたことない名前だ。
この人は 、誰の話をしてるんだろう?
「お前がそれだけ執着する賢者は、お前程度が守ってやらなくちゃならないほど、そんなに弱い奴なのか」
なんかムカつく言い方。賢者ってたぶん、レリオだよね。
バカにしてるみたいに聞こえるんだけど。
「レリオは弱くないもん」
アタシはほっぺたをふくらませた。
レリオは強い。攻撃魔法は微妙だけど、剣のウデマエは凄いんだから。
そう、アタシなんかが守れるような相手じゃない。
「あと、コルベリってダレ?知らない名前」
「お前が騒いでる賢者の家名、コルベリだろ?」
「あ、そうなんだ」
知らなかった!
えーっと……?
なんでみんな、だまっちゃったかな?
横目でアオイを見る。あ、これは『面白そうだから、レリオという人物についてもっと詳しく話せ』だ。
しんちゃんは……窓の外を見てる。
幼馴染みのクセに他人のフリ!?
「あれだけ一緒にいてそんなことも知らなかったのか」
ボールドウィンさんも、ものすごく間抜けな呆れ顔をしてた。
「だって」
部屋のすみっこに向けて視線を反らした。
剥がれかかった壁紙と、少し傷んだ床板。
あのへん踏んだら、ギシギシ言いそう。
「そんな話をしてるヒマは無かったもん」
けっこういろんな話はしてた。けど、レリオの家族の事とかは聞いてなかったんだって、やっと気がついた。
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