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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
2章 ソカレリル・カレイドスコォプ
32/75

ここはどこ?アタシは……

アタシの足元に穴が開いた。


落ちる!

とっさにブレンダンの手首をつかむ……のには失敗した。


「ブレンダン!来て!」


ブレンダンも穴に飛び込んでくる。

手を繋いでくれなきゃ、はぐれちゃう。


「うららちゃん!?」


アタシのバックを掴むアオイ……と手を繋いでたしんちゃんも一緒に穴に落ちちゃった。


「あーぁあ。巻き込んじゃった……?」


この穴は長いよ、下までいくの、時間かかるよ。


「ブレンダン……?」


繋ごうとして伸ばした手は、スカッと空振り。

どんどんブレンダンの姿が薄くなってっちゃった。


ブレンダンなら大丈夫……かな?なんか陽気に笑ってたし。手を振ってたし。


落ちてるって感覚はあるけど、周りは暗い。アタシ達以外には何にも見えない。


「うららちゃん……これ、何!?」


アオイの声はほとんど悲鳴だった。


「うん。今ね。異世界みたいなとこに落っこってるとこ」


「イセカイ!?」


「ずいぶん落ち着いてるな!?」


アオイ、アタシ、しんちゃんの3人で手を繋いだ。

思ってたより自由がきく。


「アタシ、ここ通るのこれで3回目だし。

……ね、向こうについたら、絶対にフルネーム名乗っちゃダメだよ」


××××××××


キレイな着地じゃなかった。


……スカートの中身が誰にも見られていませんように!


立ち上がるときに、アタシの格好がレリオに揃えてもらった旅装なことに気がつく。


「レリオ!?いるの?」


期待したけどレリオの魔力はものすごく遠くだ。ほとんどかすかにしか感じられない。

……レリオは近くにいない。


ちなみにアタシの剣、『花散らし水面』も無かった。

いちおう、手元に引っ張れないか試したけど今のアタシじゃ遠すぎて無理。

他にも指輪とペンダントがない。

レリオのにお……じゃなくて魔力を感じられるアイテムが手元に無いのはちょっとさみしかった。


服と靴、マントがあるからまだいい方なのかもってあきらめよう!遠いけど繋がりはまだあるんだし!


いちおう、持ちやすそうな太めの木の枝を装備した。

装備って単語が出てくる辺り、ゲームに毒されてるって気がする。


そうだ、アオイとしんちゃん!


あわてて辺りを見回した。


けっこう開けた感じの林だった。


……めまいがしそう。


「アオイー?しんちゃーん?」


モンスターの気配は無いけど……大声出して、遠くにいるモンスターまで来ちゃったら困るしなぁ。


どっかで見たことのあるような景色だけど、林なんてどこも似たり寄ったりだろうし。


「キャァァァァァ!!」


アオイの悲鳴だ。近い。良かった!


そっちに走っていったらすぐにアオイと、その前に立つしんちゃんを見つけられた。


前に見たことあるモンスターがいる。


黒くて、つやつやした毛並みのおっきな虎。


エビかいっ!


全力でつっこみたい。ほら、ブラックタイガー……。


走って、思いっきり、おもいっっっっきりちからを込めて、黒い虎のわき腹に飛び蹴りを入れた。


アタシの手元に『花散らし水面』が無いって事は、アタシの攻撃力も下がってるハズ。


続けてこぶしと、ひじと、ひざと、とにかくどんどん攻撃してく。

下手なテッポー数うちゃ当たる!ってやつだ。


高く飛び上がって、膝をおもいっっっっきり腹に食い込ませた。


パシャァ……ン………!


あの音がして、虎が消えた。

いつもより時間かかったし、けっこう疲れた。


「うらら……ちゃん……?」


大きく深呼吸して、息を整え……られるかっ!


「うららちゃん?え?」


「うわぁぁばばばばばばだだだだ」


今度はアタシの天敵、スライムが現れた!


アオイとしんちゃんの手を掴んで、アタシは全力で逃げる。


「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃぁぁひぃぃ!」


「うららちゃん、アレとは戦えないのかよ!?」


「むむむむむむむむむむむむりぃぁぁぁ!」


チラッと、黒い人影が見えた気がする。


パシャァ……ン……!


「ぐぇ」


問・人が一生懸命走ってます。後ろから襟首掴まれたらどうなるでしょうか?


答・首が締まって変な声が出たり、後ろに倒れたりします。危険です!


「うららちゃん!?」


アオイの悲鳴ってかわいいなぁ。なんて頭のすみっこで考えてみてたりする。


ちなみにアタシは、首が締まって後ろに倒れた所を後ろから抱きとめられました、まる。


頭を思いっきりぶつけなかったから良かったけど!もう少し丁寧に扱ってくれてもいいんじゃないかな!?


「レリオ……?」


思わずつぶっちゃった目を、急いで開ける。


ここはモンスターの領域で、今は気配を感じないけどいつまたモンスターに襲われるのかなんてわからないんだもん。目を閉じてる場合じゃない。


「悪かったな、レリオじゃなくて」


すっごく目付きの悪い顔が、顔の上、すぐ近くにあった。


「………………」


気まずい……。


この人、前に神殿で会った目付きの悪い人だ。


名前は知らない。


「巫女……うらら……とか呼ばれてたか……?」


目付きの悪い人の目付きが更に悪くなる。ていうかもう怖いレベル。


「レリオって誰!?」


見上げてた顔を前に戻したら、きらきらと……ううん、『爛々と』って表現は今こういう時に使う表現なんだと思う。そんな目付きのアオイが倒れかけてるアタシを起こしてくれた。


お腹が空いてる肉食動物の目の前にいる気分……アオイも怖いって。


「う……」


に……逃げられる気がしない……。


さっきアタシの背中を支えてた目付きの悪い人も、ニヤニヤ笑いを浮かべてアタシの横に来た。


たすけてしんちゃん、助けて。切実に。


「レリオって、だあれ?彼氏?」


「チガウ、カレシジャナイ」


アタシの恐怖、わかっていただけるかな!?


「ふうん?じゃあ、このイケメンはどなた?」


アオイは目付きの悪い人を指差しながら首をかしげる。


「シリマセン」


うそじゃないもん!名前も知らないもん!


「……じゃ、レリオって誰?」


レリオは……『花散らし水面』の持ち主。って言ってもわかんないだろうなぁ。どう説明したらいいんだ、一体。


「ぅあ……と……恩人?かな?」


「恩人?」


アオイはその答えが気に入らなかったみたいだ。


「で、そのレリオって人は男?イケメン?どんな人?」


しんちゃんがそこにいるのに、アオイ、いいのかなぁ……。


「ど ん な 人 !?」


アオイはアタシがレリオに対して恋してるっぽい発言させて、いじり倒したいんだろうなぁ……。


「女の子にはモテてるみたいだったよ」


アオイが喜びそうな答えを試しに言ってみる。

アオイの周りから花が舞ってるように見える……うん、幻覚、その花はマボロシ。


「でもアタシは好みじゃない。友達としては好きだけど男の子としてみたら無しかな!」


良い笑顔で言ってやったら、アオイはなんとか諦めてくれた。


「なんだ。つまーんなーいのー。じゃ、この人は?」


「しらない人」


アタシとアオイは目付きの悪い人に顔を向けた。


で、あなた、ダレ?


その人はニヤニヤ笑いを消して、笑みを深めた。ほんのちょっぴり極悪そうな笑顔になる。


「そうか。あの時は名前を言ってなかったのか」


ここでアオイの肘がアタシの腹にクリーンヒット。痛い。


「前に会ってんじゃん」


「だってホントにちらっとしか……名前もどこの誰かもわかんなかったし……!」


細身だけど、剣士タイプって感じ、レリオみたいに筋肉はしっかりついてそう。


背はけっこう……ううん、かなり高い。ブレンダンくらいはあるかも。


「俺はボールドウィン。アラステアの腹違いの兄だ。……こう言えばわかりやすいか?」


アラステアさんの……てことはブレンダンとアラーナさんのお兄ちゃんって事だ!


「……あれ?でもアラステアさんが王位継承権第一位ってブレンダンに聞いてたけど……」


「待って待って待って待って待って待って」


アオイが少し壊れた。


「王位継承権第一位のお兄さんって……この人王子様!?あの、イベント会場で会ったあのイケメンも!?」


「うん」


ボールドウィンさんも頷いてた。


「アラステアの母親の方が、身分が高いんだ。俺の順番は、アラーナのすぐ下になる」


そう言われてからじーっと見てたら、アラステアさんやブレンダンと少し似てる所があるような気がしてきた。


アラステアさんはもっと美しいお顔だちしてる。ブレンダンは黙ってれば『精悍な』っていう感じ。アラーナさんには……あんまり似てないなぁ。

アラーナさんはお母さん似なのかも。

あ、でも凛々しい眉毛が一緒の形!


ボールドウィンさんは、ざっくり言うなら『秀才系』。


目付き悪いけど、『凛々しい』『涼やかな』て言い換える事はできそうだ。


「……なぁ、お前、ホントにうららちゃんか?」


え?


今さらながら、ものすごく警戒心丸出しの言い方をしたのは、しんちゃんだった。


「そう言えば……」


え?え?


首をかしげながら、アオイがアタシから一歩離れた。


「お前達、知り合いなんじゃないのか?」


ボールドウィンさん……はそれを面白そうに見てる。この人、性格悪そう。


「そうなんですけど……違和感が……」


アオイは不思議そうに、でもゆっくりアタシから離れていく。


「モンスターがいるファンタジー世界なら、気がついたら知り合いが入れ替わってるって事、あり得ないか?」


しんちゃんは険しい顔でアタシから目を離さない。


「アタシはホンモノ!」


パシャリ、と水……あ、これ、聖水だ。

聖水が顔にかけられた。かけてきた人はボールドウィンさん。

量はちょっぴりだったからすぐ乾くだろうけど……何すんのよ。つい、にらみつけちゃう。


「モンスターなら、聖水を浴びれば多少ダメージを負う筈だ。こいつはモンスターじゃないから安心しろ」


その通り!アタシはモンスターじゃないもん。むしろアタシに聖水は回復アイテム!


ボールドウィンさんは、ビンから手のひらに聖水を出して、それからスライムにかけた。

スライムはあきらかに苦しみだす。……ていうかスライムが寄ってきてたことに気づけなかった。

やだ、やっぱりスライムって怖い。


「ちょうどいい。その手に持ってる木の枝でそのスライムを攻撃してみろよ」


「え、やだ」


だってスライム、怖いもん。アタシ、スライムとは戦えないもん。


パシャァ……ン!


おなじみのあの音。これだけ一ヶ所にじっとしてたからモンスターが寄ってきてたんだ。

木の枝を持ったしんちゃんとアオイがばっしばっしとスライムを叩いては消していってた。


「いいからやれ」


ひぃ。ボールドウィンさんの顔が怖い。


アタシは木の枝で思いっきりスライムを叩く。


ばいーん。ノーダメージ!


スライムはぶるるん、と揺れただけ。


「でぇぁぁうぁすぅぅよぉぉねぇぇぇあぁやだぁぁ!!」


目の前でスライムが揺れて、広がって、喰われる!


パシャァ……ン!


アタシがスライムに取り込まれる直前、ボールドウィンさんの剣がスライムを消滅させた。


怖かった……。


「スライムは素材を落とす。急いで拾え、安全な場所に移動だ!」


完全に腰が抜けたアタシは、ボールドウィンさんの肩に担がれて運ばれた……この感じは前にも……そうだ、ブレンダンにこうやって運ばれたんだった!!


××××××××


「巫女はスライムと戦えない。つまりコイツは巫女、うららで間違いない」


小さな村の、あんまり綺麗とは言えない宿屋。

その一室にアタシたちは来てた。


「お前達は『異世界より来たりし巫女』では無いようだな」


暖かいお茶は、宿屋のおかみさんがマグカップに入れて運んできてくれた。


マグカップにボールドウィンさんは聖水を1滴ずつ垂らしてからアタシ達にくれる。


「それ、なんですか?」


アタシのにだけ1滴追加してくれた。ラッキィ!ベッドに座らさせてもらってたアタシは、立ったまんまのアオイを見上げた。


正確には、ベッドの上に放り投げられたんだけど。

ベッドが固いからぶつけたところが地味に痛い。


「この人が入れたのは聖水。回復アイテムみたいなものだよ」


お茶を飲んだら体力が回復していくのを感じる。


「聖水を飲むと体力が回復することを見つけたのは、こいつだ」


ボールドウィンさんはアタシを顎で示した。


ちょっとムッとしたけど、まぁいいや。聖水くれたんだし。


この聖水からはアラーナさんの気配を感じる。

兄妹なら聖水をつくってもらうことがあるのかもしれない。


「ふたりとも、座らない?」


アタシはベッドをポンポンと叩いた。ボールドウィンさんは椅子に座っちゃってる。


アオイもしんちゃんも困ってた。

困るか、困るよね。


異世界にこれから行くよ!とは言ったけど、ホントに来ちゃったら戸惑うだろう。


あのときアタシがいろいろ教えてくれるレリオに会えたのはホントに運が良かっただけなんだろうな……。


ぼすっと大きな音を立てて、アオイがアタシの隣に座った。


「うららちゃん、なんでうららちゃんだけ、見た目が変わってるの?」


変わってる?


部屋にあった鏡を見ても、そこにはいつものアタシがいた。


じーっとアオイがアタシの顔や手足を観察する。


「変わってるっていうか……変わってないけどさ。美少女オーラが出てる?」


「え、ウソ、アタシ美少女オーラ出てる?」


「出てる、出てるっ!」


期待してしんちゃんを見る。

しんちゃんは顎に手を当てて、考えてた。


「モンスターとの入れ替わりじゃないなら、もしかしてスキルの『チャーム』じゃないかなって思うんだ」


「チャーム?」


「ソカレリル・カレィドスコォプにあっただろ。セイレラスが持ってた『魅了』のスキルだよ。

レオリールは全ステータス異常拒否だからうららちゃんは覚えてないのかもだけど……『魅了』を使うと味方は攻撃力10%上昇、敵は1ターン混乱」


しんちゃんはアタシの近くに寄ってきて、鼻を鳴らす。


「常にフェロモンか、電波みたいのが出てて、そのせいで普段より美少女に見えるんじゃないかな」


それって暗にアタシの元々は大したこと無い顔って言われてるような気がするんだけど?


しんちゃんもベッドに座った。


「何にせよ、俺達はラッキーだ。

異世界に来ても帰る方法は最初からわかってる。うららちゃんはあっちでも体力づくりや戦う練習してたから、全く戦えない訳じゃない。何より、異世界に知り合いがいる」


「ほう……」


ナチュラルに『ほう……』て言う人を今、生まれて初めて見た。


「うららは、こっちにまた来るつもりでいたのか。そしてあちらにまた帰る予定だと」


ボールドウィンさんからまた悪役オーラが出てる。

うん、悪役オーラはアラステアさんからも出てたけど。

やっぱ兄妹だ。

あの兄妹のなかでアラーナさんだけが天使に思える……。


ブレンダン?うん、実はいまだに怖いよ。

いきなり担ぎ上げられて誘拐されたのかと思った、あの恐怖は簡単に消えない。


「帰るよ。レリオに会えたら用事無いもん」


「俺は神殿の為にいろいろ聞いておきたいんだがな」


ちょっと考えてみる。

あれこれ話して良いのかな?

弱点を晒す事にならない?


でも、アタシ以外の『巫女』の為になるかもしれないんだよね、アタシが知ってるいくつかの事は。


「……レリオと相談して、話せる事は教えてもいいけど」


そうだ。しっかり忘れてた。これは確認しといた方がいい。


「ブレンダンは、近くに居なかったよね?」



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