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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
3/75

旅の基本は歩くこと

街道にだって弱いモンスターは出る。

それを退治しながらの旅だ。


俺はモンスターが完全に姿を消した事を確認して、目にかかる前髪を払いのけた。


「スゴい、強いんだね!」


輝く笑顔の少女。


「大したことないよ。急ぐぞ、夜になっちゃうとまずい」


うららちゃんは、歩くのが遅い。

どうやらこれで一生懸命らしいけど、このままじゃ安全な次の村には夜までにたどり着けそうにない。


しかも、どんどんペースが遅くなってる。


どこかで夜営できそうな場所を探さないとな……。


どんな所で育ってきたのか、うららちゃんはモンスターを見たことが無いようだった。


「お前さ」


「うららちゃんて呼んで」


面倒くさい女。


「うららちゃんは、どんな所から来たんだ?」


「けさ話したの、聞いて無かったの……?」


疲れているのか、声に今朝程の元気が無い。


「アタシがいたのは東京で、公園を通ろうとしてつまづいたら知らない森にいたの」


「トウキョウってどこだ?」


知らない村の名前だ。

うららちゃんは知らないの?とでも言いたげに大きなため息をついた。


「……日本だよ。日本の首都」


ニホンなんて地名を俺は知らない。

この国の首都は王都クロウェルドだけで、異国の首都にも『ニホン』だとか『トウキョウ』なんて聞いたこともない。


「で……そのトウキョウって村に」


「東京はせめて街って言ってよ。すごくたくさんの人が住んでて、おっきな建物のたくさんある、大きな街なんだから」


そんなに大きな街、やはり王都クロウェルドしか俺には心当たりが無い。いや、むこうの大陸にある国の首都、メラーテルにもかなり大きな街だった。

……メラーテルから来たのか?


「海を渡ってきたの?」


「わかんない。公園のマンホールにつまづいて、あ、転ぶ!って思ったらあの森にいたんだもん」


さりげなく上目遣いでこっちを見るのをやめてほしい。


文献で見た『異世界』ってヤツかもしれない。

それとも異国から来た大嘘つき……って可能性も捨てきれない。


「その、トウキョウではモンスターは出ないの?」


「ねぇ、モンスターってなんで消えるの?」


俺は肩をすくめた。

あんまり当たり前のことを聞かないで欲しい。


「そういうものだから、かな」


「ねぇ、モンスターって何?この世界には普通の動物はいないの?」


おかしな質問だと思って俺は笑う。


「モンスターはモンスターだし、普通の動物は普通の動物だよ」


俺の答えに、うららちゃんは納得がいってないようだった。


「うららちゃん、この辺で今夜は休もうか」


「野原じゃん!」


俺が野営するのによさそうだと思った、だだっぴろい草原にうららちゃんの声が響く。


「テントは?ベッドも寝袋も無いじゃん、どうすんの?」


「テントなんていらない。荷物になるでしょ?ほら、そこに小川があるよ。水を汲んでこよ?」


夜営をしたことがないのか……。

うららちゃんはお嬢様育ちなのかもしれない。まぁ、大きな街に住んでいて、そこから一歩も出たことがないのなら、ありえなくもない。


近くに綺麗な水があって、見晴らしが良い。

匂いのする木が数本生えていて、焚き火の後がある。

ここは効率重視、スピード重視の旅人たちによく使われている夜営地らしかった。


「ねぇ……おふろなんて……もちろんないの?」


「宿に泊まれたらね」


うららちゃんは大きなため息をついた。


「着替えは?お洗濯は?」


「無い。宿に着けたらいろいろできるけど、旅ってそういうもんなんだ」


「キャンプ場だって温泉くらいあるのに……。あ、ねぇ、薪とか森で拾ったりするの?」


「しないよ」


俺は腰につけていたランプを、地面に置く。

小さいけれど照明としてはこれで十分、蓋を組み換えればふたりぶんのお茶を入れるためにお湯だって沸かせる便利グッズだ。


「小川でお魚捕まえたりはするの?」


「しない。……カップ出して」


魚なんて捕まえてどうするつもりなんだ?

俺は腰につけてた袋から、カップに食事の粉を出して、お湯を入れる。


「はい」


「ねぇ……食事って、いつもこれなの?」


カップを見ていたうららちゃんが、上目遣いで俺を見る。なんだか含みのある言い方だった。


「そうだけど?」


うららちゃんはがっかりしたみたいに、盛大なため息をつく。まさにがっくり、という表現がぴったりだ。


「文句はいえないもんなぁ……」


そう言いながら、空を仰いでいた。

がっかりしているうららちゃんには申し訳ないけど、これ以外にどんな食事があるっていうんだろう。

俺はスプーンで食事を口に運ぶ。不満があったみたいだけど、うららちゃんは輝く笑顔でごちそうさまと言って、ふたりぶんの食器を小川で洗ってくれた。


その間に俺は夜営場所に結界を張る。


夜は寝るに限る。

何人もで組んで旅をしているグループなんかだと、交代で夜営をするらしい。でも俺は夜は寝ていたい派だ。


気がつけばもう、辺りは大分暗くなってきていた。


「何やってるのー?」


食器を洗うだけにしてはやたらと時間がかかっていた、うららちゃんがやっと戻ってきた。


鳴子なるこを設置してる」


「なるこ?何?」


「これ」


四ヶ所に杭を立て、紐を張ってある。


「もしも寝てる間にモンスターや獣が現れたら、起こしてくれる」


『すごーい!』と言ってもらえるかと思えば、うららちゃんにこれの凄さはわかってもらえなかった。


「起こしてくれるだけなの?」


「更に鳴子の付属効果で外側と内側に二重に結界を張ってくれる」


どうだ!


「それって……凄いの?」


「凄いんだよ。これがあれば、かなりの安全を保障されるんだから」


うららちゃんはふぅん、とわかったんだか、わからなかったんだかよくわからない返事をしただけだった。その間に俺は荷物袋から敷物を引っ張り出して、その上に寝転がる。

うららちゃんも隣に寝転がった。


「わぁ……!すごい!きれいな星空!」


うららちゃんはやたらと感動してるけど、俺には当たり前の星空が広がっていた。……まぁ、綺麗な夜空だよな、うん。俺は今まであんまり気にしたことなかったけど。


「マント、体によく巻き付けとけよ」


「うん」


こつん、と体が触れた。

すげー良い匂いがするとか思ってない。


子供もびっくりの早さで、うららちゃんは眠っていた。





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