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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
28/75

もしかして幽閉生活

少女を体内に納めたスライムは、見たことが無いほど巨大に膨れ上がった。

それを切り倒したのは美しい青年。


賢者、レリオ。


大がかりな術を使ったばかりで、相当疲弊していたのだろう。

彼は少女の無事を確認する前に倒れ込んでしまった。


イザボーは声を張り上げた。


「誰か!!ありったけの聖水を持ってきて!それと馬車の手配を!巫女様を神殿にお連れします!!」


ユークが手を挙げた。


「俺の雇い主に聞いてきますよ。俺たち、うららさんとは本当に知り合いなんだ」


××××××××


「よぉ、レリオ。起きたか」


そこは宿屋の、3人で泊まっていた部屋だった。

魔力があまり回復してない。

だるさと熱っぽさ、そして酷い痛みを覚えていた。


「俺は、どのくらい寝てた?」


声がかすれる。

水が欲しい。


ブレンダンは熱心に剣の手入れをしていた。


「三時間てとこだろ」


だとすると今は夕方か。どうりで薄暗い訳だ。

そうだ……部屋にうららの姿がない。


「うららは?」


今、うららに持たせたアイテムから位置を捜索することは困難だった。


ブレンダンの肩がびくりと揺れた。妙な間が、あいた。

スライムは倒した。

ただ、直後に俺も気を失ってしまった。その後のことがわからない。


「……うららちゃんは、神殿に連れていかれたらしい」


……神殿。

異世界より来たりし巫女がいるとされている場所。


「ボフェティとかいう、神殿から来た治療役の女が、どっかの商人の馬車でうららちゃんを連れてった」


うららは、大量の武器を魔法か何かの力で操り、モンスターを一気に退治してた。古の巫女が行った奇跡と一緒だ。

『異世界より来たりし巫女』であるとバレたのなら、それがきっかけだろう。


「柵が出来上がったばっかだったから、お前を動かしていいかの判断がつかなかった。

……俺はお前の護衛が今回の役目だから放っておくわけにはいかねぇし」


ブレンダンは剣の様子を明かりにかざした。

それから腰に帯剣する。


「……大丈夫だな?」


身を起こせばひどい目眩がした。

これが二日酔いならどれだけ良かったか。


「ああ。頼む。先に行っててくれ」


ちょうど俺が『くれ』と言ったところにノックの音が被さった。

ブレンダンが用心しながら戸を開ける。


「おひさしぶりです、レリオさん」


「アルマンさん……」


部屋に来たのはフランツさんの息子のアルマンで、こいつもうららに気がある素振りを見せてた事、俺は気付いてるぞ?


うららは全くそんな事にも気づいてないらしいけど。

俺がどう思ってるのかも気づいてるのかどうか怪しいとたまに思うけどな!


……くらっときた。寝たい。


「レリオさん……様ってお呼びしないといけませんね」


アルマンは頭を下げてきた。


「賢者様とは知りませんで、数々の失礼をお詫びします」


そうやって謝ったところで、俺とうららにそれぞれ嘘をついて、うららだけ連れていこうとしたこと、俺は忘れないぞー?


「それで、うらら様……巫女様のことなんですが」


アルマンは従順そうな態度だった。

一旦言葉を切って俺の顔色を伺う辺りは油断出来ないというかなんというか。


「巫女様はうちの馬車で無事に神殿に到着したとユークから連絡がありました。

その、護衛もうちでさせてもらいました」


だんだんと怒りがこみあげてくる。


俺が気を失わなければ。

ブレンダンが俺じゃなく、うららについて行ってくれていれば。


「それで、護衛は巫女様と店に必要なんでご用意できかねますけど、馬か馬車を、俺が手配します。今すぐ行けますけど……どうしますか?」


「馬車で頼む」


速答したのはブレンダンだった。

それからはっとしたように振り返る。


「おい、柵と灯台はレリオがいなくても大丈夫なんだろうな?」


神殿にいる巫女は幽閉されているらしい、という噂もある。

すぐにでも、うららの無事を確認したかった。


アルマンが、うららを連れていくことに反対してくれていれば。


××××××××


あーーーーーーーーー……気持ちいい。


ゆらゆら揺れてる。


……揺れてる?


ぴしゃり、ぱしゃり、ちゃぷん。


水の音が聞こえる。


水の音が聞こえる……?なんで?


アタシは目を開けた。

薄暗い部屋だった。

アタシは浅い、お風呂みたいな池みたいなのに浸かったまんま寝てた。


で、

ここ、


……どこ?


いつの間にか着替えさせられてるし。

部屋に飾り気は無い。

なんだか白くてカクカクした部屋だった。


アタシが浸かってた水、聖水だ。


レリオのじゃないってわかる。

だって気持ちいいけど、充電されていくような、あの感じが無い。


聖水はどこかから流れてきて、どこかに流れていってるみたいだった。

アタシが水からあがると、今まで光っていた小さいプールの明かりが消えた。


センサー式で反応して光ってたのかな……。


台があって、ふかふかのタオルが用意されてた。

悪いけど使わせて貰おう。


扉の無い入り口がふたつ。

ひとつは部屋、ひとつは庭に通じてた。


部屋をのぞいたけど誰も居ない。

ベッド、小さなテーブル、棚……そのくらいがあるだけの部屋だった。

広さがある分スカスカしてた。


庭に出てみる。


庭はかなり広い。

小川が巡らせてあって、広い芝生、綺麗なお花、小屋もある。

あの小屋でケーキを食べたら楽しそうだって思った。


「お目覚めですか」


おばさんに声をかけられた。


「おはようございます……」


誰?おばさんは髪をぎゅっと縛って、怖そうな人だった。


「わたしはイザボー・ボフェティと申します。巫女様のお世話をいたしますので、よろしくお願いいたします」


「はぁ……よろしく、おねがいします」


それだけでイザボーさん?ボフェティさん?なんて呼んだらいいんだろ。

おばさんはすぐに出ていっちゃった。


お庭の一部が屋根付きの廊下になってたんだ。

おばさんが出ていった扉には、鍵がかけられててアタシはそこから外には出られないようになってた。


……戦闘のせいかな。

ダルかった。

レリオは、無事なのかな。


××××××××


いくら街道とはいえ、夜中の移動はモンスターとの遭遇率が高まる。


アルマンが操る馬車に俺は横たわったまま移動した。

時折、戦闘になったらしい音が聞こえた。

ブレンダンがいてくれて良かったと思う。


神殿に到着したのは明け方で、俺も歩ける程度には回復していた。


「アルマン、ありがとうな。……帰りは……」


夜中ほどじゃないものの、昼間の街道にモンスターが全く現れない訳じゃない。


アルマンの剣の腕のお粗末さを知っているだけに、帰りの事が心配だった。


「心配いりません。父達もそろそろこちらに向かっているはずですから」


アルマンと別れて神殿に向かう。

こんな早い時間でも参拝者がちらほらといた。


係員に俺とブレンダンの身分を明かすとすぐに部屋が用意された。


××××××××


そのまま神殿内で待たされること二日。

やっと担当者だという女性に会う事ができた。


「イザボー・ボフェティです」


通されたのは応接室のようだった。

冷たい緑色をした石の壁、繊細なレリーフの暖炉、錆びたシャングラス。


「賢者様と、ブレンダン王子ですね」


ボフェティの口調はあくまで事務的だ。


「ええ、うらら……巫女は俺たちの連れです。会いたいのですが」


彼女は険しい顔で首を横に振った。

歓迎されていないと感じる。


「巫女様はまだ目覚めておられません。お目覚めになるまでお待ちいただくか、一旦お引き取りください」


椅子に座ることもなく、それだけの応対でボフェティは部屋の奥に引っ込んでしまう。


魔力が回復してからずっと、指環とネックレスを通してうららの様子を探ってるけど、反応は無い。


まさか……もしかして、まさか。そんな事、無いよな……?


××××××××


たいくつ。

スッゴい、ひま。


起きて、運ばれてきたダー食べて、聖水に浸かってボーッとしてるだけ。


たーいーくーつーーーー。


あの、イザボーって人も最初の日しか会ってない。


退屈過ぎて本棚から本を一冊抜いてみたけど、何が書いてあるのかサッパリ。


太りたくないし、一応筋トレしてみたり、ジョギングしてみたりもしたけど、体力が落ちてるみたいであんまりできなかった。


レリオの近くに行かないといけないのに。


『命令』が出てくれたら、何が何でもかんでもここを抜け出して、ハナチラシミナモの気配を辿ってレリオのところに帰れるかもしれないのに。


今日も、テキトーに本を一冊手にとって、ぱらぱらしてみる。


『タスケテ』


そんな日本語が目に入った。


こわッ!ホラー!?


なにこれ、ホラー!?

まさかのホラー展開!?


ドキドキしながら、片っ端から本をぱらぱらしていく。


助けて、帰りたい……そんな事が書き込まれた本を何冊か見つけた。


心臓が、ばくばくするのがわかった。

めまいを感じて、あわてて聖水に浸かった。


……聖水に浸かると落ち着くの!


鍵がかかった唯一の出入口。

着替えも食事も、アタシが寝てる間に置いてあるだけ。

誰も会いに来ない毎日。


もしかして、アタシ一生ここから出られないの!?


……なんてね。


いやいやいやいや、まさかそんな事あるわけ無いでしょー……。

……無いよね?


まだ確認してない本もあるし?

もしかして隠し通路なんてあるかもだし?


そして、アタシは引き出しから誰かのノートを見つけた。


××××××××


そのまま数日。


「それで……?」


アラステア様は笑顔を浮かべたまま、指でテーブルをトントンと叩いていた。


「柵の設置は上手くいったようだけど、うららさんが連れ去られた、そこまでは了解したよ」


テーブルの向こうにはボフェティ、あとこの神殿の神官長が強ばった表情でいた。


アラステア様が来た理由は簡単。

柵設置の完了報告が無いから様子を見に来た、だ。


アラステア様もアラーナ様も、近くの街で警戒にあたってくださってたんだけど、いつまでたっても俺からの連絡が来ないと言って俺を探しに来てくださったんだ。


「うららさんはわたしの友人でもある。会わせていただこうか」


アラステア様の静かな怒りを感じる。


「レリオが報告書を作ってくれないと、帰れないものでね……?」


神官長の顔が青ざめている。

ボフェティはため息をついた。


「本当に、巫女様はお目覚めになってらっしゃらないんです」


ボフェティによると、いつ、誰が見に行ってもうららは寝ているらしい。

ただ、食事や着替えはしているので一日にわずかな時間だけは起きているのではないか……ということだった。


××××××××


アタシはお庭のベンチから、壁を眺めてた。


こう……あそこに足をひっかけて、タタタってやったら、外に出られるんじゃないかな。


すっごく、ここって、たいくつ。

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