戦って、戦って、そしてよく寝る (2)
膠着している。
イザボーは手を止めて、戦場を見た。
酷い怪我人は数名だけだ。 大部分の者は疲労が原因で戦場に戻れないでいる。
状況は膠着しているように見える。賢者の顔つきが厳しいものになっている。
新しい怪我人は来ていない。手が空いたイザボーは戦闘を眺めていた。
目を引くのは白い衣装を身に付けた少女だ。
あれは、さっきサボっていた少女ではないだろうか。
今、戦闘に参加しているのは20名かそこら。
その中で彼女は目を見張る程の大きな戦力になっていた。
「彼女、凄いですよね」
先程治療したばかりの男性、ユークがイザボーと同じ方向を見ていた。
「俺、あの子と一緒に旅した事があるんすよ。
あのときも強かったけどここまでだとは思わなかったなあ……」
そう言うユークは立つのがやっとな程、疲弊していた。
イザボーの視線の先で少女がよろめいたような気がした。
長い戦闘。
進んでいるように見えない賢者の術。
前の巫女様の力が宿る聖水はもうない。
あと、どのくらい彼らは持つのだろう。
モンスターが居なくなれば、『柵』の設置は終わるのだろうか。
××××××××
戦闘に参加できる人数が減ってしまい、俺がいる所からでも、うららの姿がよく見えるようになった。
うららが持つ武器、『ハナチラシミナモ』のうち、『花散らし』つまり鞘は俺が預かっている。
最近のうららの戦闘スタイルは、剣で攻撃を受け流した後に鞘で殴るというか……ちょっと俺の常識ではあり得ないんだけど、とにかく打撃中心のもの。
それなのに鞘を俺に預けるなんて、心配すぎる。
でも今は見守るしかない。
集中して、魔力の展開を維持していく。
俺には賢者の仕事がある。
状況は、思っていたよりまぁ良いほうだ。
ただ、あと1、2回、モンスターが居なくなる瞬間があってほしい。
柵はほぼ、両端とも繋ぎ終えた。
今は弱いが街の人間の祈りで、これは強化していってもらうしかない。
魔法陣を使って後ろから流れ込んできていた、支援の魔力は弱すぎてもうあてにならない。
あとは俺の力でこの柵に近いこの荒れ地が『吹きだまり』にならないようにどれだけなだめられるか……。
あと1回でいい。
できれば、2回。
モンスターが居ない一瞬が欲しい。
××××××××
「……っと!」
落っこってた槍につまづいた。
最初の頃より、出てくるモンスターは弱くなってきてる。
でもアタシ達も疲れてる。
横目で見たブレンダンの動きはキレが悪くなってきてた。
「うららさん、おつかれかーぁ?」
軽い調子で声をかけてきたのはジェフロワさんだった。
彼もまだ、頑張ってた。
頑張ってたけど、やっぱり怪我してた。
「うららちゃん、1回下がろう」
ブレンダンが険しい顔になってた。
確かに、ちょっと柵から離れすぎてるかも。
あんまり遠くまで出てく必要なんて無いんだ。アタシ達はあの柵を守る事が役目らしいんだから。
「おぅい!もう少し、柵寄りに下がるぞぉ!!」
辺りに響く大声を張り上げながら、ブレンダンはアタシを乱暴に柵の近くまで引っ張った。
アタシの足がもつれて、また転びそうになる。
「ちょっと!」
文句を言ったけど、聞いて貰えなかった。
軽く放り投げられるみたいにして、柵の内側に放り込まれた。
「……ぅ!!」
「ごめんなさいっ!!」
アタシの下敷きになったのは、なんて偶然!知り合いだった。フランツさんのところのユークさん。
「いや……大丈夫……」
あ……かなり大丈夫じゃなさそう。ごめん。
でも、アタシはまだ大丈夫!
みんなと違ってちょっとしか怪我してない!
けっっっこう疲れてるけど!!
見回したら、聖水が入った樽が見えた。
そこに行って、汚れてしまった手と顔を洗う。
ついでにアタシの剣、ミナモも。
ほんの少しだけだけど、疲れが消えた気がする。
そして、最期の聖水を飲んだ。
助走をつけて、ハードル走の感じで柵を飛び越えた。
これだけ長い間、レリオの魔力に晒されてたらさ。
ひとつふたつ、アタシにもわかることってあるんだよね。
戦闘はもう少しで終わる。
でも、もう少しかかる。
今戦える人たちは疲れきってる。
今控えてる人たちが戦えるようになるまでは、もう少し休憩が必要。
今、アタシの足元に落っこってる剣の持ち主は、どこだろう。
良い剣じゃないのか、扱いが悪いのか、魂が感じられなかった。
刃に触れたら、切れ味が悪い。
仕方ないからミナモを使った。
さすがミナモ。指の腹をちょっと切っただけだとぜんっぜん痛くない。
血を1滴、拾い物の剣に垂らした。
それだけでその剣は気持ち悪いくらいに真っ赤に染まる。
ミナモを宙に投げる。飛んでけっ!
これでミナモはきちんと鞘に収まるはず。
アタシは真っ赤な剣の腹を、両手で挟んだ。
剣が砕け散る。戦場に散らばっていく。
アタシの意識はぐんぐん広がっていった。
××××××××
「うらら……?」
ミナモが、鞘であるハナチラシにスッと収まった。
俺は集中力を乱さないように顔を動かすと、うららが真っ赤な剣を砕いていた。
きらきらと破片が風に乗って広がる。
持ち主に忘れられたらしい、戦場に落ちていた武器。
それらが一斉に、モンスターに襲いかかった。
今だ!
何が起きているのかはわからないが、うららが作ったチャンスを逃してはいけない。
俺は魔法を強める。
魔力を操り、荒れるモンスター達の気配を収めていく。
××××××××
イザボーには何が起きているのかわからなかった。
ただ、使いきった筈の、巫女様の力が宿る聖水がもう一樽、どこかから出て来た。それは治療や疲弊していた戦士達の回復に大いに役立った。
何人かはそれで戦場に戻っていった。
ちらりと戦場を見たとき、誰の魔法だろう、大量の武器がモンスターを倒しにかかっていた。柵からまばゆい光が放たれ、新たにわくモンスターが塵となって消え去り、誰かれともなく喚声が辺りを包んだ。
膠着しているとばかりイザボーが思っていた戦いは、一気に収束に向かっていた。
あの武器を操る魔法……まるでここに、巫女様がいるかのようだ。
××××××××
ぐらりと視界が揺れた。
俺はなんとか踏みとどまる。
やりきった。
これから3日は寝たきりになるんだろう。
それから灯台の修理だ。
うららは大丈夫だろうか。
「ありがとうございます、賢者様!」
役人の声に片手を挙げて応えるのも億劫だった。
「あああわわわわわわーばばばばっ!!」
緊張感など皆無の、間の抜けた悲鳴が聞こえる。
スライムなら、その辺の誰かに倒してもらえ。
××××××××
「あああわわわわわわーばばばば!!」
あまりに緊張感の無い声に、イザボーは顔をしかめた。
辺りから失笑が漏れている。
先程大活躍していた少女だ。
もう、ふざけているなんて。
万歳の格好でスライムから逃げている様は滑稽だった。
スライムなど、子供が石を投げてでも倒せるモンスター。
……あれに抗えない人を何人か、イザボーは知っていた。
全員華奢で繊細で、顔が青ざめたような、儚い方達だった。
あの少女、あの平凡な顔立ちの、あんなに強い少女にはとても当てはまらない。
イザボーの目の前で少女が転んだ。
いつの間にこんなに湧いていたんだろう、というほど大量のスライムが少女のもとに集まってきていた。
見る間に少女を取り込んでいく。
息が出来ないのだろう、少女は悲壮な顔をしてイザボーに片腕を伸ばしてきた。
だって、さっきまであんなに強かったじゃない。
……この少女はスライムと戦えないらしかった。
××××××××
終わった!らしい!!
だって、柵が光りだした。モンスターが一斉に消えていく。
ハナチラシミナモじゃない、他の武器を操るのは、不思議な感覚だった。
自分が広がる感じだった。
「つかれたぁ……」
アタシは寝転ぶ。
土の冷たさが気持ち良かった。
「……ごめんね」
武器達を操るために、ひと振り剣をダメにした。
今アタシが操った武器達にも印がついてちゃってるかもしんない。
仕方ない。持ち主には諦めてもらおう!
犠牲になった剣だって魂が無かったんだから、許して!
さて、早く柵の内側に入ろ。
アタシがこれをやったんだもん。
『スライム』がいつ出て来てもおかしくない。
「よっこ……」
ぐんにゃり。
うわぁ……。スライムだ……。
スライムにさわっちゃったぁぁぁ……!
「あああわわわわわわーばばばば!!」
スライム、スライムスライムはムリ!!
ぐんにゃりぶにぐにしてて、とてもじゃないけどムリ!!
「ごぉふっ!!」
コケた。
足がもつれた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ助けて誰か!!
あーーーれーーーーっ!!
オータースーケー!!
ひんやりとした感触が。
アタシ、
ついに、
捕まった。(ヤバイ助けて)
全身から力が抜けて、
必死に手を伸ばしたけど、
息は出来ないし視界が暗くなってきたしでもぅ!!
これで死んじゃうとか、死んだのに元の世界に戻れないとかだったらマジ運命を呪うわ。
……あと!夢オチでオネショはもっと無しの方向で!!神様!!




