海辺の街を楽しんでみよう (2)
「ただいま」
灯台の下見を終えた俺は、とりあえず宿屋に戻った。
「おかえり」
俺の憧れ、白いワンピース姿のうららがいた。
「うららちゃん、それ……どうしたの?」
うららはテーブルの上に並べていた貝殻を俺に見せてきた。
「これ?待ってる間にね、暇だったからブレンダンと浜辺で拾ってきたの」
貝殻の話じゃなくて!
なんで肩出しワンピース!?どこから!?くそ、ブレンダンの趣味か?
ああサンダルもそういうのじゃなくてもう少し華奢なデザインのほうが俺は好みなのにっ!
ワンピースも、もう少しだけウエスト絞ってある方が……。
腰にリボンとかどうですかね!?
いや。
これはこれで可愛い。(心の中だけでガッツポーズ)
しかし……ブレンダンと二人で浜辺行ったのか……いいなぁブレンダン。
「ね、レリオ。お祭りやってるんでしょ?一緒に見に行きたいねって話をしてたの。行けない?」
はい。
もちろん行きますとも。
「良いよ、行こう」
××××××××
日本の夏祭りだと、例えば浴衣とか、なんか和風っぽい格好をする人がけっこういると思う。
ここ、アテル王国でのそれはスモックみたいな服だった。
スモックて……ほら……幼稚園生が着てるみたいなやつ。
丈が腰くらいで、袖がないけど、どう見てもスモックだよねぇ。
スモックを着て、男の人も女の人も頭に貝殻で出来た輪っかの飾りをつけてる。
見なれてないアタシには……なんていうか、ずいぶんマヌ……じゃなくて変わった感じに見える。
「この辺だと髪飾りが貝殻なんだな」
髪飾りもなんていうか……輪っかとしかいいようのない……。
テレビとかで見る、酔っぱらってネクタイを頭に巻いてるサラリーマンをなんとなく思い出した。
「ほらっ、ふるまい酒だ。飲んでけ!」
お祭り会場に大きなタルが置いてあって、オジサンが小さなコップを3つくれた。
「これは!美味い酒だな!」
一口飲んだブレンダンは本当においしそうに残りを飲み干してた。
「だろう、でも2杯目からは有料で頼むな!」
オジサンがガハハと笑う。即席で作られたっぽいカウンターを指さした。
そこには大きなコップが並べて置いてあって、ブレンダンはさっそく買いに行ってた。アタシも飲んじゃお。
ここ日本じゃないし、お祭りだし!
コップに唇を近づけたら、お花みたいな素敵な香りがした。
さあ、これから飲もうっ!……ていうところで、コップをレリオに取り上げられちゃった。
香りしかアタシは味わえてない。
「ダメだよ、うららちゃんの世界ではまだお酒を飲んじゃいけない年齢なんだろ?」
耳元でささやかれる。あっちの世界の話をした時、飲酒が許される年をごまかして言っとけば良かった。
「ここ、日本じゃないもん。一口くらいアタシも飲んでみたい」
アタシもレリオの耳元に顔を近づけて、小さい声で抗議した。
なんでささやき声で話すのかって?『アタシの世界』だとか、『日本』だとか、人に聞かれたくないもん。
レリオは目を細めて、アタシを見下ろした。そして、
「あ!」
くいっ、くいっとふたり分のお酒を一気に飲み干しちゃった!
せっかくの、お酒を飲めるかもしれなかったチャンスが!
「……これは……アルコールが少しキツいな」
レリオの頬っぺたがほんのり赤くなってた。
「でも、美味しい。俺も買おうかな」
アタシから取り上げたコップの中をのぞきながら、そんなことを言い出した。
「え!ズルい、アタシにはくれないくせに!」
「これは、うららちゃんにはまだ、早い」
レリオがなんか色っぽく、流し目で言うものだから、ほら……お祭りに来た女の子達が喜んでるよ?
ちょうど近くを通ったお姉さんが顔を赤くして、一緒にいた女の子に話しかける瞬間が見えちゃった。
「ほい、うららちゃんにはコレ」
ブレンダンがカウンターから戻ってきた。
アタシ用にって飲み物をくれる。
「アルコール、入ってないだろうな?」
レリオがアタシのストローをくわえて、かってにジュースを一口飲んだ。
「……ん、大丈夫みたいだ」
「おま!!お前!コレはうららちゃんに買ったヤツ!」
レリオはカウンターにお酒を買いに行っちゃった。それを追いかけて、ゴニョゴニョと何かをブレンダンが言ってる。
……ちょっと。
お祭りとはいえ夜中に女の子をひとりで置いていくかな。
ストローをくわえて、ブレンダンが買ってくれたのを飲んでみる。
昼のとは違うジュースだった。
甘くて、爽やかで、これもお花の香りがする。おいしい。
「うわぁぁ!!」
ブレンダンがアタシを見て、とつぜん大きな声を出した。
え!?なに!?
「か…か…間接…キス……」
うわ。
ブレンダンてそんなこと気にするタイプなんだ……。
アタシは嫌いな人相手じゃなきゃ、気にしないから。間接キスって言っても、どうせレリオだし。
レリオだって気にするタイプだったら、アタシの勝手に飲んだりしないよね?
「間接キスなんて、キスに入らないと思うけど。ね?」
お酒を買ってきたレリオに同意を求めたら、レリオもうなずいてくれた。
あれ?……なんか………レリオ、いつもよりニコニコしてる?
レリオって、お酒が入るとご機嫌になるタイプなのかも。
それから3人で歩いてみる。
あっちからも、そっちからも楽しい感じの音楽が流れてきてる。
ここではギターに似た楽器。あっちではリコーダーに似た楽器の生演奏。竪琴みたいなのもある。
夜店が通りの両脇にずらりと並んでた。
紐で吊るされた灯りはちょうちんみたい。光る四角い入れ物がたくさん吊るしてある。
なんだか美味しそうな香りがした。
輪投げだとか、手品とか、小物屋さんとか、陶器だとか、布だとか。そういうお店がたくさんある中に、イカ焼きとか、焼き鳥みたいのを薄いパン生地みたいのにお肉と野菜をラップしたのが売られてた。
びっくり!!
しかもけっこう売れてる。
「ね、ね、レリオ、アレ買ってアレ!」
どう見ても、綿菓子なものを見つけたからおねだりしてみる。
「ん?いいよぉ」
あれ?かなり、酔っぱらってる?落ち着いてて、爽やかで紳士ないつものレリオとはちょっと違う。
なんか、へらへらしてる。楽しそうだけど……あの……やたらと肩を抱いてくるのがうっとおしいんですけど。
手を払っても叩いても、効果がないから少しあきらめてきてる。
これだから、酔っぱらいは。
レリオはさっきのお酒を3杯、ブレンダンはもっとずっと飲んでるから、お酒臭い!
ついにはブレンダンが飲み過ぎたとか言って、先に宿屋さんに帰っちゃうし。
「けっこう楽しめたし、アタシ達も帰ろうよ」
「うららちゃん、海を見に行こうか」
海?ずいぶんいきなりじゃない?
でもきっと、綺麗な夜空が見られるかも。
「いいけど、レリオは大丈夫なの?」
なんとなく……足元がおぼつかないような……。
「大丈夫だよ、うららちゃん」
ニコッといつもの優しい笑顔。でも顔が近い!
肩を!抱くの!やめて!!
ほんっとにお酒臭いから!
肩に乗せられた手を強く叩いた。
それでもってもう肩に手を回されないように、手をつないで歩くことにした。
××××××××
うららと手を繋いで浜辺を歩く。
賑やかなお祭り会場と違ってここは静かだ。
俺の予想通り、夜空と、海と、灯台の灯りが綺麗だった。波の音と、少し聞こえる祭りの音。
うららは白いワンピースを着ていて、時々俺の顔を見上げてくる。
俺が微笑むと、はにかんだように笑ってくれる。
……ここなら、今なら、いける!
女の子は、大抵ムードに弱い(俺調べ)。
「……座ろっか」
俺は微笑んだ。
今夜、このムードの中でなら、今度こそちゃんとキスできるはずだ!!
「夜の海辺って、涼しいんだね」
うららが俺の隣に腰を下ろす。
「凄く綺麗な景色……」
この夜景に、うっとりとした表情をしている。
手を伸ばせばさらさらとした感覚を味わえそうな程、近くにきらめく星が見える。
絶えることの無い波の音は強くなったり、弱くなったりをランダムに繰り返し、耳をくすぐる。
楽しげな祭りの音や笑い声は風にのって、遠くから漂うように。
灯台は柔らかく、浜辺をほの明るく照らしている。
風は優しく、うららのふわふわとした髪を揺らす。
俺はしばらくうららの横顔と、ぷるんとした唇を見つめていた。
手を伸ばして、指先でうららの柔らかい頬にそっと触れてみた。
少しビクリ、として上半身だけで俺の方を向いた。
「レリオ?」
顔を少し近づけて、うららの瞳をじっと見つめる。
星をちりばめた黒曜石のような瞳。
「レリオ……?」
「……うららちゃん」
ゆっくりと、ゆっくりと顔を近づけて……あと数センチ、というところで止める。 互いの息がかかる距離だ。
うららの甘い香りがする。
「キス、してもいいかな」
答えなんて聞かない。
そのままあと残りの数センチ……………。
は、
縮まりませんでした。
うららはそのまま顔を離して、立ち上がった。
スカートについた砂を払いながら、俺を冷たく見下ろしてきた。
「レリオ、お酒臭いから顔を近づけないでよ」
かなり良いムードだったよね!?
あと数センチ、お酒臭くさえなかったら行けたんですかね!?
……泣きたい。




