海辺の街を楽しんでみよう (1)
「うわぁ…!海!」
高台からの景色にうららの喚声が上がる。
それを見た俺の頬もつい緩む。
そう、海だ。
海と言えば夕方に白いワンピースを着たうららと一緒に歩きたい場所、ナンバーワンですよね……!
残念ながら今は旅装。
着替え持ってきたから。白いワンピース持ってきたから。期待してるから……!
いや、うららの今回の旅装だって王都で最高級の物を俺が選んで、また強化したものだ。
凄く似合っている。なかなかよろしい。
今回は、背中のリュックサックを選ぶ時だけはうららに選ばせてあげました。
……でもさ。うららが選んだその茶色のリュックより、その隣に置いてあった濃い茶色にピンクの縁取りがしてあった商品の方がやっぱり可愛かったんじゃないか?
と、思ったけど口に出すのは我慢する。
『また全部レリオが決めちゃった』とうららが怒ってたんだ。
見た目だけじゃなくて、耐久性とか附属効果とかいろいろあるんだって……!見た目も勿論あるんだけど!
決して俺好みの服を着させてる訳じゃないとわかって頂きたい。
俺の今回の仕事は、この先の街にある灯台の修理。
灯台の修理なんて俺の専門外な気がするんだけどなぁ。アラステア様の依頼だから仕方ない。
「灯台のある街には何日くらい滞在するの?」
ほとんど崖と言いたくなる道を、3人で協力しながら降りていく。
そう、3人。
先を歩くブレンダンの手にうららがつかまって、キツい段差を降りる。
「灯台の状態しだいかな?3、4日で済ませたいところなんだけど」
そこ!いい加減手を離せよ!
俺はブレンダンを睨み付ける。確かに今歩いてる街道は、山道らしくゴロゴロとした大きな石が落ちてたりする。
もともと綺麗に石畳が敷き詰めてある街道だなんて、王都だとか裕福な街くらいだ。
この先の街に行くのに、もしも馬車を使いたければ、道幅が広い方の街道を大回りするしかない。
そんなんじゃ、旅をするのに一週間は余計にかかる。
「うららちゃんは海ばっかり見てて、いつ転ぶかわからないから」
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
すっ、と自然にうららの方から手を離した。
ブレンダンは物欲しそうな顔でさっきまで繋いでた手をわきわきしてる。
ざまぁみろ。
でもすぐ、うららは岩に足を取られて転びそうになった。
「うわ!」
すかさず後ろを歩いてた俺が支える。
ふわふわの髪が鼻先をかすめて、良い香りがした。
「海は街についたらゆっくり見られるんだから。ちゃんと足元見て歩かないと」
「はぁい」
うん。良い笑顔だ。
街に近づくにつれて!道はだんだんとなだらかで歩きやすいものになっていく。
「ね、スゴくない!?この道、貝殻でできてる!」
うららは貝殻をひとつ拾った。そして俺達に見せようとする。
その動作から……一瞬鋭い顔つきになって、それを投げた。
投げた方向を見ると、かなり遠くでネズミ型のモンスターが光となって消えていくところだった。よく届いたな。
俺はまだうららに剣を教えている。
でも、うららが『命令』に従って戦う時は、投げる動作が基本になってるみたいだ。
投げる動作に向いた武器が必要もしれない。今度作ってみようか。
素材は山ほどあるわけだし。
「もう、せっかく綺麗なのだったから、レリオに見てもらおうと思ったのにっ!」
え?
……俺?俺に?
モンスターのいた辺りを見たけど、それらしいものはもう見当たらない。
「……そっか。残念だったね」
主に俺が。
白けた貝殻が敷き詰めてある街道部分の外は、砂とゴロゴロした岩ばかりだ。
ところどころに緑色が見えるのはハマヒルガオだろう。この季節特有のあせたような青色の空に、白い雲はわっふわっふとしている。
世界が美しい。
「ねぇねぇ見て、ブレンダン、トカゲ掴まえちゃった」
『俺』に『貝殻』をくれようとした感激を、今ブレンダンは味わっているんだろう……何故かトカゲだけど。
あ、
トカゲにも逃げられてら。
××××××××
海辺の街はなんだかにぎやかで、うきうきしちゃう雰囲気だった。
混んでるらしくて、宿は3人一室の所しか取れなかった。
仕事で来てるからって部屋が用意してある訳じゃないみたい。
ベッドはちゃんと3つあったし、シャワー室前の脱衣場にも鍵はかかるし、問題ない……と思いたい。
きっと、夜中にブレンダンが何かしてこようとしてきても、レリオが何とかしてくれるハズ。レリオ、よろしく!
「なんで着いていっちゃダメなの?」
これからレリオは灯台の様子を見に行くんだって。
それなのにアタシの事を連れていってくれないなんて。
抗議の意味で思いっきりにらんでやった。
レリオは困った顔をしてる。
長めの前髪をジャマそうにはらってから、その手で自分の頬をなでてた。
「だから、灯台の辺りは聖域になってるから簡単に誰でも行っていいわけじゃないんだって……」
納得いかない。
きっと灯台の上から海とか眺めたら楽しいにきまってるもん。
最近は魔法を使うお仕事の手伝いとかさせてくれるのに、なんで今回はダメなの?
「助手なら問題ないでしょ?」
「ゴメンね、そう簡単じゃないんだ」
困った顔のまんま、頭をポンポンされた。
「じゃ、行ってくるから」
ひらひらとふられた手を、がっし!ってつかんでやった。
そんなんでナットクいくかーーー!!
連れてけ!
「え?え?」
アタシの勢いにレリオはすっごく驚いてた。それから一呼吸置いて、いつもの優しい笑顔を見せてくれる。
「……今日は下見だけだし、すぐに帰ってくるから」
「…………うん」
ここまで粘ってワガママ聞いてくれないんなら、あきらめるしかないなぁ……。
しかたないから一番近くにあったベッドに座って、指輪に触った。
レリオのにお……じゃなくて魔力を感じる。
つまんないの。
落ち着いた焦げ茶色をしたドアを見る。
縁取りのつもりなのかな。縄模様みたいな彫刻がしてあった。
ドアノブは安っぽい、少しメッキのハゲた金色。さっきブレンダンが開けた窓からは波の音。
この部屋からも海が見えるのかもしれないけど、今はそっちを見る気分じゃないし。
「うららちゃん、退屈なら少し外に行くかぁ?」
ブレンダンは荷物を片付けてた。
「んー……。そうしよっかなぁ。その前に、着替えていい?」
部屋に置いてある貸し服に着替えよう。
「それならさ、貸し服屋に行かないか?たまには自分で服を選んでみたいだろ」
ブレンダンがウインクした。
へえ。
初対面の時にいきなりアタシのことを運搬したりとかあったから、ブレンダンってやなヤツだなって思ってた。
実はそこそこ良い人なのかもしれない。
そうだよね、レリオのお友達だもんね。
××××××××
貸し服屋さんは宿屋のすぐ隣にあった。
ワンピ、ミニスカート、Tシャツ、ブラウス、作業着、水着……品揃えが良くてびっくり。
で、このコスプレ衣装としか思えないような神官服にメイド服あたりにどんな需要があるのかな……。
宿屋とおんなじシステムで、今まで着てた服は洗ってくれるサービス付き!助かる!
少し……実はけっこう時間かけて悩んだけど、普通にリゾート風のワンピを選んだ。海だし!
あと、合わせて帽子とサンダルもね。
お会計をレリオに貰ったおこづかいで払おうとしたら、もうブレンダンが済ませてくれてた。
「ほい」
ブレンダンは先に着替えてお店の外にいた。何かのジュースを渡される。
「ありがとう。いくらだった?服のぶんも……ちゃんと払うね」
「いいよ」
ニカッって笑う。
「俺、レリオ程じゃないけどちゃんと金持ちだから」
こんなんでも王子サマだったっけ。こんなんでも。
ジュースは冷たくて甘くて、美味しかった。
そのままぶらぶらと歩いてたら、海に降りられる道、発見!!
「ね、浜辺に行ってみたい!」
時間は夕方近い。
明日ももし晴れたら水着を借りて、海で遊べるかも!
レリオよりもブレンダンって背が高い。
見上げたら、またニカッ!て笑ってた。
歯が白いなー……。
浜辺でサンダルを脱いでみる。
波打ち際っていうか、浅い所を歩いてみた。海水の冷たさが気持ち良い。
白い崖の上に灯台が見えた。
「レリオはあそこでお仕事してるの?」
「んー、たぶんな」
砂浜に灯台。そしてこの世界は夜になると星がよく見える。
ここから見る夜景ってかなり綺麗なんだろうな。
「うららちゃん。見て」
綺麗なピンク色の貝をブレンダンが見せてくれた。
「かわいい貝。いいな、アタシも欲しい!」
ピンク色のだとか、白いのだとか、綺麗な貝を拾ってさっきジュースが入ってたコップに入れた。
「ブレンダン見て、こんなに拾ったの」
ブレンダンもたくさん拾ってた。
「俺もこんなに取ったぞ!」
レリオと比べたらブレンダンってガッチリマッチョ体型。
そんな大男……は言い過ぎだけど、そんなブレンダンがちまちまと貝殻を拾う姿がすごく面白かった。
「これ、持って帰れるかなぁ」
アタシはコップの中を覗いた。
リュックサックの中に入るかな?うん。入りそう。
だんだん日がかげってきて、ポツポツと街に灯りが灯されてきてた。
家の屋根と屋根に紐が渡してあって、たくさんの灯りがぶら下がってる。あれ、この感じは……。
「お祭り?」
ブレンダンの肩を借りて、サンダルを履いた。
肩幅広いなぁ。
この人本当に王子サマっていうより、軍人だとか将軍だとか傭兵だとか……とにかくそんな感じ。
ニカッ!て笑うし。
「一度宿屋に帰って、後で祭りを見に行かねぇ?」




