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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
20/75

暗殺者 (2)

身体がすっごくだる重い。

なんとかがんばって、瞼を持ち上げる。


レリオのお屋敷にあるアタシの部屋だった。

なんだ……やっぱりもう少し寝てよ……。

仰向けだったから、横向きになる。


「うらら!?起きたのか!?」


レリオの声がうるさい。


「うららちゃん、て呼べと何回も言ってるでしょ……あれ?」


声がかすれて、上手くしゃべれない。


そ れ よ り も。

なんでアタシの寝室にレリオが居るの?

文句言うついでに起き上がろうとした。でも、ダルすぎて起きられない。


「良かった……!」


なんだか感極まった感じのレリオに抱き締められる。レリオのにお……じゃなくて魔力を強く感じた。


「ちょっと!?レリオ?」


ナニゴトデスカ!?

そういえば……ものすごい怪我をしてたような気がする。


あ。

思い出したっ!


「えっと……レリオは、怪我してなグァ」


グァって言ってない言ってない!

けどこのままじゃ抱き締め殺される!

必死に、ちょっとだけ動く手で抵抗してみる。


「シヌ……」


「あぁあごめん、つい……」


空気がおいしい。

うららちゃん感激……!

自由って素敵!!


やっと解放されたし起き上がれた。

やっぱり身体が重苦しい。なんだかくらくらする。

そのうち、アラステアさんとアラーナさんがやって来た。


「お怪我はすぐに治せたのですけれど、一部の武器に毒が仕込まれておりまして……」


支えてもらいながら、アラーナさんに薬を飲ませてもら……にがっ!


「怪我は魔法で治せるんだけどね。毒は薬で治すしかないんだよ」


アラステアさんに鼻をつままれて、無理矢理口をこじ開けられた。痛い。

すっごく良い笑顔で残りの薬を無理矢理のどに流し込まれる。


ヒドイ。


この人たちヒドイ。

と思ったらアラーナさんがアラステアさんに文句言ってくれてた。


「おにいさま……?少し手荒過ぎます」


やっぱりアラステアさんがヒドイ。ってことにしておく。


「熱があるんだから、また寝てなさい」


ひどい風邪を引いた気分だ。

アラステアさんに頭をなでられたら、まぁ、不思議。

すとんとまた寝ちゃった。


次に目が覚めたのは夜中。


だるさはもう消えてた。

うん、元気!


起き上がったらレリオがベッド脇の床に落っこってた。

看病してそのまま……ってやつ?


喉がとっても渇いてた。台所にいって水飲も。どうせなら、聖水飲んじゃおう。


井戸水が塩素きつめの水道水なら、聖水の味はミネラルウォーター。何をするにも、とにかくひたすらだんぜんとっても聖水がオススメなのだ。


お肌に塗れば化粧水+乳液の使用感!

お風呂に少し入れたらお肌つやぷる!

シャンプーに使えば髪がさらさらそしてまとまりやすく!

洗濯に使えば汚れがさっぱり綺麗に!

お掃除に使えばホコリや汚れがつきにくく……!


なんてすばらしい。


飲めば疲れが取れるし、ちょっとした病気を治すお薬変わりに使われているらしいし。


アタシがやたらと聖水を使うことにレリオはびっくりしてたけど、ここには使いたい放題の井戸がある。


病み上がりなんだもん。使ってもいいよね?

とは言っても、聖水の湧き出る井戸は作業小屋とレリオの小屋にしかない。お屋敷の中にもあればいいのに。


階段を降りて、表に行こうとして、窓の外が見えた。

『アレ』が見えた。


月が明るい。

庭はもうほとんど元通りになってた。


その、庭で、アタシを刺した金属がふよふよと……。


コワッ!!!


これ、ヤバイやつだ。

あわててしゃがむ。


なにこのホラー映画っぽい展開。


ちょっと顔を出して、庭の様子をうかがってみる。

ふよふよと浮いた金属……が、地面に刺さった。


ざすっ!


って音がしないのが不思議な勢い。……コワッ!


聖水は諦めよう。

問題は、アレに気付かれないで、どうやって部屋に戻るか。

気付かれたらとっても嫌な事が起きる予感が……ホラー映画的な展開がありそうで。


すっごくコワイ。

ホラー映画で最初に死ぬキャラにはなりたくない。


ホラー映画と言えば……アレに聖水をかけたら、どうなるんだろ?


よし。


やろう。いっちゃおう。

なんか変に使命感が出てきた。

アタシがやらずに誰がやる!真夜中テンションレッツゴー!!


ドアの前にスタンバイ。

呼吸を整えたら、ドアを開けて……っ!

……走るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!


なんだか後ろから『ざすっ』って音がたくさん聞こえるけど気にせず……っていうか気にしてるけど走る!


たぶん、ううん絶対、立ち止まったり足をゆるめたら全身にアレが刺さって死んじゃう!!


……走りながら気がついた。


小屋のドアを開けるためには、立ち止まらないといけないんじゃないの?


腕をアレがかすった。


(ヤバイかもしんない)


直後にひらめく。

作業小屋の裏手の小川!

あの小川、ちょっとだけだけど聖水が流れ込んでる!


方向転換。


肩にアレが刺さった。


ほとんど倒れるみたいにして、小川に飛び込む。振り返ってみたら、100本よりも多いアレ……金属の棒が浮かんで、アタシを狙ってた。


アタシは小川の水をばしゃばしゃとアレにかける。

とってもマヌケな格好だけど仕方ない。


小川の水は月明かりに照らされて、光っているみたいだった。

何本かの金属の棒が、アタシとアレの間に移動してくる。

ノリでこんなことをやるんじゃなかったって激しく後悔する。


何本かの金属の棒が、100本を越える金属の棒の塊に向かって飛んでいった。


きん、きん、と金属の打ち合う音。

そして、いきなり、全部の金属の棒が地面に落ちた。


がっしゃぁぁぁぁん!!


耳が痛くなるくらいの大きな音がした。


わーん……わーん……。

あんまり大きな音だったから耳がおかしい。

何が起きたのかわかんないけど、イノチビロイしたっぽい。


「こわかった……」


アタシはその場に座った。

小川の水に腰まで浸かっちゃった。

冷たさをあまり感じなかった。


で、また、アレが浮いたからシャレにならない。


ひぃぃぃぃぃ!?


ヤバイ。

これヤバイやつだ。


詰んだ。


ひゅって一本がアタシに向かって飛んでくる。

その横から別のが飛んできて、ソレを弾く。



ひゅっ、ひゅっ、と数本飛んでくる。

また、横から別なのが飛んできて弾く。


わけがわからないよ?


「大丈夫か!?」


走ってきたブレンダンが、アタシの前に立った。飛んでくる金属の棒を次々に切り落としていく。


ていうか屋敷の中に居たんだ?

さっきまで100本位あった金属の棒はどんどん数を増やしてた。

まさか、500本までは無いと思いたい。


「うん。大丈夫……。」


ブレンダンてすごいんだね。剣の腕前が。


「なにやってるんだよ!」


ぐいっと腕を引っ張られた。

レリオに引きずられるみたいにして逃げる。


レリオもアレを切り落としていく。


みるみる金属の棒は数を減らし、ついには全部がぶったぎられて地面に転がった。


掴まれてる腕がすごく痛い。レリオがものすごく怒ってるのがわかった。


レリオが怒ってるのってやっぱり怖い。


「えっと…ごめんね?」


とりあえず、謝っておく。


「何に対して謝ってるの?」


ものすごく不機嫌な声が返ってきた。

ずんずん引っ張られて、屋敷の中。

ソファに座らされる。


「終わったみたいだな」


アタシたちより後にブレンダンが来て、おや?て顔をしてから近くの椅子に座った。


「何をやってたの?」


ひぃーん……。レリオが怖いよぉ……。


レリオはアタシの前に腕を組んで仁王立ち。さっきのも怖かったけど別な意味で今も怖い。泣きそう。


「え、と……」


「なんで一人で行ったの?」


「最初は……喉が渇いて……」


「なんで俺を起こさなかったの?」


怖いよぉぉぉぉ……。


「おい、レリオ。アレは確かに怖すぎて呼びには行けねぇよ」


ブレンダン、あなたもしかして良い人!?


「それでも一人で行くこと無かっただろ!?」


はぁ、とレリオの口からかなり苛立ったため息。


アタシはレリオの顔を見上げた。


「何しに庭に行ったの」


「最初は……その、だから……喉が渇いて……」


「水ならここにあるでしょ」


「聖水がいいなーって……そしたら庭にアレがたくさん浮いてて……」


「それで?」


「怖すぎて誰も呼べませんでした」


「じゃあなんで庭に出たんだよ」


「……聖水をアレにかけたくて」


「なんで」


「聖水をかけたら、無力化できるかなーって……」


また、レリオの口から乱暴なため息。

きっとものすごく頭にきてて、殴るとかを我慢してるんだ。


「おい、誰も怪我なかったんだし、結局無効化できたんだからいいじゃないか。許してやれよ」


ブレンダン……ありがとう……!


「ちょっとブレンダン、来いよ」


レリオとブレンダンは部屋の隅で何か話し始めた。

でもさ、聖水かけたら本当に一回動きが止まった訳でしょ?


後半はなんでそうなったのかよくわかんないけど、金属の棒同士でカンカンやってただけじゃん?


それに、さっきまでアタシ寝込んでたんだから、聖水が欲しくても仕方ないんじゃない?


レリオがコップに水を入れて持ってきてくれた。


「喉が渇いてたんでしょ」


受け取る直前、水が光って、レリオが聖水に変えてくれたとわかった。


「(手間をかけさせて)ごめんなさい」


「もう、いいよ……着替えて寝て」


聖水を飲んで、階段に向かう。


レリオとブレンダンはまだ話があるみたい。


(レリオ、明日は許してくれるかなぁ)


そう言えば、アタシの怪我はいつ治ったんだろう。刺さった気がしてたんだけど。


××××××××


しゅん、とうなだれながら部屋に向かう姿を見て、きつく言い過ぎたことを申し訳ないと思う。


「で、ブレンダン。お前……さりげなく好感度あげようとしてなかったか?」


小さな声で悪友に文句を言う。


「お前ら別に付き合ってる訳じゃないんだろ?じゃあ、いいじゃねぇか」


ブレンダンも声を潜める。

俺はまた、ため息をついた。


まさか、コイツがうららに好意を持つとは思わなかった。


「ぷるぷる震える子犬みたいで可愛かったな……」


おい、ブレンダン。うららの部屋の方角を向くな。

だけど、


「あの上目使いはヤバかった……」


俺も同じ方を見てしまう。


うららがああいうことをしたのは、また何かの命令だとか、勘だとか……たぶんそんなものだろう。


とにかくうららに怪我が無くて良かった。


「なんで俺の事を起こさないようにとか、変に気を使うかな」


俺は頭を抱えた。


「アラステア様ももしかして……」


アラステア様の女好きは病的なものだ。間違いなく狙われるだろう。


「うららちゃん、アラステア兄さんに言われて顔を赤くしてた」


「阻止だ、阻止」


そりゃ、うららはアラーナ様とかと比較するといろいろなところがそれなりでしかない。いろいろ。ごめん、うらら。


でも、あの小柄な身体とか、ふわふわした髪とか、変に甘えてくるところとか……。


「しまった」


今ならどさくさ紛れにおやすみのキスができたかもしれなかったのに!


ブレンダンはしばらく俺の家に泊まると言い張るし、断ろうとしたのにアラーナ様が護衛にいいとか賛成するし。


しばらくはブレンダンがうららに変なちょっかいを出さないように目を光らせないと……。


××××××××


着替えて寝るにしても、小川に座り込んだからけっこう泥だらけだったりする。お風呂場に行こう。


着替えを持ってお風呂場に向かう途中、レリオとブレンダンがこそこそと何か話し込んでた。


脱衣場で服を1枚脱いだら、重い何かがボトリと落ちた。


アレだ。

金属の棒。

細くて、両端が尖ってて、30センチくらいあって、さっき襲ってきたやつだ。


「レリオぉぉぉぉぉぉ!?」


「なに!?」


「どうした!」


すぐに脱衣場の戸が開いて、レリオとブレンダンが来てくれた。


ソレがすう、と浮く。


《神殿に……行かねば、殺される》


「え?」


ボトリ、とまた落ちた。


いつもの命令みたいに頭に言葉が浮かんだ。

でも、いつものとは何かが違った。

声が違う、って言うのが一番近い。


声が聞こえたわけじゃないんだけどね。


金属の棒からはもう、なにも、感じない。

終わったんだ。


アタシはソレを拾って、


「いつまでこっち見てるのよ!」


横向きに(だって縦に投げたら血を見る)投げつけた。


そして急いで戸を閉める。

服を全部脱ぐ前じゃなくて良かった……。

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