女の子、拾っちゃいました
「うーん……」
俺は少し困っていた。
森の入り口に変わった服装の女の子がいるのは気づいてたんだけど、まさかこんな奥まで来るとは思わなかった。
「森の中に置いてけぼりにするわけにいかないしなぁ……」
美少女、という程じゃないけど、小柄でけっこう整った顔立ちの少女だ。
「よっ」
……思ってたより、重い。
今のはなかった事にしようそうしよう。
女の子の身体にむやみやたらと触っちゃいけないって死んだじーちゃんは言ってなかったけど、きっと良くない!
辺りを見回す。
この辺は強いモンスターが出てくる。
別に俺はなんともなくっても、この子は危険だな……。
ゆさゆさと揺すってみる。
「おーい……。おーい、おきろー?」
「ん…」
ぷるんとした唇が色っぽいとか思ってないから。
「おきろー?ここは危ないぞー?」
がばり、と彼女は飛び上がるように立ち上がった。
激しくキョロキョロと辺りを見回す。
「今は大丈夫みたいだけど」
彼女はあからさまにホッとした顔をした。
「ね、キミ、変わった服装だね。どこから来たの?」
「アナタ!たぶん勇者的なヒトね?お願い助けて!ここはどこなの?安全な場所はあるの?」
俺の両腕を掴んでわめきたてる。
黙っていれば可愛いってタイプだ。うん。
とりあえず、近くの、俺の荷物を預けてある宿へ連れていく事にした。
××××××××
「それで、よくわからないけどアタシ、気がついたらここにいたんです……」
一晩明け。
少し古びた宿の食堂で、涙ながらに話す彼女。
つられたのか、村の大人達が涙ぐみながらウンウンとうなずいている。
彼女はこのまま、この村で暮らしていけるだろう。
そろそろ次の村に行きたい俺は、その場をそっと離れた。
いや、離れようとした。
「なんで置いてくのよ」
少しふてくされたような上目遣いがかわいいなとかは思わない。
「アタシを独りにするの……?」
潤んだ瞳がキラキラしてるとか思わない。
「ほら、旅ってモンスターが出たりして危ないし、俺は旅の途中だし、キミは」
「キミじゃないわ、うららちゃん」
マントを握りしめる、小さな手の爪が桜貝みたいだなって俺は、絶対、思ってないから。
「あー……うららちゃん?」
「なぁに?」
「うららちゃんに、旅は、無理」
「……そうなの?」
……沈黙。
なんでこの村の住人はこの子をとめないんだ!?
「モンスターが出て危ない。その格好では長い距離はとてもじゃないけど歩けなさそうだ。それに」
一旦溜めてから、形の良い鼻を小突いてやった。
「うららちゃんには宿代も御飯代もない」
こういう事はびしっと言ってやったほうが良いんだ。
この子に旅は無理だと思う。
だいたい、長く歩ける様な格好だとも思えない。
「村人みんなでカンパすれば、ちょっとした旅装程度なら見繕えるんじゃないか?」
村人1、余計な事を言わないで欲しい。
「ちょっと古いけど、あたしのマントをあげてもよいわよ?」
村人2!
なんでそんな物を持ってくるの!?
うららちゃんは輝く様な笑顔で村人達を見ている。
……そして30分後。
ちぐはぐだけど、旅装を整えたうららちゃんが完成した。
この村の住人は俺にうららちゃんを押し付けたいらしい。
挙げ句に弁当と少しのお金まで渡されていた。
俺は大きなため息をつく。
うららちゃんは小躍りして村人にお礼を言っていた。
まぁ……気をつけて旅をすれば……なんとかなるだろう……。