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うららちゃんはゲームをやらない  作者: ササガミ
1章 うららちゃんはゲームをやらない
16/75

名を呼んで欲しい (2)

うららの恐るべき早着替えのあと、馬車で森を目指す。

つい先日俺達が通り抜けた森とは反対方向、山の麓だ。


馬車、そしてぞろぞろといるアラーナ様のお付きの方々。

日帰りで用が済むか、数日かかるのかは誰にもわからない。彼らには森の入口でキャンプをしながら待っていて貰うことになる。

俺達4人だけが森に入った。


なぜか、先頭をうららが歩いている。


「うらら、なんでお前が先に行くんだよ」


俺の呼びかけに、うららは顔をしかめた。


「うららちゃんて呼んで」


はいはい。

なんで『ちゃん』にこうまでこだわるんだ?


長い間人が入っていないらしい森なのに、比較的歩きやすい。うららのルート取りが上手いせいか。


「で、なんでうららちゃんが先に立って歩いてんのー?」


最後尾を歩くブレンダンが聞き直してくれた。


うららはたまに立ち止まっては進む、を繰り返している。動物的な感で辺りを警戒しているつもりらしい。


「レリオを一番連れてちゃいけない方向に向かってるの。

きっとそこに強いモンスターがいるはずでしょ?」


そんな能力、いつ身につけた!?


「うららさま、素晴らしい能力をお持ちなのですね……!」


アラーナ様は素直に感心していた。

ブレンダンにも動揺はない。

一番付き合いが長い筈の俺だけが驚いてた。


やがて、多少開けた場所に出る。


「居そうだな」


ブレンダンが辺りの木についた傷を撫でる。

目の前の山肌には掘られたような穴。

真新しい巣らしい。


「よくここまでモンスターに会わなかったな」


「ちょっと遠回りしてちゃんと避けたもん」


初めて会った時にはそんな能力も無かった。


「ドラゴンは、今はいるかわかる?」


試しに聞いてみる。うららは首を傾げながら、巣の入り口を見つめていた。


「いるよ。すぐに出てくるんじゃないかな」


その言葉で全員が耳を澄ませた。

虫の鳴き声。風の音。遠くで鳴く鳥の声。


ドラゴンの、呼吸音。


うらら以外の全員が構える。

ドラゴンが姿を見せた。


アラーナ様が準備していたらしい攻撃魔法をぶつける。俺はこんな狭い場所では攻撃魔法は使えない。ブレンダンと俺は剣を構えて地面を蹴った。爪と牙を避けて切りつける。


耳障りなドラゴンの鳴き声が鼓膜を震わせる。


アラーナ様は攻撃魔法と弓で攻撃している。

アラーナ様にドラゴンの攻撃が向かわぬように、俺とブレンダンは剣を振るう。

太い前肢が目の前をかする。

紙一重でかわし、前肢、返す刃で胴体にも切りつける。


「あ!」


木の根に足をとられたのか、アラーナ様がよろめいた。そこに向かってドラゴンがブレスを吐こうとしている。


俺は咄嗟に守護魔法を唱える。アラーナ様の前に、土の壁が出来た。この距離でのブレスは俺も危ない。ドラゴンから離れないと!


そう思っているのに、鋭利な鉤爪と太い尾はなかなかそれを許してくれない。


××××××××


全身の筋肉が、ここから逃げたいとこわばってる。

あの、頭に浮かぶ文字が、レリオを守れと命令してくる。嫌な感じがする。


でも、アタシはどうしたらいいかわからない。邪魔にならないように後ろに立つのが精一杯だ。

アタシは魔法を使えないし、剣だって……まだ、そこまで上手く出来ない。


もどかしさを感じる。


アタシにはまだ出来ない、って感じ。

アタシにだって出来るハズなのに、って感じ。


嫌な感じは強まってくる。


レリオが何かして、アラーナさんの前に土の壁が出来た。

ドラゴンというよりもコウモリの羽が生えたでっかいトカゲ。その口が光る。


《レリオを守れ》


「分かってる!」


アタシは本能のままに剣を抜いた。

青みがかった、綺麗な銀色の剣。

右手に剣を、左手に鞘を握る。

違和感を感じて、とっさに右手と左手を持ち替えた。

頭の中が真っ白になる。


走って、レリオの襟首を掴んだ。ブレンダンのいた方にレリオを投げ飛ばす。


光が強くなってきた。

熱を感じる。剣を投げつける。

鞘を横に持ってアタシの前に付きだす。淡い光が鞘の回りで光ってたのを、どこか冷めたアタシが綺麗だなって思ってた。

投げた剣がドラゴンの肩に刺さったのを見て、剣を手元に呼び戻す。


熱い光がアタシの真っ正面、鞘に当たったのを感じる。


ものすごい力だ。


アタシはもう一回剣を投げつけた。意識を集中して、剣の軌道をコントロールする。


刺され、喉に!


熱い光が止まった。

ドラゴンの前肢を踏み台にしてかけ上がる。鞘でドラゴンの鼻先を殴る。

剣をまた手元に呼んで、そして、


「アラーナさん、トドメ!」


切りつけようとした。ドラゴンが首を振る。アタシは簡単に飛ばされて、地面に背中から叩きつけられた。


息が出来ない。痛くて、苦しい。


衝撃。地面が響いた。


ドラゴン……倒せたのかな。


レリオを探す。

レリオにひどい怪我が無いといいんだけど。


ちゃんと名前を呼んでくれてたらもっと上手く出来たのに。


名前?何の名前?

視界が暗くなる。こないだみたいに意識を失うんだとわかった。


××××××××


「………ら……うらら!!」


暖かい。

レリオの匂いがする。


「うららさま……うららさま……!」


これは誰の匂いだろう?


違う。


これ、魔力ってヤツだ。

アタシはゆっくり目を開く。


まぶしい。そこはけっこう広いテントの中で、レリオとアラーナさんがアタシの顔を覗き込んでた。


「うらら、大丈夫か!?」


レリオがべたべたとアタシに触ってくる。やめてほしいんだけど。レリオの手をぺちんと叩いた。


「うららさま……ドラゴンのブレスに飛び込まれるので心配いたしました……」


「うららちゃん、凄いなー。それにこの剣。一体どうなってるんだ?」


ブレンダンがアタシの剣を眺めてる。

じろじろ見られてるのがちょっと嫌だった。だから剣を手元に呼び寄せる。

剣はブレンダンの手からするりと抜けて、アタシの所にふんわり浮いて来た。


3人が、ものすごく驚いてる。


「え?」


「は?」


「うぇぇあ!?どうやった!?」


「どうって……。そういうモノじゃないの?」


アタシは剣を抱き締めて、みんなから隠す。

さすがに瞬間移動は無理だけど、呼べば剣は手の中に収まる。これがアタシにとっては当たり前なんだ。


「それ、レリオが創った剣か?」


レリオがうなづく。


「剣の名は?」


「まだ、考えてない」


「ハナチラシミナモ」


アタシの口から勝手に言葉が出てきた。


そうだ……これが刻まれた名前。

みんながまた不思議そうな顔をした。

アタシは隠してた剣を取り出す。

剣を宙にかざした。

真っ白い鞘はお花のレース模様。


「鞘の名前は『花散らし』剣の名前は『水面』だよ。ちゃんとそう呼んで」


××××××××


剣の名前は、剣を創った者が定める。

それはこの世の理のひとつ。

創った者が剣に名を与え、持ち主が手にして名を呼んだ時、剣は真の能力を発揮すると言われている。

俺が創ったにしては繊細過ぎる装飾の剣は、まだ名前を考えていなかった。


「『ハナチラシミナモ』」


それはうららが勝手に決めつけた名。

俺がそれを呟いくと、うららの手の中で剣と鞘の色が変わりだす。


純白の鞘はピンク地に白の蔦模様、青みがかった銀色の剣は空を切り取ったような青色に変化していた。


俺は剣を創ったが、剣の所有者じゃない。今だって握りしめているのはうららじゃないか。

今までだって俺が自分の為に打ち、俺が使うと決めた剣以外に名前を呼んで反応した武器なんて無かった。


でないと商品を売れない。


ならなんで今回は、所有者であるはずのうららの声ではなく、俺の声で変化した?いや、そもそもなんでうららが剣の名前を決められたんだ?鞘に名をつけるなんてのも聞いた事がない。


それ以前に、なんでうららは剣を手元に引き寄せるなんて事ができるんだ?

なんで俺の命令を聞いたり俺に着いてこようとする?


いや、もっと基本的な事だ。


うららは何者だ?


俺にはうららが、小柄で整った顔立でふわふわした髪の良い匂いがする女の子にしか見えない。


でも普通こんな愛らしい女の子がこの俺を半殺しにしたり、ドラゴンに立ち向かったりするか?


「まぁ、なんて素敵なお名前でしょう。

……うららさま、先程のように剣を手元に引き寄せる技、どのようになされたのでしょうか?」


「え?来いって思ったら来るものじゃないの?」


俺の思考が冷えていく。

アラーナ様はあくまで王族らしく驚いて見せた。


「うららさま、わたくしそのようなお話を耳にした記憶がございません。ですからとても興味深いと感じているのです」


ブレンダンがわしわしと頭をかいた。


「その、剣を手元に呼ぶってのは、『ハナチラシミナモ』以外でもできるのか?」


「できるわけないじゃん」


「例えば、うららちゃんがもう一振り剣を持ったとして、それなら出来るんじゃないか?」


ブレンダンの問いにうららは小首を傾げた。

それは、自分の中の何かと相談しているようにも見えた。


「ううん。出来ない。今のアタシにはこの『ハナチラシミナモ』しか使えないと思う。ていうかやりたくない。それはとても失礼な事だと思う……」


言いながら更に首を傾げる。

もう振り子のように左右に首を振っている。

しまいには何故か俺に助けてくれと言う眼差しを送ってくる。

そんな……小動物のような目で見られても。


俺は自分の前髪をちょっと払ってから、うららの肩をぽんぽんと叩いた。


「とにかくうららちゃんが無事で良かった。

明日、ゆっくり話をしよう?」


疲れた頭で考えたって何もわからないんだから。


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