名を呼んで欲しい (1)
「俺は命令するぞ、家にいろ」
「やだ、絶対ついてく」
「これは命令だ、家から一歩も出るな!」
「これは譲れないよ、もしオッケーくれなくて旅装も武器もかくされちゃってもぜったいぜったいぜーったい後から追っかける!」
「あの……レリオさま……」
「命令だって言っただろ、破ってまた倒れるつもりか!」
「なったってついてくもん!!」
「おい、レリオ……」
早朝。
俺とうららは言い合っていた。
アラーナ様とブレンダンがおろおろしてるのが脇に見えるけど、これは譲れない。
「ブレンダン、手伝えよ。
うららを鎖で繋いで地下室に閉じ込める。ブリュノ、鎖を持ってこい!」
「かしこまりました」
うららの今の服装は、淡い桃色のロングドレス。
対して俺たちは完全な武装。
動きやすさ、人数、完全にこちらが有利だ。
「捕まえるとかね!ひどいと思わないの!?」
うららの目付きが変わった。
あの厄介な言葉が頭に浮かんでいるんだろう。
「……やった!」
うららが微笑む。
俺は、構える。勿論怪我をさせたくないから剣は抜かない。
「命令か?」
「『レリオに着いていけ』って」
だからドラゴンは危ないんだって!
俺は一瞬でうららにつめより、気を失わせるため腹部を殴ろうとした。
「レリオさま!?」
アラーナ様の悲鳴に似た声がする。
気を失わせて……地下室に閉じ込めておけばさすがに諦めるだろ。
ちょっと酷いけど。
うららの腹部に向かって突き出した腕は横から弾かれた。
うららの反撃だ。
その勢いを利用したのか、さっと横に飛び退く。
長いドレスの裾は邪魔にならないのか?
すかさず追いかけて、俺は鞘をつけたままの剣を振るう。
うららはしゃがんで……足を払うつもりか?俺は警戒する。
いや、うららはしゃがんでからジャンプした。
俺の鞘を足蹴にして、テーブルに乗り移り、ブレンダンの肩も踏み台にして、リビングから玄関に容易く出てしまう。
「レリオ、アタシの事は置いていけないよ」
うららは人差し指で宙を差した。
むしろ神々しいポーズにも見えた。
「レリオをまもれって書いてある」
俺の命令だけが絶対って訳じゃないらしい。
俺に協力してくれるつもりらしいブレンダンが、うららの腕を掴もうとした。
うららはその手を逃れて少し駆けて、表に出た……そして、いきなりがくりと崩れた。
「うらら!!」
俺はアラーナ様とブレンダンを押し退けるようにうららの所へ走った。
やっぱり俺の命令も効力あったじゃないか!
倒れてはいない。しゃがみこんだうららを捕まえて家の中に連れてくる。
「おい……どういう事だ?」
ブレンダンが当然の疑問をぶつけてくるが、回復される前にうららの行動を制限したい。
「レリオ様、鎖をお持ちしました」
ブリュノから受け取った鎖で手足をぐるぐると縛る。
「うららちゃんには、俺の命令を聞かないとダメージを受ける魔法がかけられてる」
うららの顔が苦痛に歪むのは、鎖が痛いからじゃなく、俺に着いて来られなくなったからだろう。
俺の予想だけど、命令違反にはペナルティが課せられる。
いや、……必ずしもそうとは言えないのか。
前に選択型の命令が出てた筈だ。
なら、なぜ今回は選択型の命令にならなかったんだろう。
「なんだよ、その悪趣味な魔法」
「レリオさまがおかけになった魔法なんですか?」
俺、今、ブレンダンとアラーナ様に凄く軽蔑されてる気がする。
「わからない」
置いていって、ごめん。
うららの柔らかい髪を撫でた。
うららにも命令の魔法の話は初耳だったはずだが、彼女は『連れていかないと殺すぞ』って顔しかしてない。
ペナルティの苦痛はもういいのか?思ったよりも回復が早い。
「魔力は俺のだ。でも俺はそんな悪趣味な魔法を知らない。それに魔法をかけたのも俺じゃない。……さ、行こう」
俺はうららに背を向ける。
背後からはガチャガチャと鎖に抗う音がする。
俺だってうららと行きたいです!
むしろふたりっきりで行きたいです!
でもドラゴンってモンスターは危険過ぎる。
ブレンダンと俺、二人がかりでアラーナ様を守りながら戦うのがやっとだろう。
うららまでは、守りきれない。
「あの……レリオさま、その……うららさまにはずっとずっと後方に待機していただくというのはむずかしいのでしょうか……?
あまりに憐れで……」
アラーナ様につられて振り替えると、鎖を解こうとして手首から血を滲ませているうららがいた。
意地でも後から着いてくるつもりだ。
なんだよこの健気な生き物……。
「さっきの動きが出来るんなら、大丈夫じゃないか?」
ブレンダンがアラーナ様に同意する。
さっきまで暴れていたうららが、小動物的なきゅるんとした目でじっと俺を見上げてくる。
「………だめ?」
「……わかった。着いてきなよ」
だってかわいいんです。
つい、言うこと聞きたくなっちゃうんです。
「でも、俺たちはうららちゃんまで守りきれないよ。自分で自分を守れ」
「もちろん!」
大丈夫かな……不安になってきた。




