森を突っ切れ
「足はまだ痛くない?」
「大丈夫だよ」
左手の少し先には森があって、時間で言うなら、日が傾き始めてるくらいになってる。アタシ達のずっとずっと前に、次の街の門が見えてきてる。
「なら、いけるよね」
「いけるって……何が?」
レリオはゆっくりと首を動かして、辺りを見回した。つられてなんとなく、アタシも周りを見回してみる。
アタシたちの少し先を歩く人が、何人かいる。アタシの歩くペースが遅いせいで、アタシたちの後ろを歩く人は居ない。
いきなり腕を掴まれた。
「そっちはっ!」
街道のはしっこから出たらダメ!
レリオの足が街道から出る。続いて、引っ張られたアタシも。
頭の中に文字が浮かぶ。
《街道に戻る》《レリオに着いていく》
どうしよう!!!?
レリオはぐいぐいアタシを引っ張っていく。これは突き進むってやつだ。ぐんぐん突き進んでく。
レリオは早足だけど、アタシは走らないと追い付けない。
ここは危ない、夜は危ない。
振り返るともう、あんなに街道が遠い。
街道に近いところに生えてる雑草は芝生みたいなのに、ここまで進んじゃうと膝丈くらいある。
歩きにくいし、足元の安全が確認しにくい。
アタシたちと街道の間を、犬みたいな影が横切った。
レリオに着いていくしかないっ!
もともと、レリオに着いていく以外アタシに選ぶ道なんてない。
でもなんで、よりによって夕方に街道を出るの!?
「レリオ待ってよっ」
レリオに着いていくって思ったら、いきなり体が軽くなる。
やっと話しかける余裕が出来た。
でもレリオは聞いてくれない。
どんどん暗く見える森の方に行っちゃう。
いつもの優しいレリオとは少し違う感じがした。
強引?無理矢理?爽やかオーラが無い?
「夜はモンスターが多いんじゃないの?」
危ない方にわざわざ行くことないじゃん!?
「ここを抜けると、すぐクロウェルドに着ける」
やっと返してくれた言葉はそれ。
だから、モンスターと会うかもって話はっ!?
「うららちゃん、剣を抜いて」
レリオは走りながら剣を抜いたけど……あの……アタシ、普段、両手で剣を握ってるから……。
走りながら、レリオに掴まれてる腕を見る。
これじゃ剣を上手く持てない。
抜けって言われてるし、仕方ないか。
剣を呼ぶ。
左手にアタシの剣が収まった。
「モンスターとの戦いは、攻撃力があればだいたいいける」
レリオはとっくに剣を抜いてた。
早足のまんま剣を振る。切ってる、っていうより、ただ振ってるみたいに見えるんだ、レリオって。
目の前で木の枝が飛んでいった。
「うららちゃんの攻撃力はよくわからないけど、その剣の攻撃力なら、とにかく当たりさえすればモンスターは撃退できると思ってくれて構わない」
「ねえっ、一晩休んでからでも良かったんじゃない?」
夜よりも昼間のほうがモンスターは少ないんじゃ無いの?
「夜でも昼でも、そんなに変わんないだろ」
アタシもレリオの真似して、剣を軽く振った。
ぱりん、と少し離れた所で音がした。何かをやっつけたみたいだ。
「ね、もしかして朝までこうやって駆けていくつもり?」
そんなに体力無いんだけど。
「いけるだろ?」
だから……いけるかっ!体力無いって言ってるのっ!
文句を言おうとして、口を開きかけた。
でも、レリオが急に止まるから、タイミングを逃したっ!
……イラッ。
レリオの背中から、前を覗いてみる。
「モンスター……虫?」
目の前には大きな影。
これは……ずいぶんと大きな……虫さんだねー……(現実逃避)。
レリオの手がアタシの腕から離れた。
現実逃避をやめて、アタシは剣を右手に持ち変える。これならいつでも両手持ちになれる。
カミキリムシにそっくりな虫(体長3メートルくらい)はゆっくりこっちを見た。
「うららちゃん、やってみて」
って無茶振り!?
このタイミングでその冗談はツラいっ!
「こんなにおっきいのと!?」
「大きいから簡単に当たるよ」
……冗談のつもりじゃなかったみたい。
辺りはかなり薄暗い。
アタシはたっぷりと言っちゃいたい文句を、全部剣に込める……とかなんてしない。
怖いから、ちょっと走ってちょっと切ってさっさと逃げるっ!
パシャァ……ン!
それでも背後からはモンスターが消える時のあの音がした。
「ねっ?」
「ね?っじゃないっ!」
アタシは座り込む。
「足が痛いからちょっと休みたい……」
嘘はついてないよ。
だって、朝陽が昇る頃からずっと歩いてたんだもん。
昼間に休んだけど、そのあとは休んでない。ちょっとは休みたい。
「足、見せて」
……良かった。優しいレリオだ。
森に入ってからのレリオ、ちょっと怖かった。
レリオはアタシの足に靴の上から触れる。
その手と、靴の間から光が少し漏れた。
足が暖かい。
レリオの良いにおいがした。
きっとレリオには、この森を突っ切る理由があるんだ。
なら、アタシは着いていくしかない。
足の痛みはどんどん無くなっていく。
「ごめんね」
レリオが真っ直ぐアタシの目を見て、爽やかに言ってくれた。
「ううん。アタシ、がんばる」
「うん。ごめんね。……ありがとう」
やっぱり優しいレリオだ。
「レリオ、行こっ!」
もう足は痛くない。いっぱい歩ける。
アタシは立ち上がってレリオの手を軽く引いた。
「さっきの質問だけど。
森の中でも、街道と同じくらいしかモンスターとは会わないよ。
ただ、会うモンスターがちょっと強いってだけ」
レリオはさっきよりも少し進むのがゆっくりになった。
これならアタシでも着いていける。
「でも、あんまりゆっくりしてると、アイツらから寄ってくるから」
「それで急いでたの?」
「うん」
でも、そもそも街道を行けばモンスターにびくびくしなくてもいいのに。って言ったら、
「俺にとってはここのモンスターも弱いからな……4日は短縮できるし」
て言われた。そのままちょっと急ぎながら森を歩いた。
モンスターはたまに出たけど、けっこうなんとかなった。
……眠い。
疲れた。
辺りが少し明るくなってきた頃、街道に抜け出られた。
「あとちょっとだから」
ほとんどレリオに支えられるみたいにして、どこかのお家に入った気がする。
「ここで待ってて。俺はやることがあるから」
ソファーにかかってた布を外して、レリオがアタシを座らせてくれた。
「何も触るなよ?」
「わかった……まってる……」
眠い。疲れた。
ちょっとくらい、目を閉じてても良いよね?
ソファーは柔らかくて、気持ちいい。




